第172話 遺物の売却先とその反応

 翌日、アキラは再び少量の遺物を持って出発した。非常に大回りをしてヒガラカ住宅街遺跡まで行くと、そこで訓練などをして時間を潰した後、再び非常に大回りをしてクガマヤマ都市まで戻った。

 都市に戻ったアキラはそのままカツラギに遺物の買取りを頼みに行ったのだが、向かった場所にカツラギのトレーラーはなかった。

『今日は臨時休業か? それとも場所を変えたのか?』

 アルファが何でもないことのようにその問いに教える。

『カツラギはシェリルの拠点にいるようね』

『……。そうか』

 なぜそれが分かるのか。湧いた疑問を今更だと棚上げにして、アキラはバイクをシェリルの拠点に向けて走らせた。

 シェリルの拠点の前に着いたアキラが意外そうな表情を浮かべる。拠点は建物全体に周辺の建物まで巻き込んだ大規模な改装工事が行われている最中だった。


 拠点の一室でシェリル、ヴィオラ、カツラギが会議をしていると、徒党の少年がノックして入ってきた。

「ボス。アキラさんが来ています」

「分かったわ。カツラギさん。一度休憩を兼ねて中断しても構いませんか?」

 シェリルがそう丁寧に告げると、カツラギが揶揄からかうように笑う。

「ああ。何なら続きは明日にするか? 俺は席を外すから、お前はアキラとの仲をいろいろたっぷり深めておいてくれ。俺の商売のためにもな」

 シェリルは欠片かけらも動じずに微笑ほほえんでいる。

「お気遣いありがとう御座います」

 カツラギはそのシェリルの様子を見て、また急に随分と手強てごわくなったように思い、商売相手の心強さを感じながらも、油断ならない相手への警戒を高めた。

 少年が少し気まずそうに口を挟む。

「……あの、アキラさんはその、カツラギさんの方に用があるみたいでしたけど……」

 カツラギが意外そうな表情を浮かべる。

「俺に?」

 シェリルはアキラがここに来るのならば、それは理由は何であれ自分に会いに来るためだと無意識に思い込んでいた。それが崩れたことへの落胆などが、その微笑ほほえみを僅かに固くさせた。そして含み笑いを漏らすヴィオラに気付いて、ヴィオラに内心を見抜かれたことを察して、機嫌を少し悪化させた。

 少年はシェリルの機嫌の悪化に気付いて気後れすると、アキラの案内を口実にしてすぐに部屋から立ち去った。

 ヴィオラが含み笑いに揶揄やゆの色を混ぜる。

「そんなに簡単に機嫌を悪くすると、部下からの心証も悪くなるわ。組織のボスとしてもっと余裕を保たないと駄目よ?」

「御教授ありがとう御座います」

 シェリルは落ち着きをたもって微笑ほほえみを返した。シェリルとヴィオラが互いに向ける視線には互いの力関係が強く表れていた。

 これはシェリル側の組織内のことであり自分には関係ない。カツラギはそう言い訳じみた判断をしてシェリル達から目をらした。


 部屋に入ったアキラはカツラギの正面に座った。シェリルはアキラの隣に、ヴィオラはカツラギの隣に座り直した。

 カツラギはアキラの隣に上機嫌で座るシェリルを見てその切替えの早さに内心苦笑した後に、それはそれとして気を切り替えて話を進める。

「それでアキラ。俺に用って何だ? 注文の品はまだ届いてないし、買いたい物ができたからトレーラーを出してくれって言われても無理だぞ? 今日はそっちは休みだからな」

「遺物の買取りも休みか?」

「それぐらいならやっても良いが、買い取る価値のあるものを持ち込んでくれよ? 俺も休みの日に二束三文の遺物の買取りなんかやるほど暇じゃねえんだ。まあ、昨日みたいな品なら俺もやる気を出すけどな」

 カツラギは完全に冗談でそう言った。旧世界製の情報端末。しかも状態の良い品などそう簡単に見つかる代物ではないのだ。そのためカツラギは目の前の光景を疑った。アキラが昨日と同様の遺物を同じ数テーブルに並べ始めたからだ。

