第4話 命賭けの対価

 アキラが先ほどの失態から立ち直った頃には、外から聞こえていた砲撃音なども既に消えていた。アルファが外とアキラの両方の様子から遺跡探索の再開を決める。

『外も落ち着いたようだし、そろそろハンター稼業に戻りましょうか。アキラ。今度はちゃんとお願いね?』

 アキラが真面目な顔でうなずく。

「大丈夫だ。今度はちゃんと指示通りに動く。約束する」

『よし。行きましょう』

 アルファは満足げに笑って返すと、再びアキラを先導して歩き始めた。アキラも真面目な顔でその後に続いた。

 ビルを出て、先ほど巨大な機械系モンスターと遭遇した場所を通る。倒壊したビルの横を通り、瓦礫がれきを乗り越えて進んでいく。そして先ほどの戦闘の跡が残る場所を抜けて、更に進んでいく。

 自前の安っぽい拳銃では太刀打ちできないのは当然として、それなりの対モンスター用の武装であっても勝ち目など欠片かけらも無い存在が、見えない状態で近くを彷徨うろついていた。この経験は良くも悪くもアキラに強い影響を与えていた。表情も自然と険しくなる。だが湧いてくるおびえを覚悟で塗り潰して、アルファの指示に従っていれば大丈夫だと信じて、アキラは慎重に進んでいた。

 アルファはそのアキラの様子に満足しながら、そこら中にモンスターが潜んでいる遺跡の中を、それらと絶対に遭遇しないように異常なほどに的確に案内し続けていた。

 更にしばらく進む。既に遺跡の外周部とは呼べないほど奥に辿たどり着いていた。そこでアルファが遺跡に乱立しているビルの一棟を指差す。

『アキラ。ここで遺物を集めるわ』

 アキラが指定された廃墟はいきょを興味深そうに見上げる。命を賭けて遺跡の奥深くまで来たのだ。どうしてもそれだけの成果を期待してしまう。だがアキラには今まで何度も通り過ぎた他の廃墟はいきょと同じような場所にしか見えない。少なくとも態々わざわざここまで足を運んだ意味がある建物とは思えなかった。

「何でここを選んだのか聞いてもいいか?」

 アキラは何となくそう尋ねた後で、この問いはアルファを疑っていることになるかもしれないと思い、少し焦った。だがアルファは自信に満ちた笑顔を返してきた。

『いいわよ。中で遺物を探しながら説明するわね』

 これなら期待できそうだ。アキラはアルファの笑顔を見てそう思いながら、先導するアルファに続いて機嫌良く中に入っていった。

 アルファが指定した建物は旧世界時代の商業施設だった。アキラはその中を過去の盛況の名残を見ながら進んでいく。

 ひしゃげた棚の近くには穴の開いた壁があり、かすれた血痕が残る床の上には機械系モンスターの残骸が散らばっている。生物系モンスターの大きな骨のそばには、人間の骨が装備の破片と一緒に散らばっていた。かつて多種多様の商品であふれていた光景の名残。多くのハンター達がその旧世界の遺物を求めてここまで来た証拠。そしてそのハンター達とモンスター達の交戦の痕跡だ。

 現存している旧世界製の建築物は頑丈なものが多い。その建物の壁に穴が開き、天井が焦げている。それはこの場で行われた戦闘の激しさを分かりやすく示していた。それほど強力に武装したハンター達が、同様に強力なモンスター達と殺し合ったのだ。全てはこの場にあった旧世界の遺物を手に入れるために。

 散らばっている数多くの死体は、ここにその危険を冒す価値があったことを示していた。あるいは旧世界の遺物という欲にあらがえなかった者達の末路でもあった。

『ここを選んだ理由だけれど、第一に、安全面から。遺跡の機械系モンスターは、大抵は施設防衛用の警備装置とかなのよ。制御装置が壊れて暴走している個体も多いけれど、単純に警備システムの一部として、外敵の排除を続けているだけのものも多いわ。その警備作業で、生物系モンスターも排除対象にしている場所は多いのよ。つまりその手の機械系モンスターの防衛対象となっている建物では、生物系モンスターの脅威が下がるのよ』

