じわじわあなたになっていくよ!!

ちびまるフォイ

同化装置ぃぃ~~!(CV:大山のぶ代)

「私も里美みたいに痩せたいなぁ」


「十分細いじゃない」


「それは余裕のある人が言えるセリフだよ。

 私もモデル体型になりたいなぁ」


友達の里美はすらりと手足が長くて、スタイルもいい。

かたや私は冷蔵庫に手足をつけたような寸胴体型。


神様のパラメータ配分が間違ったとしか思えない。


そこで、ネットで見つけた同化装置体験会にいってみた。


「ようこそ、同化装置体験会へ。

 この装置を使えば理想の自分になることができますよ」


「理想の……!?」


思わずごくりと生唾を飲み込んだ。


「で、あなたは誰になりたいんですか?」


「読者モデルの藤崎るーこに同化させてください!!」


「いいでしょう。その人のデータはありますか」


「はい!!」


私の近所には撮影スタジオが多くありモデルをよく見かける。

その時に握手したときに手に入れた髪の毛を装置に取り付ける。


びびび。


装置が光ると、あっさり同化作業は終わってしまった。


「はい、お疲れ様です。相手には特に影響ないですが、

 あなたの方が彼女に同化するようになりましたよ」


と、所長が言っているので間違いはないかと。

半信半疑だった私だが、翌日の変化でそれを信じずにはいられなくなった。


「胸が……胸が出てる!!」


断崖絶壁だった私の胸板が大きく隆起している。

まるで、藤崎るーこのナイスバデーのように!


「こうして日増しに、私が藤崎るーこに近づいていくのね!

 ああ、もう! 明日が楽しみでどうにかなりそう!!」


同化は順調に進んでいった。

体の変化はもちろん、心もモデルへと同化していく。

藤崎るーこの考え方はもちろん、同化の影響で記憶まで流れていく。


「里美知ってる? 今日、ここで藤崎るーこの撮影あるみたいよ」


「え、そうなの。情報なかったけど」


「ふふふ、これは私だけが知ってる情報網だからね」


「どこで仕入れてんのよ……」


同化が進むと、ほとんど私は名前だけちがうだけの藤崎るーこ。

憧れだったスタイルにほぼ完全に移行している。


「で、この後はどうする?」


「ごっめ~~ん♪ 私このあと彼氏とデートなの」


「え!? いつできたの!?」


「ひ・み・つ♥」


友達の里美と別れて彼氏とのデートを楽しんだ。

前までは立場が逆だったが、同化によりモテ女となった私が男日照りに会うことなどない。


そのデート中だった。


「痛っ……!」


「どうした? 生理?」


「ちがっ……ちがうわよ……なんか急に胸が苦しくて……」


急激な痛みに襲われてデートは中断した。

翌日のニュースで理由がわかった。



『昨日、モデルの藤崎るーこさんが何者かに刺殺されました。

 犯人は過度のストレスがあったのか、被害者をメッタ刺しし……』



「うそ……るーこが……」


私の同化先が死んでしまった。この場合どうなるのか。

慌てて装置の署長に問いただした。


「同化先の人間が死んでも、同化は止まらない」


「つまり……」


「同化して完全に彼女になる。つまり、死ぬ」


「そんな!? 同化を止めてください!!」


「一度はじまった同化は途中で止められないよ」


私はすでに死へのレールに乗せられてしまった。

この先、同化が進むにつれてじわじわと私は死んでいく。


「そんなのいやです! なんとかしてください!」


「だからそんなことできない……装置を壊しても止まらないし」



「待って!!」


私が署長ともめていると、友達の里美がやってきた。


「里美! どうしてここが!?」


「友達だもん。考えてることなんてわかるに決まってるよ」


「でも、それも今日まで。私は同化して死んでいくの……」


「そんなこと絶対にさせない。

 同化を止めることができないなら、私と同化して上書きすればいいのよ」


里美は自分の髪の毛を抜いて、装置の中に入れた。

その手があった。


同化は止まらない。でも、別の同化先ができればまた別だ。

死の運命を避けることができる。


私は装置の中に飛びこんだ。



びびび。



まばゆい光があたりを包んだ。


「成功だ! 同化先の上書きに成功したぞ! これで死ぬことはない!!」


所長も大喜びでぴょんぴょん跳ねていた。


「里美ありがとう、本当に里美は最高の友達だよ……!」


「ううん。親友が困ってるのがわかったら、手助けするのが友達だもん」


私と里美はお互いの手をぎゅっと握った。

しだいに私は里美に同化していった。


同化により里美の記憶や心が流れ込んでくる……。




「うそ……里美が……藤崎るーこを殺したの……」


同時に知りたくもないことまで、知ってしまった。

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