 カツラギが思わず口に出す。

「……うそだろ?」

 アキラが軽く顔をしかめる。

「疑うならその分しっかり調べて査定してくれ」

 アキラは平然としている。カツラギは唖然あぜんとしている。ヴィオラは意外そうに笑っている。この遺物が旧世界製の情報端末だと知らないシェリルだけは余り驚いていなかったが、それでもカツラギ達の態度から非常に高価な遺物だということだけは理解した。

 カツラギは良い意味でも悪い意味でも頭を抱えた。短期間で貴重な遺物を2度も持ち込まれたことは間違いなく商機だ。

 だがカツラギにも資金繰りというものがある。この手の遺物を求める企業を探し出し、選別し、高額で売れるように交渉して現金化するまで、最短でも1週間は掛かる。昨日買い取った遺物はまだ金に換わっていないのだ。

 買い取れば間違いなくもうかる遺物を、当座の金がないために逃す。それは避けたい。だが無い袖を振るために金を借りるのは覚悟がいる。資金繰りが苦しいと判断されれば利率も足下を見られる。その後の企業との交渉が難航して、返済期限の前までに現金化に失敗すれば何もかも失いかねない。

「……取りあえず、また人を呼んで鑑定したい。構わないか?」

 カツラギは一度資金の悩みを棚上げした。遺物の品質が悪ければその悩みは無駄になるからだ。同時に自身が落ち着きを取り戻すための時間稼ぎでもあった。


 部屋の中でカツラギの呼んだ鑑定人達が遺物の鑑定作業を続けている。昨日よりも大掛かりな調査機器を持ち込んでいた。カツラギが念入りな鑑定を頼んだからだ。

 鑑定人達は部屋の中にいたアキラ達を見ると様々な表情を浮かべた。しかしそこには一定の納得の色が含まれていた。

 既にその界隈かいわいの者に悪名が知れ渡っているヴィオラ。子供で弱そうな見掛けとは裏腹にかなりの実力者で、先日の大抗争でも暴れていたといううわさを持つアキラ。そのたちの悪い2人を巧みに操って手駒にしているという話が出回り始めているシェリル。その3人ならば旧世界製の情報端末という貴重な遺物を何らかの方法で入手しても不思議はない。鑑定人達はそう判断したのだ。

 昨日アキラをただの子供だと判断していた者も、ヴィオラと一緒にいる姿を見て付随する情報を思い出し、アキラに対する認識を改めていた。

 シェリルの徒党が遺物屋を再開するために大金をぎ込んでいるという話も聞いている。今回の件もその宣伝の一環かもしれない。もしこの遺物がヴィオラが宣伝用に用意した品ならばこの品質もうなずける。鑑定人達はそう思いながら鑑定を続けていた。

 アキラは座ったまま鑑定作業の様子を、自分に正面から上機嫌で抱き付いているシェリルと雑談しながら見ていた。雑談の中で拠点を遺物屋再開のために大改装中だという話を聞いて少し不思議に思う。

「シェリル。なんかここを建て直す勢いで改装しているように見えたんだけど、そんな金があったのか?」

「あ、それはですね……」

 シェリルが笑って説明しようとするが、そこにヴィオラが割り込んでくる。

「この徒党を稼げる組織にするてこ入れの一環として、私が10億オーラムほど融資をしているわ」

 シェリルがヴィオラに邪魔をするなと言わんばかりの笑みを向けるが、ヴィオラはそれを軽く流して話を続けた。

 再開する遺物屋は徒党の収益の柱にする。そのために警備の強化などを含めて拠点の内外をいろいろ改装する。高額な遺物の保管庫を兼ねた陳列販売応対用の部屋は、巨大な金庫に近い構造にする。警備用の装備も整える。素人でも重要地点を防衛しやすいように防衛機器を設置する。アキラ以外の者からも遺物を預かって販売を代行する予定で、そのためにいろいろ準備している。ヴィオラはそれらをアキラに説明した。

 アキラが驚きながらも怪訝けげんな顔を浮かべる。

「そのために10億オーラムって、よくそんな金が出せるな」

「前にも言ったけど、私はこれでも結構小金持ちなのよ。それにこの組織にアキラへの負債を返済できるほどの経済力を持たせるためには、それぐらいのてこ入れが必要になるのよ。こぢんまりした稼ぎでは1000年っても返せないわ。100億使って110億稼いで10億のもうけ。それぐらいの規模が必要なのよ。まあ、流石さすがに私もいきなり100億は出せないわ。まずは10億で様子見よ。その10億もいきなり全額使い切る訳ではないしね」

