第64話 シェリルの焦り
シェリルが拠点の自室で仕事を続けている。かなり機嫌の悪そうな表情で机に向かい、自分の仕事を何かから目を背けているような熱心さで続けている。
最近のシェリルは不機嫌な様子を続けていた。そのためシェリルの部下達は、彼女の機嫌を損ねないように注意しながら仕事をしていた。
シェリルの徒党の者達なら誰でも彼女が機嫌が悪い理由を知っている。最近アキラが拠点に顔を出していないからだ。それは単純だが、深刻な理由だ。
アキラはスラム街でシェリル達の後ろ盾として扱われている。シェリル達も多少は武装しているが、装備は対人用の拳銃程度だ。戦闘に秀でた者がいるわけでもない。シジマの徒党のように自衛できるような戦力を保持しているわけではない。
そのシェリル達がスラム街で比較的安全に活動することができるのは、他の徒党がアキラを警戒している
アキラが後ろにいる限り、シェリル達と下らない理由で
そのアキラが最近シェリル達の拠点に顔を見せていないのだ。シェリルが機嫌を悪くするのも当然だ。シェリルの徒党に所属している子供達がそう考えることは自然なことだった。
シェリルと彼女の部下である子供達の認識にはかなりの差があった。シェリルの自室にいる人間は彼女だけだ。そのためシェリルは部下達を
しかしシェリルは自分の表情を取り繕っていた。機嫌の悪そうな表情を意図的に浮かべていた。他の誰でもなく自分自身を
シェリルは湧き出てくる感情を必死に抑えていた。焦りと不安と恐怖だ。シェリルは際限なく湧き続けているそれを、自分は機嫌が悪くて
今のところは部下達を
シェリルがそこまで焦り、不安に思い、恐怖に震えている理由は単純だ。アキラと連絡が取れないからだ。
この情報端末で自分と連絡が取れない場合、既に死亡している可能性がある。以前シェリルはアキラにそのようなことを言われたことがある。そして今、正にその状況になっているのだ。
シェリルはアキラにかなり深い所まで依存している。シェリルの一見強固な精神は、アキラに助けてもらえることを軸にしている。シェリルはアキラが自分を助けると言った言葉を根拠にして、精神的にアキラに寄り掛かることで、徒党のボスとしての態度と能力を維持していた。
シェリルは自身の精神の軸が嫌な音を立てて折れ始めていることに気付いていた。それが折れた途端、シェリルは悲痛な声で泣き叫ぶだろう。
シェリルの中の冷静な部分が、
シェリルは現在の状況から全力で目を
エリオがシェリルの私室にノックをせずに入ってくる。
シェリルが表情に不機嫌と
「入る前に、ノックをしろと、言っているでしょう?」
エリオがシェリルの静かな迫力に
「わ、悪かったよ。気を付ける」
「それで、何の用?」
「アキラさんが来たぞ。ここに通した方が良いか?」
エリオのその言葉で、シェリルから放たれていた
シェリルの部屋に通されたアキラが微妙な表情でソファーに座っている。シェリルがアキラの膝の上に
シェリルはアキラの首に両手を回して上機嫌で抱きついている。アキラもある程度予想はしていた。そろそろシェリルの態度に慣れ始めてきたこともあり、アキラはシェリルの好きなようにさせていた。
シェリルが緩んだ表情で
「会えて
「ああ。ちょっと死にかけてたんだ」
アキラは
シェリルにとってアキラの生死に関わる事項は、それがたとえ冗談であっても聞き流せるようなことではない。シェリルの徒党の繁栄の
シェリルが悲痛な表情でアキラを少々非難するように話す。
「……その冗談、前にも聞きましたけど、面白くないです。冗談でもそんなことを言うのは止めてください」
シェリルが浮かべる表情は半ば意図的なものだ。声色も表情に合わせて調整している。
シェリルは日々の生活の中で相手に与える印象を操作する術を少しずつ磨いていた。シェリルが同じことを部下の子供達にすれば、シェリルの美貌がその術の威力を増幅させ、下らない冗談で相手を悲しませた罪悪感と、シェリルのような美少女に強く心配されているという強い喜びを与えるだろう。
発言自体はシェリルの偽りなき本心だ。シェリルの表情も声色も、彼女の意見を通しやすくするための強めの装飾にすぎない。
しかしアキラは平然と答える。
「
アキラの言葉が事実であることはシェリルにも分かった。アキラの表情からも声色からも事を大げさに話しているような虚飾の雰囲気は全く感じられない。