「でもそれって、代わりに機械系モンスターに襲われるだけじゃないのか?」

『機械系モンスターは設定通りの警備ルートや警備場所を厳守することが多いの。だからその警備パターンを把握すれば遭遇する可能性を格段に下げられるのよ。逆に生物系モンスターは状況に応じて生息域を変えたり、結構気まぐれに移動したりして、遭遇予測が難しいの。だからアキラが私と一緒の場合は、機械系モンスターの割合が多い建物の方が比較的安全なのよ』

 アキラはスラム街の路地裏では知り得ないそれらの話を興味深そうに聞いていた。

「なるほど。そういう考え方もあるのか。でも、そのパターンの把握ってどうやるんだ?」

『そこはいろいろ方法があるの。でもそれをちゃんと、アキラが正しく理解して納得できるまで詳しく説明すると何十年も掛かるから、その説明は省くわね』

 そこでアルファが不敵に悪戯いたずらっぽく微笑ほほえむ。

『それとも、ちゃんと聞きたい? 後で細かく質問してくれれば、アキラが納得するまで答えるって言ったしね。良いわよ? 話しても』

「あ、うん、遠慮しておく」

 アキラはアルファの話を冗談だと捉えていた。初めから話す気は無いとも思っていた。だが、聞きたいと自分も冗談を返したら、本当に延々と話を聞かされそうな気配を感じて、少したじろぎながら話を流した。アルファはアキラのその予想通りの反応に微笑ほほえみを返した。

『そう? まあ、気が変わったら言ってちょうだい。それでここを遺物収集場所に選んだ理由の続きだけれど、もう一つの理由は、遺物の厳選のためよ』

「厳選って、ここにはそんなに高価な遺物が残ってるのか?」

『遺物の価値も重要だけれど、その前にアキラでも持ち帰れることの方が重要よ。売れば大金になるものを見付けても、それが10トンぐらいの重さがある品だったら、アキラにはどうしようもないでしょう? 逆に片手で軽く運べるものだったとしても、モンスターの横にあったら持ち帰るのはちょっと無理よ』

「まあ、確かにな」

『アキラでも死なずに持ち帰れて、結構価値が高い遺物がそれなりに見付かりそうな場所。ここを選んだのは、その辺の兼ね合いを考えた結果よ』

 アキラはアルファの説明を聞いて、命を賭けてここまで来た価値はあったのだと納得した。そしてそこから逆に思い付く。

「……あれ? そうすると、俺が昨日探していた辺りには、もう大したものは残っていなかったってことか?」

『あの辺の遺物はもう取り尽くされているわ。アキラのような子供でも遺物収集に行ける場所に、今も高価な遺物がたっぷり残っているのなら、大勢のハンターでにぎわっているはずよ。でもそうではなかったでしょう?』

「……確かにそうだな」

 昨日の自分は命を賭けて徒労を続けていた。アキラはそう思ってしまい、今更ながらに疲労感を覚えていた。

「頑張って遺跡に行けば高値の遺物が見付かると思っていたけど、考えが甘かったか。無謀だったか」

 少し気落ちしているアキラに、アルファが励ますように微笑ほほえみかける。

『その無謀のおかげで私と出会えたのだから、命を賭けて遺跡に行った価値は十分にあったと思うわよ? それがどれだけ幸運なことなのかは、これからの日々でたっぷり実感できるわ。期待していなさい』

 アキラが気を取り直したように軽く笑う。

「そうだな。期待してる」

『任せなさい』

 アルファは自信満々の笑顔を返した。

 なお遺跡の外周部には安値の遺物なら探せば結構残っていた。それらはそこらのハンターなら見向きもしない程度の価値しかないが、スラム街の子供の基準なら十分高額だ。つまり、アキラはそこまで徒労をしていた訳ではない。そして、アルファはそれを分かった上で、アキラを意図的に遺跡の奥に案内していた。


 遺跡を訪れるのはハンターだけではない。企業も巨費を投じて遺跡に部隊を送り込んでいる。他にも多くの者達が、時に助け合い、時に殺し合いながら、遺物収集を続けているのだ。この遺跡は割に合わない。そこを訪れる全ての者がそう判断するまで。