 アキラは納得しきれないように軽くうなっている。

「いや、だからって、普通10億オーラムなんて大金を出すか?」

 ヴィオラが僅かに心外そうな態度を見せる。

「あら、私がアキラとの約束を守ろうと身銭を切って努力しているっていうのに、随分な言い方ね?」

「いや、それは……」

 アキラが僅かに気まずそうにたじろぐと、ヴィオラが笑って続ける。

「そこは私が自分の実力に自信を持っている証拠だとでも思ってちょうだい。それに念押ししておくけど、融資よ。あげたわけじゃないわ」

 アキラも自分との約束を守ろうとする努力にけちは付けられない。それに何らかの口実だと思っていたあの38億オーラムの負債が、いつか本当に回収できるのならばそれはそれで有り難い。投資資金を出しているのはヴィオラであり自分ではない。アキラはそう考えて、それ以上の疑念を止めた。

「そうだな。悪かった」

「分かってもらえてうれしいわ」

 アキラが軽く笑い、ヴィオラも軽く笑って返す。するとシェリルがアキラに抱き付く力を強める。

「私も頑張ります」

「え? ああ。頑張ってくれ」

「はい」

 シェリルは力強く答えた。そして揶揄からかうように笑うヴィオラを軽くにらみ付けた。


 アキラはカツラギ達が遺物の査定を済ませた後、遺物の扱いをカツラギ達とシェリル達に任せて帰った。

 当初はカツラギ達が前回と同じ6000万オーラムの査定額で遺物を買い取る話で進んでいた。だがそこにヴィオラが買取を申し出て割り込み、その後どちらに売るかでめ始めた。

 カツラギ達とシェリル達のどちらに売るか詰め寄られたアキラは、買取額を100万オーラム単位で競うように提案した。6000万オーラムを下限にして、より高値を付けた方に売る。同額なら先に持ち込んだ筋を通してカツラギに売る。その提案は通り、アキラは取りあえず先に下限の6000万オーラムをヴィオラから振り込んでもらうと、一足先に拠点から出ていった。

 その帰り道にアルファがアキラに尋ねる。

『アキラ。今更だけれどアキラだけ席を外して帰って良かったの? あの後、カツラギ達とシェリル達が談合して買取額を低く抑えるかもしれないわよ?』

『昨日のカツラギの様子を見る限り、カツラギは買取資金を用意できない可能性だってあるんだ。それを考えれば、取りあえず6000万オーラム手に入ったんだし、カツラギ達とシェリル達が談合して利益を得たのなら今後の協力関係にも良い影響が出ると思うし、まあ、それぐらいはな』

 昨日の分と合わせれば、高性能な回復薬の補充に加えて9000万オーラム手に入ったのだ。アキラに不満はなかった。


 アキラが帰った後、カツラギ達とシェリル達の交渉は資金難のためにカツラギ側の劣勢で進んでいた。

 カツラギはシェリル達の拠点内に自分の支店を出す計画を立てており、拠点の改築資金の一部も出していた。更にシェリル達から徒党員の装備や拠点の防衛機器等の注文も大量に受けており、その仕入れにも資金をぎ込んでいた。それらを理由にした資金難により、遺物の買取金を捻出するのが困難になっていた。

 カツラギはそれをヴィオラに指摘されて難しい交渉を強いられていた。

(もしかして、アキラが昨日俺のところに遺物を持ち込んだのは、俺の資金繰りを確認するためだったのか? いや、まさか、いや、しかし……)

 カツラギは気合いを入れて交渉に臨んでいるシェリルと余裕の微笑ほほえみを浮かべているヴィオラの様子を見て、少し疑心暗鬼に陥っていた。

 シェリルからも厳しい指摘やぎりぎり許容できそうな交渉内容などが次々に出ている。カツラギはその様子に内心で冷や汗をかいていた。このままだとヴィオラがもう一人増えてしまうのではないか。そんな不安を覚えながら、難航する交渉を厳しい表情で続けていた。


 翌日、アキラは再びヒガラカ住宅街遺跡を訪れていた。そして先日と同じように訓練を兼ねて遺跡探索を進めていた。

 遺跡の中をモンスターや他のハンターに発見されないように進む訓練。バイクをアルファのサポートなしで同じように運転する訓練。見落としやすい場所にある遺物の収得訓練。アキラはそれらをアルファからいろいろ指導を受けながら念入りに進めていた。