アキラが本当に2度も死にかけていたことを知ったシェリルが
シェリルがアキラの後ろに回していた手をアキラの肩に移動させて、そのまま両手を伸ばしてアキラの顔を見る。
「だ、大丈夫なんですか!?」
「見ての通りピンピンしてるよ。傷が痛むなら抱きつかせたりしない」
シェリルが
シェリルが再びアキラにしっかり抱きつく。
「……心配させないでください」
大半の人間ならシェリルを抱き締めて安心させる言葉を投げ掛けるのだろう。しかしいろいろと
「それは無理だ。ハンター稼業に危険は付きものだからな」
アキラの返事を聞いたシェリルがかなり不服そうに、とても心配そうに話す。
「それは、そうですけど……。でも……」
悲痛な様子すら感じられるシェリルの表情を見て、アキラがその理由を考える。
アキラはシェリルが自分に
アキラが押しつけた立場とはいえ、シェリルが徒党のボスであり続けるにはアキラという後ろ盾が必要だ。だからシェリルがアキラとの
逆に言えば、シェリルの徒党がアキラの後ろ盾を不要とする程に十分に勢力を増やした後は、自然に疎遠になるだろう。もうアキラの力は必要ないからだ。アキラはそう考えていた。
それを踏まえて、アキラがシェリルに話す。
「助けるって言ったから、俺が生きている内はある程度助けるつもりだ。でも俺がハンター稼業で食っている以上、死ぬ気はないが死ぬ時は死ぬ。シェリルも俺がいつ死んでも何とかなるように、徒党の強化とかしておいた方が良いと思うぞ?」
シェリルが表情を更に悲痛なものに変えて、声を震わせて答える。
「……徒党の強化はするつもりです。アキラに助けてもらって、いろいろ頼っている自覚もあります。でもアキラが死んだ時のことなんかを話すのは止めてください」
「……ん? 分かった」
シェリルの態度、悲しげな声と少し強まった腕の力から、アキラは発言を間違えたことに何となく気付いた。しかし何をどう間違えたかまでは分からなかった。
正しい回答が分からないアキラはそれで黙り、シェリルもアキラに抱きついたまま黙った。
シェリルがアキラに泣いて助けを求めて、アキラがそれに応えた時から、シェリルが
シェリルが徒党の強化を進めているのは、成長した徒党が生み出す恩恵をアキラに差し出すためだ。
既にシェリルはアキラに体を差し出している。正確にはそれをアキラに突っ返されている。
シェリルは十分に美少女と呼べる美貌の持ち主だ。スラム街の住人としては身体の発育も良く服装も小奇麗で、シェリルの総合的な容姿は都市の下位区画の平均を大きく超えている。シェリルがシベアの
そのシェリルの体を好きに使って良いとシェリルがアキラに提案しても、アキラはモンスターに襲われた際に戦力にも
シェリルにはアキラが自分を助ける理由など分からない。善行めいたことをすれば自身の不運が多少改善されるのではないか、などという何の根拠もない
今のシェリルにはアキラから受ける恩恵の見返りとして差し出せるものが何もない。そしてアキラがシェリルに与えている恩恵、つまり借りは、今も積もり続けている。
徒党の規模を拡大させ、その力でアキラに利益を返さなければ、自分を助けておいて良かったと思わせなければ、いずれアキラは自分をあっさり見捨てるだろう。シェリルはそう考えていた。
シェリルが思うほどアキラにはシェリルを見捨てる気はなく、アキラが思うほどシェリルにはアキラを切り捨てる気はない。お互いに相手があっさり自分との縁を切るだろうと考えている。そのすれ違いが、シェリルのアキラに対する執着を強めさせていた。
先ほどの会話の後の妙な沈黙を何とかしようと、シェリルが別の話題をアキラに振る。
「えっと、アキラと連絡を取ろうとしたのですけど、
「ああ、前に使ってた情報端末は壊れたんだ。今日は新しい情報端末の連絡先を伝えに来ただけだ」
アキラがシェリルを
シェリルはアキラの隣に座り、アキラと一緒に情報端末を操作して連絡先の交換を済ませた。そして情報端末を近くのテーブルに置くと、再びアキラの上に
シェリルに抱きつかれるのは終わったと思っていたアキラがシェリルを押し
「ちょっと待て。まだ続ける気か?」
「はい。連絡先の交換は済みましたから、また抱きついても大丈夫ですよね?」