 それでも割に合わないと判断する基準は各自で異なっている。まずは企業が手を引く。企業の私兵は運用に多額の資金を投じているだけあって、装備も実力も非常に高い水準にある。それにより、人員損失時の損害も非常に高額になる。現在の技術では再現不可能な旧世界製の生産装置など、極めて入手困難であり企業間で武力込みの争奪戦になる類いの遺物以外では、早々に見切りを付けて手を引く。普通の遺物はハンター達から金で買えば済むからだ。企業など潤沢な資金を保持する組織は、金で買えるのであれば金で済ませる。

 次に一般的なハンターが手を引く。持ち帰る遺物から得られる報酬とモンスターの脅威を冷静に分析し、利害を天秤てんびんに掛けて、十分余裕を持って引き上げる。

 そして最後に実力者と無能が手を引く。その実力でぎりぎりまでモンスターを撃退し続けて遺物収集を続ける者と、欲に釣られて引き時を誤り死んでいく者だ。その両者により、遺跡から高価な遺物が減り続け、代わりに死体が積み上がり続ける。そして見付かる遺物の量と積み上がった死体の量から、両者にこの遺跡は割に合わないと判断された時、遺跡はようやく寂れていくのだ。

 アキラはその寂れた廃墟はいきょに、強力なモンスターの所為せいで少々早めに寂れた場所に、本来なら絶対に辿たどり着けない領域に足を踏み入れていた。しっかりと武装したハンター達が割に合わないと引き上げた廃墟はいきょには、かなり高額な遺物がそこそこ残っていた。

 ただしアキラには遺物の価値など分からない。アルファの指示に従ってそれらしい物を紙袋に詰めていく。この紙袋もここで見付けた物だ。事前に用意した袋は遺物の重量に耐えきれずに破けてしまった。

 持ち帰る遺物を詰め込んだ紙袋を、アキラは少し不安な表情で見ていた。紙製の買物袋はかなり薄く、頑丈そうにはとても見えない。

「……都市に帰るまでに、破れたりしないよな?」

『大丈夫よ。この紙袋も旧世界製。つまり旧世界の遺物よ。見た目より頑丈だから心配ないわ』

「なるほど。旧世界の技術か。すごいな」

 アキラが今度は袋の中を見る。中には子供でも持ち帰れる小物が、アルファが厳選した遺物が詰め込まれている。アキラにはよく分からない物も入っていた。さや付きのナイフが1本。用途不明の機械部品が幾つか。回復薬だと教えられた箱が数箱。包帯に見える物。腕時計らしき物。それら様々な物が入っている。そして袋にはまだ詰め込む空きが残っており、そこまで重くもなかった。

「……もう少し持って帰らないか?」

 折角せっかくここまで来たのだ。出来れば限界まで持って帰りたい。そのアキラの未練に対して、アルファが真面目な表情で首を横に振る。

『駄目。それが限界よ。帰り道でアキラが問題なく行動できる限界量。私も出来る限り気を付けるつもりだけれど、帰りにモンスターと遭遇したらそれを持って逃げないといけないの。荷物がかさ張ったり重かったりしたら、下手をすると逃げ遅れて死ぬわ。逃げる途中で邪魔だから捨てるとしても、元から少なくて軽い方が体力の消費も避けられるしね。欲張らないの』

 アキラも命は惜しい。そしてアルファの指示には出来るだけ従おうとも思っている。残念に思いながらも、しっかりとうなずいて未練を切り捨てた。

「……分かった。それで、これ、全部で幾らぐらいになるんだ?」

『それは私にもちょっと分からないわ。遺物の買取額も需要に応じて変動するしね。それと、全部売るわけではないわ。ナイフは自分用に残しておきなさい。医療品も売らない方が良いわ。ちょっとした怪我けがでも治療が不十分だと後々大変になることも多いから、保険だと思っておきなさい』

「そうすると、売れる遺物は更に減るのか……」

『必要経費よ。我慢しなさい』

「……分かった」

 これで売れる遺物が2度も減った。アキラはそれを少し残念に思いながらも、これでも今の自分には大成果だと思い直して気を切り替えた。

『それじゃあ、帰りましょうか。帰りも大変だと思うけれど、十分注意してね』

「ああ。分かってる」

『あのモンスターの警備地域を、今度はそこそこ重い荷物有りで通るの。荷物の所為せいで動きが鈍って見付かったりしたら、今度こそ木っ端微塵みじんになるかもしれないわ。本当に注意してね?』