 アキラがほぼ全壊状態の家屋の前でめ息を吐き、少しうんざり気味な表情でアルファに視線を送る。

『アルファ。やっぱり真面まともな遺物なんて全く見つからないぞ?』

『それはそうよ。真面まともな遺物がすぐに見付かる遺跡ならハンターであふれているわ。だからこんなに寂れているのよ』

『それはそうだけどさ。瓦礫がれきの撤去作業のためにここに来たわけじゃないんだ。それなりの遺物が見付からないと、張り合いがないっていうか、やる気ががれるっていうか……』

『これも遺物収集の立派な訓練なの。訓練は真面目にやらないと非効率よ。ある程度は割り切って真面目にやりなさい。私の訓練を真面目に受ける約束でしょう? しっかりやりなさい』

『……了解』

 アキラはまた軽くめ息を吐いた後、気合いを入れ直して作業に戻った。

 遺物収集の訓練が続く。遺跡の中の適当な家屋を念入りに調べる。内部が無事ならば散らばっている家具の中まで調べ、家具を動かして隠れていた床や壁を調べる。情報収集機器などを活用して隠し部屋などの存在もしっかり調べる。

 家屋が倒壊して瓦礫がれきで埋まっていれば一度瓦礫がれきを退けて中を調べつつ、瓦礫がれきの壁の部分に隠し金庫などが埋まっていないかも調べる。情報収集機器で家具の内部を調べ、隙間があれば家具を分解する勢いで開けて中にへそくりでもないか調べる。

 アキラはそれらの作業を先日からずっと続けていた。しかし収穫は今のところほぼない。全くない訳ではないが、装備に5億オーラム近い金額を費やすハンターのハンター稼業としては全く割に合っていない。

 アキラもしばらくは地味で地道なハンター稼業に精を出していたが、その散々な成果にアルファの指示でなければ既に投げ出すぐらいに意気を落としていた。

 ひびの入った食器らしい物を持ったアキラが、それを少し険しい顔で、大分嫌気が混じり始めている顔で見ている。

『実はこれが結構高い遺物だったりしないかな。ほら、前にアルファに教えてもらって、薄汚れたハンカチをハンターオフィスの買取所に持ち込んだけど、そこそこの値段で買い取ってくれただろう? そういうことがあったりしないかな』

『あれはほとんど素材の値段、旧世界製のナノマテリアルの価値よ。その食器の素材を調査するのなら、軽くたたいた時の音を情報収集機器で調べて、音波の波形から材質を推測する方法とかがあるわね』

 アキラは食器を軽くたたいてみた。勿論もちろんそれでアキラに分かることなど何もない。

『……アルファ。自力で調べるのも訓練の内なんだろうけど、ここは教えてくれ』

『その情報収集機器では精度に限度はあるけれど、恐らくありふれたセラミックス製ね』

『つまり?』

『露店で100オーラムで売れたらもうけものってところだと思うわ。万が一に賭けて、カツラギのところに持ち込んでみる?』

 アキラは黙って食器を投げ捨てた。その基準で持ち帰ると、そこら中の物を持ち帰ることになる。カツラギのところに持ち込めば嫌がらせと判断されるのは確実だ。

 アルファが苦笑を浮かべる。

『ここで素早い探査作業に慣れておけば、危険な遺跡で遺物収集を効率良く行えるようになるわ。不貞腐ふてくされていないで頑張りなさい』

『分かったよ。地味な訓練が上達の早道だ。そうだろ?』

『そういうことよ』

 アキラは半分気を取り直して、残る半分は少し自棄やけ気味になりながら作業に戻った。その後もしばらく遺物収集作業を続けたが、今日も結局ほぼ成果なしで終了した。アキラは軽い徒労感を覚えながらバイクに乗って都市まで戻っていった。


 アキラがヒガラカ住宅街遺跡を出た後、数名のハンター達が部下らしい者達を連れて遺跡に到着した。その一人が不満げな表情で仲間に声を掛ける。

「本当にここか? この遺跡は廃れてもう随分つんだ。そりゃ遺物が全くないとは言わないけどさ、やるだけ徒労のような気がするな」

「俺が知るかよ。スポンサー様からの指示は、ヒガラカ住宅街遺跡を調べろ、最近誰かが遺物収集をした跡があれば重点的に探せ、だ。成果なしでも調査結果を報告すれば金になるんだ。割り切っていこうぜ」