「一度離れたんだからもう良いじゃないか」
「嫌です。アキラが死にかけたと聞いて
「シェリルも何かやることがあるんじゃないか?」
「優先順位の最上位を実行中です。アキラに抱きついて
「誰も見てないなら、余り意味はないんじゃないか?」
「誰か呼びましょうか?」
「止めてくれ」
シェリルがアキラと仲が良いことを知らしめるのは、徒党での地位を維持するために重要なことだ。アキラにもそれは理解できるが、誰かに抱きつかれている光景を進んで見せたいとは思わない。アキラもそこまで吹っ切れてはいないのだ。
アキラがシェリルと2人きりで部屋にいれば、徒党の他の人間が適当に推測するだろう。その辺りがアキラの妥協点だ。
再びシェリルがアキラに抱き付く。誰かに見られたらいろいろと誤解される光景であることに間違いはない。
エリオが今度はノックをしてから部屋に入ってきた。
シェリルがアキラに抱きついたまま、エリオに冷たい視線を送る。
「……エリオ。確かに部屋に入る前にノックをしろと言ったけど、それは部屋の中の人間の許可を得てから入れってことなのよ?」
エリオがたじろぎながら答える。
「わ、悪かった」
「それで、用件は?」
下らない用ならば
エリオがシェリルの気迫に
「カツラギさんが来た。シェリルに用があるってさ。一応応接間に通した。……今は忙しいって伝えた方が良いか?」
アキラほどではないがカツラギもシェリル達の活動に重要な人物だ。徒党の主な収入はカツラギの伝に
「……すぐに行くと伝えなさい」
シェリルはこのままアキラに抱きついていたい欲望を抑えながらそう答えた。
拠点の応接間のソファーにカツラギが座っている。テーブルを挟んで向かいにシェリルとアキラが座っている。その後ろにエリオとアリシアが立っている。
エリオとアリシアは徒党の他の人間の
一応この部屋には、シェリルの徒党のボスと幹部、そして徒党に関わる外部の重要人物が全て
シェリルの部下が3人分の飲物をテーブルに置いて部屋から出て行った。このような場に慣れていないエリオとアリシアが、部屋から出て行ったシェリルの部下を少し羨ましそうに見ている。
シェリルは和やかに微笑みながらカツラギに話す。
「できればカツラギさんを待たせない
カツラギが軽く笑って答える。
「いや、ちょっと近くに来たから寄っただけだ。悪かったな」
「お気になさらずに。それで、本日の御用件は?」
カツラギがアキラをチラッと見てから答える。
「最近アキラの姿を見かけなかったから、シェリルが居場所でも知らないかと思ってな。本人がここにいたんで、もう用は済んだようなもんだ」
カツラギはシェリルの部下の態度から、シェリルとアキラの縁が切れた可能性があると判断していた。カツラギが事前の連絡無しにシェリルに会いに来たのは、シェリル達の反応からそれを推し量るためだ。
カツラギにとってシェリル達はまだアキラとの関係無しに付き合う相手ではない。アキラが既に死亡していた場合、
カツラギが事前にシェリルに連絡すれば、シェリルはアキラと連絡が取れていない状況を隠そうとするだろう。シェリルの部下に対してもシェリルは何らかの手を打つだろう。それを防止、又は軽減させるために、カツラギは意図的に連絡無しにシェリルの拠点に訪れたのだ。
そのカツラギの内心をシェリルは正しく理解している。カツラギはそれを口には出さないものの、特に注意深く隠しているわけではない。カツラギの態度を少し推察すれば、シェリルがそれを知ることは
シェリルもカツラギもお互いそれを理解している。そしてそれが
シェリルとの用件は済ませたので、カツラギはアキラとの用件を話し始める。
「それでアキラ。旧世界の遺跡の探索の方はどうなってるんだ? 俺に売却する遺物を集める予定はちゃんと立てているのか? それともまだ仮設基地関連の依頼を続けてるのか?」
「仮設基地関連の依頼はもう済んだよ。同じ依頼を続けて受ける予定もない」
「それは良かった。今後は遺跡探索に戻るんだな?」
「その予定だ。と言っても新調した装備が届くまでハンター稼業は休業中なんだ。装備が届くのに2週間ほど。その後に遺跡探索で1週間程度。売りに行くのはその後だな。もう少し待ってくれ」
カツラギが不満げに話す。
