初心者冒険者と結婚編

第57話 昇格と……

 ども、和泉です。

 いや~~入院生活と言うものは、実際に体験してみると結構辛いものですね。

 動けないし、痛いし、退屈だし……。

 入院してみたいと思っていた過去の自分を、全力で殴り飛ばしたいね。


 あれから、町のみんなが代わる代わるお見舞いに来てくれた。なんと男性冒険者の皆さんまでもが、顔を出してくれたのだから驚きだ。何かあったのだろうか?


 お見舞いと言えば、シルノとルノンが一緒に来てくれた時があったのだが、何処かよそよそしかったなぁ。喧嘩でもしたのかな?



 そうそう、入院生活で新しいスキルが2つも手に入った。【薬剤師】と【医療知識】の2つだ。

 足の骨折で移動もままならない入院生活では、エイルさんとの会話が唯一の楽しみだったのだ。

 そんなんだから、エイルさんから薬の作り方や、簡単な応急処置の仕方など教わっていたら、気が付いたらスキルを習得していたのだ。


 そして、長い入院生活を終え、ようやく僕は自宅へと戻って来たのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 自宅へ戻って来たのだが、ひと息つく間もなくギルドへの呼び出しをくらった。

 雨季の真っ只中という事で、クエストも少なくなっていると聞いていたのだが、何かあったのだろうか?


 無視して寝てようかと思ったのだが、マスター直々の呼び出しという事で、渋々ギルドまで行くことになった。



 ギルドに到着すると、何処か雰囲気が違う。

 今までは、こう……ギスギスしていたのに、見渡す限りそういった雰囲気は感じられない。

 それどころか、僕を見るなり男女の区別なくほぼ全員が声をかけてくれる。


「どういうこと?」


「あ~いずんちゅが倒れてからな、何故か和解したんだよ。男と女が」


 なんと、そんなことが。

 でも、言われてみればカウンター前のテーブルには、男女混合のグループがいくつもある。

 いつの間に仲良くなったんだ?


「おー来たか! 待っていたぞ」


 すっかり雰囲気が変わってしまったギルドを眺めていると、奥の方からマスターとスルトがニコニコしながら、近づいてくる。

 正直、不気味だ。


「なんかヤバくない?」


「何かあったかもしれないな」


「逃げるか?」


「貴方達、なんて会話をしているのよ」


 2人と頭をくっつけつつ、相談していると、コツンと頭を小突かれた。

 驚きで頭を上げると、そこにはため息をついきつつ呆れているレイラの姿があった。


 お互いに挨拶をしていると、タイミングよくマスター達が到着した。

 何がそんなに嬉しいのか、僕達を前にすると、一層笑顔が華やいだ。


「いや~本当に良くやってくれた。キング・フォレストボアをこの町専属の冒険者が討伐してくれたなんて、鼻が高いよ!」


「しかも、本部の奴らが手を焼いていた個体じゃったからな! イズミのオリジナル魔砲の件と合わせても実に爽快な気分じゃ」


 スルトとマスターが嬉々として話し始める。

 しかし、スルトの言い分は分かるが、マスターはギルド本部が嫌いなのだろうか?


「それで? 何で僕達は呼ばれたんでしょう?」


 興奮冷めやまぬ大人達を眺めているのも飽きたので、声をかけることにした。

 このまま黙っていると、日が暮れてしまう。


「おお、そうだったそうだった。ギルドカードを預けてくれるかい?」


 スルトが笑顔のまま右手を差し出してくる。

 まぁスルトだし? 預けてもいいか。

 僕達はポーチからカードを取り出すと、スルトに手渡した。


 何かするのかと思ったのだが、スルトはそのまま後ろに控えていたヴェルさんに渡してしまった。




「さて、まずは場所を変えよう。ワシの部屋まで来てくれるか?」


 そう言うと、マスターはスキップしそうな勢いで、ギルドの奥へと歩いていく。

 ジジイのスキップとか別に見たく無いのだが……。


 場所をマスターの執務室に移して話しが再開した。この部屋に来るのも3回目だね。


「まずは、この前討伐してくれたキングフォレストボアの報酬を渡そう」


 マスターはそう言うと、1人ずつに革袋を手渡していく。

 ふむ、緊急依頼だったのか、随分と軽いような?