 アルファがそう言って意味ありげに微笑ほほえむと、アキラが顔を引きらせる。

「だ、大丈夫だ」

『じゃあ、出発ね』

 アキラが再度緊張した様子でアルファの後に続く。アルファは楽しげに笑っていた。


 アキラは何とか遺跡の外まで戻ってきた。ここはまだ荒野であり十分危険な場所だ。しかし見えないモンスターが彷徨うろついている遺跡の中と比べれば格段に安全であるのも事実だ。まだ生還したとは呼べない段階だが、それでも無意識に区切りを付けて緊張を緩めてしまう。その所為せいで心身の疲れを思い出し、大きく息を吐いていた。

 アルファがその様子を気遣うように微笑ほほえんで声を掛ける。

『疲れたのならしばらく休む? 周囲の警戒は私がするから安心して良いわよ』

「そうだな。でも俺も早めに都市まで戻りたいから、少しだけにする」

『分かったわ。じゃあその間は雑談でもしましょうか』

 雑談といってもスラム街の路地裏を一人で生き抜いてきたアキラに話の種などない。基本的にアルファが話し、アキラが相槌あいづちを打つ形になっていた。

『そういえば知っている? あのクガマヤマ都市は元々このクズスハラ街遺跡を攻略するために作られたのよ?』

「へー。そうなんだ。詳しいんだな」

『私はこれでも結構物知りなのよ。まあ東部の情報が中心で、西部や中央部の情報はさっぱりだけれどね』

「西部か……。俺もよく知らないけど、人外魔境だって話は聞いたことがある」

『私もよくは知らないのよね。科学技術とかが全く発展していないとか、魔法使いがいるとか、眉唾の話をちょっと知っているぐらいよ』

「中央部は、確か、国家……だったか? 何かそう呼ばれている組織がたくさんあるんだっけ?」

『大まかに説明すると、中央部統治国家連合、通称国連に加盟している国家の領土全域を、中央部と呼ぶのよ。国家という統治制度を敷く地域の呼び名ね。そして、中央部より東側を東部と呼ぶの。東部統治企業連盟、通称統企連の支配地域のことを指すこともあるわ。そして中央部より西側が西部。銃が無いとか、魔法があるとか、エルフとかいう人種がいるとか、そういううわさが流れているけれど、どこまで本当なのかしらね。得体の知れない地域だから、好奇心をき立てられていろいろ探ろうとする人も多いらしいわ。アキラはそういうのに興味とかある方?』

「いや、そんなのより東部の一般常識とかを先に知りたい。俺はまだ文字も読めないんだ」

『分かったわ。読み書きの他に、その辺の一般教養もアキラの訓練に加えておくわね。任せておきなさい』

「そ、そうか。ありがとう」

『どう致しまして』

 アルファの至れり尽くせりの申し出に、アキラは感謝しながらも少し怖くなった。無料の代償は高く付く。その手の思考が染みついているからだ。

 アルファはそのアキラに優しく微笑ほほえんでいる。誰よりも、アルファ自身の目的のために。


 クガマヤマ都市まで戻ってきたアキラは、早速ハンターオフィス運営の買取所に向かった。

 この手の買取所は都市の防壁の内外に複数存在している。そして立地によって利用者が大きく異なる。防壁内の買取所は一流のハンター達を主な顧客にしている。持ち込まれる遺物も相応に貴重なものばかりで、時には企業が争奪戦を繰り広げて買取価格を上げていく。

 アキラが向かったのは下位区画の買取所だ。それもスラム街に近い立地で、利用者も駆け出しハンターやスラム街の住人などが大半の、買取所の格としては最低に近い店舗だ。そのため、本来は遺物専用の買取所であるにもかかわらず、安値の遺物どころか遺物ですらない品も持ち込まれていた。そしていつの間にか遺物以外でも基本的に安値ではあるが買い取るようになり、スラム街の住人達の貴重な収入源になっていた。

 アキラは買取所に入ると、売却する遺物を紙袋から出して買取用のトレーに乗せる。そしてトレーを持って窓口の列に並んで順番を待つ。アルファの助言通り、ナイフと医療品は売らずに省いていた。