「装備を新調? おいおい、それなら俺から買えよ。俺の商売を知ってるだろうが」
アキラがそれをあっさり断る。
「装備品の類いを買うことに決めている店はもう別にあるんだ。悪いな」
カツラギがより不満げに話す。シェリルがアキラの隣にいるので、いろいろと臭わせるように少し
「……あのな、アキラ。遺物も売りに来ない。俺の店の商品も買わない。そんな態度なら俺も付き合いを考えるぞ? 一緒に死線を潜った仲だとしても、限度ってのはあるんだ」
「分かった。それなら回復薬を売ってくれ」
「そんな安い物をちまちま買われてもな……」
カツラギはその程度では大いに不満だと言いたげの態度をあからさまに取っていた。だがアキラがその態度を吹き飛ばすことを話す。
「1000万オーラム出す」
「……は?」
アキラから提示された金額を聞いて、カツラギは思わず
アキラが真面目な表情で話を続ける。
「俺も効果があるんだかないんだかよく分からない安値の回復薬が欲しい訳じゃない。骨折程度すぐにその場で完治するような、旧世界の遺物並みに高性能な回復薬が欲しいんだ。最前線で商品を仕入れてきたんだろう? そういう回復薬は仕入れていないのか?」
カツラギが商売人の表情を浮かべて聞き返す。
「支払は?」
「口座払いで良いならこの場で払う。品は?」
「1箱200万オーラムの回復薬がある。店の在庫にあるから取り寄せ期間とかはない。取ってくるだけだ」
「5箱くれ」
アキラが口座払いが可能なハンター証を出す。カツラギはそれを受け取って、自身のハンター証対応端末にかざして支払い処理を済ませた。
カツラギは支払処理が正しく完了するまで本当にアキラに支払えるのか疑問だった。だが支払が正常に完了したことを確認すると笑みを浮かべた。
稼ぎの良いハンターとの
(1000万オーラムをあっさり払うか。良い稼ぎだ。それがシェリルに良いところを見せようとしただけであってもな。今のところ、俺の投資は役に立っている。これからもこの調子で頼むぜ?)
カツラギが立ち上がってアキラが買った回復薬を取りに戻ろうとする。
「良し。取りに戻るからここで待っていてくれ。ここにいるよな?」
「ああ」
カツラギが部屋から出る前に、一度振り返ってアキラに尋ねる。
「……やけにあっさり支払ったが、俺がこのまま金を持って逃げたり、質の悪いものを持ってきたりしたらどうする気なんだ?」
アキラがカツラギの疑問に平然と正直に答える。
「逃げたら追って殺すし、変なものを持ってきたら付き合いを考える」
「なるほど。今後も良い付き合いができそうだな」
カツラギはアキラの返事に満足げに笑って部屋から出て行った。
エリオとアリシアは、目の前で行われた1000万オーラムの取引を
エリオ達はアキラがスラム街の住人であったことを知っている。年齢も境遇も自分達とさほど違いのないはずの人間が、どうしようもないと思えるほどの差を付けて自分達の前にいる。それは運が良ければ自分達もアキラのようになれるかもしれないという希望を2人に与える以上に、アキラと
シェリルは
1000万オーラムを平然と支払うほどに稼ぐハンターの実力が、そこらの凡庸なハンターの実力とかけ離れていることは明白だ。シェリル達はその
シェリル達が十分な見返りをアキラに返さなければ、いずれアキラはシェリル達を切り捨てる。シェリルはそう考えている。その十分な見返りは、ハンターの実力に比例して大きくなるだろう。
最低でも1000万オーラム稼ぐハンターに対する十分な見返りは一体どれほどか。シェリルには想像できなかった。
「待たせたな。これが1箱200万オーラムの回復薬だ」
カツラギはそう言って回復薬の箱をテーブルに置く。箱はどれも片手で持てる大きさで、内容量はそう多く見えない。
アキラがテーブルの回復薬を見て顔を
「……5箱買ったはずだぞ?」
テーブルの上の回復薬の数は4箱だ。アキラの購入数には1箱足りない。
「在庫を確認したら4箱しかなかったんだ。それでだ」
カツラギはそう言って更に別の回復薬の箱を3箱テーブルの上に置く。
「お
「……まあ良いか。分かった」
「悪いな」
アキラとしては支払額以上の回復薬を手に入れることができたので何の問題ない。カツラギも200万オーラムの回復薬4箱分の取引よりは利益が上なので妥協できる範囲だ。