 軽く袋を揺すってみるが、音の感じから10枚以上は入っていないようだ。

 なんだよ~ちょっと期待してた分、ガッカリ具合が大きいぞ。治療費とか出費が多かったんだから、少しくらい色をつけてくれてもいいだろうに。


 僕はそっと革袋を開け、中身を確認した。

 そして、同じようにそっと袋を閉じた。


 あれ? おかしいな、袋の中には金色のコインしか入ってなかった様な……。

 いやいや、あり得ないって。金貨10枚って言ったら10万Gって事でしょ? 日本円で1000万よ?

 でっかいイノシシ1頭討伐して1000万は無いって。


「ギルド本部からの報酬と、ワシらからの報酬。それに各素材を買い上げた合計で、1人あたり10万Gとなっているからな」


 そんな事ありましたーー!?

 マジで? マジでこの金貨貰っちゃっていいの?

 ウヒョーーっ一気に金持ちだぜ!


 しかもマスターの説明によれば、僕達の借金を差し引いてこの金額なのだと言う。

 もうこれは、僕の時代が来たんじゃないの?


「私は、正式なパーティメンバーじゃ無いから、こんなに受け取れないわ」


 1人で有頂天状態になっていると、レイラがスッと革袋をテーブルに戻した。


「ふむ、では正式にイズミ達のパーティに加入してはどうかな?」


 それを見たスルトが、何事も無い風に提案した。


「実を言うと、エルトと相談していたんだ。これからの君たちの事を考えたら、同じパーティになった方がいいと」


 何やら意味深な事を言いだしたぞ。

 これからの事と言われてもねぇ。レイラはまた別の街に行っちゃうんじゃ無いかな?


 そんな事を考えていると、ノックと共にヴェルさんが入って来た。そして、手に持っていた物をマスターに手渡した。


「ちょうど良いタイミングだ。お前達、これが理由だ」


 マスターから渡された物は、僕達のギルドカードだった。

 別にこれといって変わった様子がないのだが、強いて言えばカードの色が変わったくらいだろうか?

 今までは、鉄の色をしていたカードが、銅のカードになっている。


「驚いたかい?」


「「「え? 何がですか?」」」


 スルトが自信満々に言ってくるが、僕達3人は声をそろえて逆に質問してしまった。

 ギルドカードの色が変わったくらいで、いったい何に驚けばいいのだろうか?


「……え?」


「おいおい……」


 僕達の質問に、今度はスルト達が驚いている。

 どうやらギルドカードが銅色になるという事はすごい事らしい。


「イズミ、銅色のカードブロンズカードってね、Cランクの冒険者に与えられるカードなのよ」


 レイラがため息混じりに教えてくれた。

 冒険者ギルドの発行するカードには、各ランクに対して色が設定されているそうだ。

 各ランクの色は次の通りで、


 S・・・・・虹色

 A・・・・・金色

 B・・・・・銀色

 C・・・・・銅色

 D・・・・・鉄色

 E以下・・白色


 となっているそうだ。

 僕達はいきなりDランクのカードを貰っていた為、色の変化に気が付かなかったようだ。


「カードの変化って、1番最初に教えているわよ」


 なんと、どうやらスクラナさんの説明をまるっと聞き逃していたようだ。


「まったく、お前らと言う奴は……」


「「「いや~それほどでも」」」


「褒めてないんじゃがな……」


 マスターがガクリと項垂れてしまった。きっと普段の仕事が忙しいんだろう。かわいそうに。


「話しを続けるぞ」


 そんなマスターを置いといて、スルトが話しを続ける。

 どうやらCランクになると、今まで以上に危険なクエストが多くなるという。

 そして、今まで各地を巡っていたレイラは固定のパーティを持っていない。

 ソロでもやっていけないことは無いが、危険度はパーティと比較にすらならないのだという。

 そこで、キング・フォレストボアを一緒に討伐した僕達となら、気兼ねなくパーティを組めるのではないかとスルトが提案してきたのだ。


 表向きはそういった理由なのだろう。

 だが、本音を言えば、この町の専属冒険者を増やしたかったのだろう。

 それは、ひなぞーが渋々とだがレイラの加入を認めた時の顔を見れば一目瞭然だ。

 まぁこちらとしても、戦力が増えるのは大歓迎なんだけどね。

 大した問題も起きないだろうし。


「では、君たちも新しい家に引っ越しをしようか。今の家だと手狭だろう」


 ……前言撤回。いきなりの問題発生だよ!

 引っ越しをするという事は、女の子と一緒に生活をするのか!?

 あ~ひなぞーが荒れそうだなぁ……。

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