第21話 余計なこと
アキラがクズスハラ街遺跡の中を疲れた様子で歩いている。その歩みは遅い。時折立ち止まって荒い呼吸を整えている。それでもその場に倒れ込みたい欲求を何とか振り切り、再び重い足取りで進んでいた。
歩みを遅くする原因は背負っているリュックサックの重量だ。持ち運べる限界ぎりぎりまで遺物を詰め込んでおり、脚が
「アルファ。やっぱり、ちょっと、多かったんじゃないか? 今からでも、少し、減らさないか?」
持ち帰れば確実に大金に変わる遺物。以前には持ち帰る量が少ないと文句まで言っていた。それを自分から減らそうと提案するほどに、リュックサックはずっしりと重かった。
だがアルファに真面目な表情で却下される。
『駄目よ。正直な話、私はアキラの不運を過小評価していたわ。訓練の
「それは分かってるけどさ……」
単純な不満ともまた異なる少し複雑な顔を浮かべるアキラに、アルファが少し不満げな様子を見せる。
『あら、そんな装備がなくても大丈夫なように、もっとしっかりサポートしろって言いたいの? 私だって頑張っているのよ?』
「いや、そういう訳じゃない。いろいろサポートしてもらって
その感謝と信頼に
(アルファと出会ってから、危険な目に遭う機会が
そう思いながらも、それだけでは完全には納得できずに、アキラはどこか釈然としないものを覚えていた。するとアルファが表情を不満げなものから僅かに
『全く、こんな美女が四六時中
疲労の
「
『単純にその手の興味が薄いのかと思えば、シズカやエレナやサラにはちゃんと反応しているのよね。やっぱり私には実体がないから
アキラが軽く吹き出した。そして自分はシズカ達にそんなに大きな反応を見せていたのかと思って僅かに慌て出す。
『アキラの触覚に訴えられない以上、もっと視覚側から訴えるにはどういう格好が適しているのかしら。やっぱり全裸? いえ、サラの時の反応から判断して、もっとこう、
アルファが服を一度全て消し、美しい素肌を余す所なく
光を織り込んだような布地を幾重にも合わせた装いは芸術的なまでに魅力的で、透けて見える肌は美しくも
だがアキラの反応はそのアルファの格好から考えれば随分と鈍いもので、僅かに照れる程度だった。加えて軽く
「分かったよ。俺が悪かった。文句を言わずに運ぶって。だから服を元に戻せ」
アルファが今までの
『アキラ。向こうに誰かいるわ』
「まず服を元に戻せ。あっちか」
アキラが双眼鏡でその方向を確認すると、遺跡の中を必死に走る少年の姿が見えた。
「あいつ、どっかで見たような……」
『シェリルの拠点でアキラに
「言われてみればあんな顔だったような……」
アキラも
徒党を追い出されたエリオはもう一度徒党に加わる手段を模索していた。仲の良いアリシアという少女から徒党のその後の状況も聞いていた。カツラギという協力者も得て徒党の運営も順調に進んでいると聞くと、馬鹿な
アキラの手前すぐには無理だが、一定の冷却期間を置けばまた自分を徒党に加えても良い。シェリルがそう言っていたとアリシアから教えられたエリオは、裏路地で過ごしながらも希望を見
しかしその冷却期間が終わるまで自分が生きている保証はない。何とかしてその期間を縮めなければならない。そう考えて、その手段を必死に考えたエリオは、賭けに出た。アリシアに頼み込んで銃を借りると、遺物を求めてクズスハラ街遺跡に向かったのだ。
徒党に戻るにはアキラかシェリルのどちらかと話を付けなければならない。しかし誠心誠意頭を下げれば済む話ではない。手土産がいる。そして遺跡から遺物を持ち帰れば十分な手土産になる。遺物を求めるハンターに対しても、今すぐ遺跡に行って遺物を取ってこいと言ったボスに対しても、十分な
遺跡で高価な遺物を手に入れて一夜で大金持ちになる。スラム街から
だが自分と同じスラム街の子供だった者が、その幻想に近いことを成しとげてハンターとなった。ならば自分も、その幻想と同じとまでは言わないが、その
だがエリオの賭けはあっさり破綻した。遺跡に入ってすぐにモンスターと遭遇してしまったのだ。銃で応戦を試みはしたが、慌てている上に銃の技量に優れている訳でもない。
攻撃手段を失ったエリオは、自分を食い殺そうとするモンスターから生き延びる
アキラがエリオを見ながら
「手ぶらでこんな所に来るなんて、随分無謀なやつだな」
アルファが
『そうね。まるであの時のアキラのようね。彼とアキラの違いは、彼は残念ながら私とは出会えないってところぐらいかしらね』
確かに無謀の程はあの時の自分と
双眼鏡越しに見えるのは、アルファと出会わなかった場合の自身の姿。その結末を分かり
「……そうだな。あれは俺か」
アキラはそう
『助けるの?』
「ああ。これも何かの縁だ。あいつを助けて俺の幸運の足しにしよう。……それに、ちょうど良いしな」
アキラは軽く笑い、よく狙って引き金を引いた。
称賛に値する体力と運動神経で逃げ続けていたエリオが
もう駄目だ。エリオは恐怖に
次の瞬間、今まさに飛び掛かろうとしていたモンスターが突然転倒した。更にモンスターの周辺から硬い
それでもモンスターは生きていた。もがきながらも、よたよたとしながらも、再び立ち上がる。だが更に数発の銃弾を胴体に撃ち込まれると、自身の血で赤く染まった地面に再び崩れ落ちた。
駄目押しとばかりに更に銃弾が撃ち込まれる。着弾の衝撃でモンスターの体が僅かに揺れた。そして二度と動かなくなった。
エリオは
「……助かった? ……た、助かった。……助かったんだ!」
エリオが喜びの表情で荒い呼吸を整えながら、銃声がした方向を、自分を助けてくれた人がいる方を見る。すると途端にその表情が固まった。視線の先にいたのは、先日
エリオの顔が引き
エリオが遺跡の中をゆっくりとした足取りで進んでいる。顔はかなり苦しそうに
「お、重い……」
その
押し潰されそうな重量が、モンスターから逃げる
時折モンスターと遭遇したが、少し前を歩くアキラにあっさりと倒されていく。後ろから見ると、アキラは普通に歩いているだけのように見える。だが遭遇したモンスターを
(アキラは俺と会うまで、こんな荷物を背負いながらモンスターと戦っていたのか? その上でこんなに楽々と倒してたのか? 道理でシベア達に1人で勝つ訳だ。俺はこんなやつに
エリオはアキラへの畏怖を強めながら、今更ながら後悔していた。
背中の重量から解放されたおかげで調子良くモンスターを倒していたアキラが、倒したモンスターを見て少し
『アルファ。こんなモンスター、この辺にいたっけ?』
アルファも少し
『前にカツラギ達を襲ったモンスターの群れの一部が、この辺りに定着したのかもしれないわ。
『物騒だな』
『下手をすると遺跡のモンスターの分布が大幅に変わってしまったのかもしれないわ。その
アルファのサポートがあっても生還が難しい。それがどれだけ危険な状況なのかは身に染みて知っている。アキラは思わず表情を険しく
『……本当に、物騒だな』
『一応、少し急いで帰りましょうか』
『了解だ』
アキラが気を引き締めて先を急ぐ。当然その分だけエリオの負担は大きくなった。エリオは死ぬ気でアキラの後に続く羽目になった。
都市まで戻ったアキラはそのままカツラギの移動店舗であるトレーラーに向かった。エリオも最後の力を振り絞って付いていく。一緒にトレーラーの前まで行くと、いつものように店番をしていたカツラギがアキラに気付いた。
「アキラか。今回は女連れじゃなくて男連れか。
「今回は客だ。遺物の買取の方だけどな」
「おっ。遺物の買取か。何であれ客なら大歓迎だ。それで、遺物はどこだ?」
アキラがエリオに背負わせているリュックサックを指差すと、カツラギが機嫌良く笑う。
「結構多そうだな。裏に回りな」
全員でトレーラーの裏手に移動した後、アキラは買取を頼む遺物を地面に並べ始めた。初めは適当に並べようとしていたが、すぐにアルファから回復薬等の売る気のない遺物をリュックサックから出さないように注意された。念話で軽く尋ねる。
『見せるだけでも
『念の
『値段次第で1箱ぐらいなら売っても良いんじゃないか?』
『駄目よ。その1箱で死なずに済むかもしれないの。取っておきなさい』
アキラも命は惜しい。納得して、気を付けて遺物を並べ続けた。
カツラギが地面に並べられた遺物を見て、その量にほくそ笑む。
(……どこで手に入れたかは知らねえが、結構量があるじゃねえか。やはりアキラは金になるハンターだ。良い付き合いをしておかないとな)
カツラギは遺物の査定を終えると、頭の中で買取額を算出し、アキラに商売人の笑顔を向ける。
「……そうだな、これなら全部で……500万オーラムでどうだ?」
カツラギの表情は誠実な商売人の誠意に
アルファがあっさり告げる。
『駄目よ』
アキラがカツラギに端的に告げる。