何よりカツラギにとっては既に代金を受け取ったのにも
懸念事項を片付けたカツラギが次の営業を早速開始する。
「ところで、今後も同価格帯の回復薬を買う予定があるなら仕入れておくが、どうする?」
「それを買える金がある時に、カツラギの所に在庫があれば多分買う。金があって在庫がなければ、別の店を探すんじゃないか? その金があるかどうかは、ハンター稼業なんだ、予想はできないな。在庫の調整はそっちでやってくれ。本職だろ?」
「ごもっとも。期待して待ってるから、金ができたら連絡してくれ」
アキラがカツラギに仕入れを頼めば、カツラギはそれを盾に売れ残りの購入をアキラに迫るだろう。アキラもそれぐらいは理解できる。アキラは適当に濁して確約を避けた。カツラギは内心で軽く舌打ちして、営業用の笑顔を返した。
カツラギが気持ちを切り替えてアキラに話す。
「ああ、そうだ。ハンター稼業を再開したらまた旧世界の遺跡に行くんだろ? 旧世界の遺物以外にも、俺が買い取れるものはいろいろある。一般に出回っていない旧世界の遺跡の場所とか、その遺跡の内部マップとかだな。アキラにそれ系の買取り先がまだないなら俺に売ってくれ。俺が他のハンターへの販売を代行しても良い。価格交渉等の面倒事を引き受ける分、仲介手数料とか分け前とかはしっかり
「遺跡の内部情報を売るとしても、地形データの形式とかはどうするんだ?」
「情報収集機器の収集データを解析したりする専門家への伝があるんだよ。よほど特殊な機器で収集したデータでない限り大丈夫だろう。旧世界の遺跡の内部を頑張って捜索したけど
「分かった。気が向いたらな。しかしいろいろやってるんだな」
「統治企業に成り上がるには、金以外にもいろいろ必要なんだよ。金も要るがな。融資も随時受け付けているぜ?」
「悪いが、そんな金はない」
「だろうな」
その後、カツラギはアキラと新しい連絡先を交換してから帰っていった。
アキラが購入した回復薬をリュックサックに詰めていく。最後に残った1箱100万オーラムの回復薬の箱を手に取り、それをリュックサックに入れようとして手を止めた。
アキラは少し考えた後、その回復薬をシェリルに向かって放り投げた。シェリルは放物線を描いて飛んできた回復薬の箱を両手で受け止めた。
アキラがシェリルに話す。
「やる。適当に使ってくれ」
「あ、ありがとう御座います」
シェリルは頑張ってアキラに笑顔を返した。つまり、シェリルは笑顔を浮かべるのにかなり努力した。シェリルの笑顔は僅かに固く、比較的シェリルと親しい者なら少々無理をしていることが分かる表情だった。少なくともシェリルが普段アキラに向けている笑顔ではない。
アキラもシェリルの微妙な表情に気づき、自分がまた何かを間違えたことに気付く。しかしアキラには何をどう間違えたかまでは分からない。
『アルファ。俺はまた何かやらかしたか? シェリル達がスラム街で
アルファがいろいろ考えていそうな表情で答える。
『私には問題がある行動には思えないけれど。そうね。アキラとシェリルは対外的に恋人とか愛人とか、そんな扱いを装っているでしょう? そういう相手へのプレゼントが何の色気もない回復薬ってのは、情緒に欠けるかもしれないわね。又は、半額セールの品を相手にプレゼントして感謝や愛情も半額になるなら、実質10割引きのおまけの品は感謝や愛情も10割引き? いや、これは考えすぎね』
『いや、そんなことまで考えて渡したわけじゃないって。まあ確かに、おまけの品ではなかったら渡さなかったと思うけどさ』
『対外的に、恋人や愛人の証拠の品として見せる物として、指輪やネックレス等のアクセサリー類と、回復薬の箱のどちらが良いかと言われたら、回復薬の箱を証拠品にするのは見栄え的にちょっと無理があるかもね』
『……ああ、確かそんなことになってたんだっけ。助けるって言ったし、何か適当にそれっぽい物を後で贈るか』
アキラとアルファは微妙にずれたことを話し合っていた。当然だが、シェリルが表情を僅かに
シェリルが両手で持つ回復薬を見ながら思う。これで更に返しきれない恩が増えた。アキラに支払うべき十分な見返りの難易度が更に上昇した。
シェリルは、焦っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます