日常~タマゴ編~

猫にゃんにゃん

第1話 日常~タマゴ編~

今日はお客さん少ないなあ。まあでも、外が豪雨っぽいし無理ないか。


「ねえねえ、聞いてる?タマゴちゃん」

「ん――。なに?イカお姉ちゃん」

「今日あの人来ないのかな?ね、どう思う?」


この人はイカお姉ちゃん。世話好きで色白美人のいい人なんだけど、最近常連のあるお客さんに夢中みたい。


「さあどうだろ?待ってれば来るんじゃないの」

「えー、何そのどうでも良さげな態度は。なんかちょっと冷たくなーい?」

「……別にー。ていうかさ、何でお姉ちゃんそんなにあの人のこと気にしてんの?どっからどう見てもふつーのサラリーマンにしか見えなかったけど」

「確かにね。着ているスーツも巷で売ってる大量生産品だし、この間通路で向かいから来たお客さんが持ってた湯呑みの水零されても全然怒って無かったし」

「……」

「うっかり精算するときに積み上げた皿倒しちゃったり、帰るときにカウンターの下にかばんを忘れて店員の子たちが大慌てで渡しに行ったりもしてたけど」

「………」

「……でもね。別にこれは私にだけってわけじゃないみたいだけど、彼の席に呼ばれて向かうと、不思議となんだかすごく穏やかな気持ちになれるの。

たぶん彼自身の所作の一つ一つが綺麗、っていうのもあるんだけど、それだけじゃなくて漂う雰囲気というか空気が他の人と全く別物で、そこだけ切り離された空間みたいで。

そこに寄り添いたいってわけじゃないんだけど、私も一緒に居たいなあ、なんて」

「……ふ―――ん。あ、そう言えば向こうの席のお客さんが呼んでるって言ってさっきマスターがお姉ちゃん探してたよ」

「え。ちょっとタマゴちゃん、そういうことはもっと早く行ってよ。…マスター!私はここですよ――!」


マスターはすぐにお姉ちゃんを見つけて、そのお客さんの許へとお姉ちゃんを連れて行った。

――はあ。今日も平和だな。平和過ぎて、なんだかやる気でないや。


外の滝のような雨音が、一層強まったような気がした。

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