「分かった。全部ハンターオフィスの買取所に持っていく」
アキラが本当に遺物をリュックサックに戻そうとすると、カツラギが慌て出す。
「待て待て待て待て待て! ほら、そこは値段交渉とかしようじゃないか。いきなり切り上げるな」
駆け引きを持ち出すカツラギに、アキラが少し冷めた視線を送る。
「そういうのは商売人同士でやってくれ。俺はそういうのが面倒なんだ。一発で決めてくれ。それで駄目なら本当にハンターオフィスの買取所に持っていく」
カツラギはアキラの態度が交渉用のブラフではないと判断すると、仕方なく駆け引き抜きで算出した金額を提示する。
「……分かった! 800万オーラム! これでどうだ!」
『まあ、良いと思うわ』
「分かった。次からは初めからその金額を提示してくれ」
「よし。商談成立だな」
買い取られた遺物はカツラギ達によってトレーラーの中に運び込まれた。そしていずれアキラへの支払額をかなり超えた金額で他の販売業者に卸される。
カツラギは良い取引を済ませて上機嫌だ。
「支払はどうする? 現金か? こっちとしては口座振り込みの方が楽なんだが……」
アキラは少し前までスラム街で生活していたこともあり、預金口座など持っていない。だが今ならハンターオフィスで手続きを済ませれば口座を開設できる。まだ口座を開いていないのは、今までの生活から預金口座の開設など思いも付かなかっただけだが、適当にごまかすことにする。
「現金でないと支払い
カツラギはチラッとエリオを見てそれで納得した。シェリル達のような相手に金を渡すのなら現金の方が良いからだ。
「分かった。現金だな。ちょっと待ってろ」
カツラギは一度トレーラーの中に戻ると、800万オーラム分の札束と一緒に戻ってきた。その札束には、疲労
アキラはアルファの指示で必要以上に反応しないように注意していた。札束を平然と受け取ると、リュックサックに無造作に
エリオはアキラとカツラギの態度を見て、自分達とアキラ達の間にあるどうしようもない差を目の当たりにしたような気がした。800万オーラムは自分達のようなスラム街の子供にとって途方もない大金だ。だがアキラ達にとっては驚くような額でも、
アキラが複雑な表情で自分を見ているエリオに気付く。だがその内心までは分からず、遺物運びが済んだので帰って良いのかどうか、分け前はないのだろうか、それを聞いて良いのかどうか迷っているぐらいにしか思わなかった。
「用は済んだから帰って良いぞ。命を助けたんだから運び賃とかは無しだ。じゃあな」
リュックサックを背負って返ろうとするアキラを見て、エリオはアキラに自分を徒党へ復帰できるように頼み込むのは今しかないと気付いた。ここで下手に言い
「シェリルの徒党に俺を加えるようにシェリルに話してくれないか!? この前のことで徒党を追い出されたんだ! 命を助けてもらったけど、徒党に戻れないと俺はその内に死んじまう! 頼む! あんな重いものをここまで運んできたんだ! 俺はそこそこ役に立っただろう!?」
アキラが少し無表情気味の顔でエリオを見る。それは大金を手に入れた動揺等を隠す
半分勢いで頼んだが、これで駄目なら自分はもう終わりだ。
「じゃあ、今からシェリルの所に行くか」
それだけ言ってシェリルの拠点の方へ歩いていくアキラに、エリオも半信半疑の様子で付いていく。
カツラギはその様子を見て、良く
シェリル達の徒党はそれなりに順調に活動していた。シェリル達が元々シベアの徒党の構成員であること。そのシベアを殺したアキラが後ろ盾になったと広まったこと。カツラギという商人の協力で金策や銃器類も手に入れたこと。それらの要因などにより、スラム街の他の徒党からシベアの縄張りを受け継いだと認識され、単なる子供の集まりではなく、一応縄張りを持つ新たな弱小徒党という程度の扱いは受けられるようになっていた。
スラム街に弱小とはいえ新たな徒党が生まれると、普通はそこに加わろうとする者も出てくる。訳あってどこにも所属していない者達や、所属している徒党内で冷遇されている者達などだ。
しかし徒党のボスであるシェリルやその構成員、更には後ろ盾であるアキラまで、全員子供だという理由もあって、徒党に加わりたいと願い出る者の中に大人はいなかった。結果として、シェリルの徒党は構成員が全員少年少女というスラム街では珍しい徒党となった。
シェリルが自室でアリシアと話している。
「縄張りの掃除は順調?