「それもそうか。金になるんだ。報酬分は働きますかね」

 雇われハンター達は気を切り替えて遺跡探索を開始した。


 都市に戻ってきたアキラは一度家に戻ると、遺物の詰まった箱を持ってシズカの店に向かった。店の中ではシズカがエレナ達と雑談していた。

 エレナ達とアキラは僅かな間だけ黙って相手を見ていた。微妙に気まずい雰囲気が漂っていたが、エレナがそれを払拭するようにアキラに微笑ほほえみかける。

「アキラ。久しぶりね」

「あ、はい。お久しぶりです」

「シズカから聞いたわ。ハンター稼業を再開したんだってね。調子はどう?」

「え、まあ、何とかやってます」

「そう」

 エレナは軽い戸惑いの様子を見せるアキラに親しみを込めて微笑ほほえんだ。その裏で、アキラの態度から警戒、嫌悪、疑念、敵対などの負の感情を全く抱かれていないことに安堵あんどしていた。サラも先ほどまで少し固い笑顔を浮かべていたが、アキラの態度を見て安心すると顔を和らげた。

 アキラ達の仲がこじれるような問題はなさそうだ。シズカはそう判断すると微笑ほほえんで愛想良く接客に移る。

「アキラ。いらっしゃい。今日の御用は何かしら。もしかしてまた弾薬の補充?」

 アキラが少し真面目な顔になる。

「いえ、今日は遺物の買取を御願いに来ました。以前に衣類系の遺物なら持ち込んでも良いって言われたのを思い出したので持ってきました。これです」

 アキラが持ってきた箱をカウンターの上に置く。シズカが箱を開いて中身を確認しようとする。エレナとサラも横から中身を見ようとする。するとシズカ達の表情に軽い驚きが浮かんだ。箱の中には旧世界製の女性用下着がぎっしり詰め込まれていた。

 エレナとサラが軽い感嘆の声を上げる。それは高価な遺物を大量に目にしたハンターの感想だ。女性用下着を大量に持ち込んできた異性に対する戸惑いはない。しかしそれはエレナ達がハンターだからこその感覚だ。

 シズカが箱から包装された下着を1枚手に取って中身を確認する。旧世界製の包装は中身の品質を十分に保っていた。損傷などは全く見られない。だがそれでもシズカは僅かに動揺を見せた。下着のデザインがかなり際疾きわどいものだったからだ。

 アキラとシズカの目が合う。シズカが珍しく僅かな照れのようなものを表に出すと、その気恥ずかしさが伝わり、一生懸命真面目な表情を作っていたアキラの顔が少し崩れた。

 アキラも自分の行動に完全な平静を保っていたわけではなかった。下手に意識すると余計に慌てそうだったので意識して押さえていたのだ。自分はハンターで遺物の買取を頼んだだけだ。相手も気にせず普通に対応するだろう。だから下手に変に意識する必要はない。自身にそう言い聞かせて平静を装っていたのだ。

 だがシズカが普段の余裕を少し欠いた様子を見せたため、それを見たアキラも焦りや照れのようなものを押さえるのが難しくなった。

「あ、その、以前にこの手のものを見付けたら持ってくると約束したような気がしまして、一応持ってきました」

「そ、そう。確かにそんな話をした気がするわ。うん」

 アキラとシズカはいろいろなものを誤魔化ごまかすように笑い合った。その様子をエレナ達が珍しそうな目で見ていた。

 シズカが下着をしまって箱を閉じる。そして意図的に気を切り替えて店主として接客に戻る。

「アキラ。この手の遺物は査定がちょっと難しいの。私も買い取るとは言ったけど専門家ではないから、一度遺物を預かって、その手の専門業者と買取交渉を含めた鑑定とかを済ませてからの支払いになってしまうけど、良いかしら?」

「はい。大丈夫です」

「分かったわ。では、これはお預かりします」

 シズカはそう言い残して箱をカウンターの裏手に、視界に入らない場所に置きに行った。視界に残していると変な動揺を招きかねないからだ。

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