 窓口の職員はノジマという中年の男だ。ノジマはアキラの格好からスラム街の子供相手への対応をしようとした。だがトレーに乗っている遺物を見て対応を切り替える。買取品がスラム街で拾えるような品ではないことに気付いたのだ。

「ハンター証があるなら出せ」

 アキラが紙切れのような自分のハンター証を提示すると、ノジマはそれを受け取り、手元の端末を操作した後で、3枚の硬貨と一緒に返却した。トレーは買取品ごとノジマの後ろの棚に置かれた。

 アキラがその3枚の硬貨を見る。100オーラム硬貨が3枚で、300オーラムだ。オーラムとは坂下重工が発行している企業通貨だ。坂下重工は統企連を構成する5大企業の一社であり、オーラムはその発行元である坂下重工の統治下、つまり坂下重工を主軸とする経済圏内で主に使用されている。クガマヤマ都市もその一部だ。

 300オーラムの価値は人それぞれだ。クガマヤマ都市の下位区画の一般人ならば、安めの食事の1食分だ。上位区域の住人にとってはコップ一杯の水の代金にもならないはした金だ。

 危険な遺跡で命を賭けた成果。巨大なモンスターに襲われて危うく死にかけたが、アルファのサポートのおかげで辛うじて生き長らえて、本来なら絶対に到達できない場所から持ち帰った遺物の代金。それが今アキラのてのひらに乗っている。たった3枚の硬貨、300オーラムとなって。

 アキラが暗い憤りに似た感情で表情を険しくさせて顔を上げる。するとその反応を見越していたノジマと目が合った。アキラが自分でもよく分からない何かを口に出そうとする前に、ノジマが真面目な表情でくぎを刺すように説明する。

「お前にもいろいろ言いたいことがあるんだろうが、ハンターランク1、信用無し、実績ゼロのハンターの、初回の買取代金は300オーラム固定だ。買取品の査定が終わるのは早くても明日だ。得体の知れないゴミクズ同然かもしれない何かに、調べもせずに300オーラムも支払ってくれることをむしろ感謝しろ。査定が終わったら次回の買取時に残りの金額を支払う。査定金額が300オーラムを下回ったら、逆にそっちに払ってもらう。高値で売れるものを持ってきた自信があるのなら、また何か売りに来い。本人確認はハンター証で行う。ハンター証を無くしたら信用も実績も一からり直しだと思え。以上だ。質問は?」

 アキラはノジマの説明を聞いて、その言い分を理解はした。一定の納得もした。だがそれでもその表情は険しい。完全には納得できないからだ。だが同時に抗議しても無駄だということも理解していた。

「……明日、また来れば良いのか?」

「査定が終わっていればの話だ。高価な遺物ほど査定に時間が掛かる。査定が終わっていても、次回の買取品が無い場合も駄目だ。ちゃんと何か持ってこい。前回分の支払は、次回の買取品をこっちに渡した後だ」

 ノジマの態度は厳しいものだったが、そこには僅かではあるがアキラを気遣うようなものが含まれていた。

 アキラのような子供がハンターを目指して、何とか遺物を持ち帰って買取所に来るのはそう珍しいことではない。ノジマはそういう子供を数多く見ている。だが2度目の買取にくる者は少数だ。それはハンターとして生きるのを諦めたか、死んだかのどちらかだ。10回目の買取に来る者などほんの一握りだ。

「……今日お前がどれだけ無茶むちゃをしたかは知らん。だがな、ハンター稼業で食っていくのなら、その無茶むちゃをこれからずっと続けていくことになるんだ。この程度のことで心が折れたんだったら、もうめとけ。死ぬぞ」

 アキラが真剣な表情で答える。

「嫌だ。命懸けなのはスラム街だって同じだ。俺はい上がる。絶対にだ」

 覚悟を決めた人間は相応の強さを得る。そしてその強さが生き残る可能性を引き上げる。ノジマはアキラの言葉に確かな決意を感じて軽く笑った。

「そうか。まあ、気を付けな」

 こいつは大丈夫かもしれない。ノジマはそう思って僅かに機嫌を良くした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る