スラム街で縄張りを持つ徒党には、暗黙的にやらなければならない仕事がある。それは縄張りの清掃だ。縄張りに落ちているゴミを、投棄物を片付けるのだ。
縄張りの掃除はそれなりに重要な意味がある。スラム街の暗黙の決まり事として、基本的に縄張りに捨てられているものはそこを管理する徒党のものだ。捨てた者にとってはゴミであっても、スラム街の住人にとっては有益な物も多い。
まだ使える物は自分達で使う。金属類であれば量を集めて
加えて縄張りの掃除は、その場所が自分達の縄張りであることを周囲に示す行為でもあった。
アリシアが僅かに
「うーん。死体が多いって文句を言っている人が多かったわ。それぐらいかな」
「それは仕方がないわ。最近誰も片付けていなかった訳だからね」
スラム街では強盗など珍しくない。被害者が殺されることも多い。その逆も多い。相打ちになることもある。そして当然だが死体は誰かが片付けない限りその場に放置される。縄張りに残されたそれらの死体を所持品と一緒に片付けるのも徒党の仕事だ。
シベア達の徒党が壊滅したことにより、その縄張りは一時的に空白地となった。そんな場所を自主的に掃除する者などいないので、その間に放置された死体が多数
シェリルがいつものように指示を出す。
「死体はいつも通りに処理をして。身
死体を荒野まで運ぶのも一苦労だ。荒野では下手をするとモンスターと遭遇する場合があるので、それなりに武装する必要がある。シェリル達はカツラギから提供された銃で何とか最低限の武装を整えていた。
縄張りの死体を放置せずに片付けるのは徒党にとっても有益だ。都市は食料の無料配給の実施場所にスラム街でも清潔な場所を選んでいる。縄張りが清潔だと配給場所に選ばれる可能性が高くなるのだ。
また縄張りの死体を放置し続けて
体裁としては過度な悪臭などがモンスターを都市に引き寄せる可能性があるので、やむを得ず焼却すると伝えられている。だが裏では都市がスラム街の住人を間引く
そのような事情もあり、スラム街はそれぞれの縄張りを管理する徒党の努力によって、それなりに清潔に保たれていた。
アリシアがシェリルに少しおずおずと尋ねる。
「……ねえ、シェリル。徒党の人数って、もう結構増えたよね?」
「そうかしら。まだまだ縄張りの清掃も
シェリルは徒党のボスなどやったことはない。少しずつ慣れながら手探りで改善しようとしているが、
「アリシアの他にも
シェリルが徒党の全員を直接管理するのは難しい。人が増えれば更に難しくなるが、それでも人は足りていない。今後の人員増加も見越して、自分以外の
アリシアが言い
「それは私も頑張るつもりだけど……、そうじゃなくて……、その……」
「何?」
「……シェリルは徒党の人数が何人ぐらいになれば、エリオが徒党に混ざっても大丈夫だと考えてるの?」
アリシアはエリオの身を案じていた。何とか止めようとはしたのだが、エリオは他に手がないと言って遺跡に向かってしまった。
徒党の銃を勝手にエリオに渡したとシェリルに知られたら、自分も徒党から追い出されかねない。それを十分に分かった上で、それでもエリオが生きて帰ってくることを願い、アリシアはエリオに銃を渡した。
アリシアがシェリルから
シェリルの目が厳しくなる。
「駄目よ」
シェリルはアリシアの
「駄目。あれからまだ1か月も
シェリル達の間に沈黙が流れる。そこに流れる懇願と拒絶が相手の意志を曲げさせることはなかった。シェリルが冷たく言い放つ。
「話が終わったら仕事に戻って。ついでに頭も冷やしてきなさい」
「……分かったわ」
アリシアは
シェリルが軽く
アリシアは
「シェリル。拠点にエリオが来たわ」
シェリルがアリシアを軽く
「追い返しなさい。アリシア。しつこいわよ。いい加減にしないと……」
アリシアが言い
「……アキラさんと一緒に来たの」
シェリルの顔が
シェリルはアキラを待たせている部屋に急ぐと、部屋の入り口の影からアキラの様子を確認した。そして不機嫌そうには見えないことにまずは
「いらっしゃいませ。今日もここに足を運んでいただいて、ありがとう御座います。……えっと、エリオが何かアキラにしましたか? その、エリオはもうあの後に私の徒党から追い出したので、エリオがアキラに何かしたとしても私達には関係がないというか……」
アキラの機嫌を損ねないようにしているシェリルとは対照的に、アキラは普通にしていた。
「そうらしいな。シェリルが嫌じゃないなら、エリオをまた徒党に加えてやってくれ。嫌なら無理は言わない。ボスはシェリルだからな」
シェリルが意外そうな表情を浮かべる。
「アキラがそう言うのなら私は構いませんが……、その、良いんですか?」
「ああ。ちょっと仕事を手伝ってもらったからな」
シェリルにアキラの頼みを断るという選択肢はない。追い出せと言われれば誰でも追い出す。加えろと言われれば誰でも加える。不思議に思っても、意外に思っても、疑念を抱いたとしても、全く関係ない。アキラの機嫌を損ねることに比べれば、全ては
「分かりました。そういうことでしたら。はい」
エリオが
「エリオ。シェリルに余計なことを話すな。シェリル。エリオに余計なことを聞くな。いいな?」
「わ、分かった」
「分かりました」
及び腰のエリオと
「俺の用事はそれだけだ。じゃあな」
アキラはそれだけ言って帰っていった。
シェリルがアキラに向けていた愛想の良い
「それで、何があったの?」
エリオはシェリルに経緯を話そうとして、具体的な内容を口に出す前に止めた。その後に自分の発言内容を注意深く確認するようにゆっくりと話し始める。
「……いろいろあって、アキラに命を助けてもらった。その後に……ちょっとアキラを手伝った。……アキラの用事が済んだ後に、シェリルへの口利きを頼んだ。それだけだ」
エリオは余計なことを話していないかどうかを自分で再確認していた。
「命を助けてもらったって、一体何が……」
シェリルはもっと詳しく尋ねようとして、慌てた様子で必死に首を横に振るエリオを見て取り
「
エリオは軽い
シェリルが真剣な表情で尋ねる。
「これだけは教えて。もうアキラは怒っていないのね?」
エリオも真面目な顔で考えてから答える。
「……大丈夫、だと思う。死んでほしいのなら、俺を見殺しにしていたはずだ」
「そう。それならエリオには早速仕事をしてもらうわ。エリオみたいな馬鹿がまた出ないように、皆の説得と監視を御願い。今は銃を持っているやつも多いから、次に似たようなことがあったら、エリオの時みたいに殴られるだけで済むとは思わないでね」
エリオが真剣な表情で力強く
「了解だ。巻き添えを食うのは俺も御免だ」
エリオの変わり様を見たシェリルは、何があったのか非常に気になったが、今は忘れることにした。アリシアもエリオが戻ってきて喜んでいる。エリオもこの様子なら二度と馬鹿な
蓋を開ければ自分も同じ目に遭うかもしれない。そう判断して、その蓋を固く閉じた。
アリシアがエリオと一緒に歩きながら
「それにしても本当に良かったわ。エリオは遺跡から生きて帰ってきたし、また徒党に加わることも出来た。よく分からないけど、アキラさんのおかげなのよね?」
「ああ。そうだ。遺跡で助けてもらったんだ」
「後で私もちゃんとお礼を言っておかないと……」
エリオは楽しげに話しているアリシアの隣で、遺跡でのことを思い出して少し
(アキラはまるでモンスターの居場所を初めから全部分かっているみたいに戦っていたな。それに今思えば変な方向を見ていた時があったような……、まるで隣に誰かがいるみたいに……)
余計なことを話すな。
エリオの頭に先ほどのアキラの言葉が浮かんだ。その途端、得体の知れない
アリシアが急に立ち止まったエリオを見て不思議そうにする。
「エリオ。どうかしたの?」
「……いや、何でもない」
「そう? それなら良いけど。助けてもらったってことは、危険なことがあったのよね。やっぱりモンスターに襲われたの? それをアキラさんに助けてもらったり……」
「アリシア」
エリオが急に真剣な表情になり、真剣な声を出した。そして驚いているアリシアに少し鬼気迫った様子で頼み込む。
「頼む。何も聞かないでくれ」
「わ、分かったわ」
アリシアは少したじろぎながらも、しっかり
エリオは気付いた。恐らくあれがアキラが言う余計なことなのだと。
自分がそれを誰かに話してしまえば、話した自分はどうなるのか、聞いた誰かはどうなるのか。もしアリシアに話してしまったら、アキラはアリシアをどうするのだろうか。そう考えた途端、エリオの背筋に
そのエリオの様子に、アリシアが少し心配そうに声を掛ける。
「エリオ。大丈夫?」
エリオがアリシアを安心させるように笑って答える。
「……。大丈夫だ」
絶対に話さない。エリオはそう心に決めた。
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