第19話 腕試し
「解せぬ」
あの後、あれよあれよと言う間に話しが決まり、僕は今武器が保管されている場所へと連れて込まれていた。
武器はハミングバードを使うつもりだったのだが、ウィルディさんが魔砲を使えないため、魔砲は禁止となった。
「解せぬじゃねーよ。早く武器を選べよ」
ひなぞーが、後ろから蹴りを入れてくる。てかお尻を蹴らないで欲しいよ? 地味に痛い。
武器選びには、当然ながらひなぞーと武さんの2人がついてきた。ついでに、
「イズミは小さいからな。ここら辺の片手剣が良いと思うぞ」
何故かスルトまでついてきていた。本当になんでついてきたんだろう?
差し出された片手剣は、平均的な長さの直剣だ。特にこれといった装飾もなく、少々無骨な感じだ。
右手で受け取り、正眼に構えようと……構え……よう……と……。
「お、重い……」
結構力を入れて持ち上げようとしたが、正眼に構えることは出来なかった。なんでこんなに重い片手剣が置いてあるんだ? 誰も使えないだろうに。
「おいおい、そこまで重くないだろう。平均的な片手剣なんだが」
しかし、スルトは普通に剣を持ち上げると棚に戻す。
バカな……片手剣なんて1kgちょっとくらいだろう? 弾を込めたハミングバードの方が絶対重いぞ?
僕は細くなってしまった両腕を呆然と見つめた。
「イズミは本当に男かどうか疑いたくなるな」
「でもハミングバードは片手で余裕に持てたんですよ!」
僕はスルトに反論する。見た目が10歳前後の女の子だとしても、中身は20歳の俺なのだ。ここで僕が、男という事を否定するわけにはいかない。
「あ~魔砲は、自分の主人が持てる重さに自動で変化すると言われているぞ」
なんてこったい。それじゃ僕はハミングバードに気を使ってもらっていたのか……。
「しかし、この剣が持てないとなると……後はこういう短剣の類いになるぞ」
ショックで膝をついている僕に、スルトは1本の短剣を手渡してきた。
その剣は、古代ローマ時代に使われていたと言う“グラディウス”にそっくりだった。
刃渡りは50cm程で、柄まで入れても80cmは無いだろう。
右手で握り締め、数回素振りをする。少し重いが、許容範囲内かな。
「それで良いのか?」
「はい、大丈夫です」
スルトは頷くと、今度は盾の方に歩いて行く。
そんなスルトを、僕は呼び止めた。
「あ、スルトさん。盾はいいです、多分上手く使えないでしょうし。それよりも、この剣をもう1本借りても良いですか?」
「剣を2本持って行くのはいいが、大丈夫か? 相手はウィルディだぞ?」
いや、『ウィルディだぞ』と言われても、僕はウィルディさんの腕前は知らないし。腕試しをするって言うくらいだから、上級の冒険者なんだろうけどね。
「大丈夫です。僕のいた国では盾を使わない剣術が主流でしたから」
まぁ日本刀とも違うので、授業でやった程度の腕で何処まで出来るかわからないけど。
「そうか、まぁイズミがそう言うのならいいのだが」
そう言うとスルトは、先ほど返却したはずの装備一式を取り出してくれた。てかさ、今まで何処に持っていたんさ。
「よし、それじゃそれに着替えて訓練場に行くぞ」
どうやらスルトが、案内してくれる様だ。
僕はスルトの後について行った。
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控え室と思われる簡単なロッカー室に着くと、手渡された装備をつけて行く。
と言っても、胸当てと腰回りのフォールド、籠手に脛当ての4箇所の装備なので、簡単なものだ。ちなみに全て革製である。
「一応刃引きはしてある武器だから大丈夫だと思うが、無理はするなよ」
隣に立つスルトが、そんな事を言ってくる。
やめてよ、不安になってくるじゃん。
少し自分の装備を見渡して、僕はある決心をした。
「スルトさん、金属製の鎧って有ります?」
「あるにはあるが……変更するか?」
「お願いします。腕でと足だけでいいので貸してください」
スルトは、直ぐに頷くと部屋を出て行き、数分もしないうちに帰ってきた。
「これが、うちのギルドで1番小さいガントレットとレッグアーマーだ」
僕はお礼を言って革の籠手と脛当てを取り、受け取った装備に変更して行く。
ガンドレットは肘まであるし、レッグアーマーもブカブカだ。
「スルトさん、ブカブカです」
「イズミは魔砲師だろう。防具に魔力を流してみろ」
流してみろって言われても……。とりあえず、ハミングバードにリロードする時の要領で力んでみる。
すると、ブカブカだった防具は僕の体にジャストフィットするではないか。
「元々防具は大きめに作って、こうして魔力で調整する様になっているんだ。普通は調整に魔力が必要だから、店でしか出来ないのだが、イズミが魔砲師でよかった」
スルトの説明を聞きながら、手足を動かし、具合を確かめる。
うん、大丈夫みたいだ。
僕は腰に2本のグラディウスを括り付け、ロッカー室を出ようとする。
「和泉さん」
すると、珍しく武さんが真剣な顔で話しかけてくる。もしかしたら片手剣の使い方のコツでも教えてくれるのだろうか?
「何、武さん?」
「そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ないって何言わせるの!?」
あろうことに武さんは、この世界に来て1番の笑顔でサムズアップをしやがった。
「よし! これで大丈夫!」
「何が!?」
「いずんちゅよ」
武さんの尻を思いっきり蹴り上げていると、今度はひなぞーから声をかけられる。
「そんな装備で、だ「言わせねーよ!?」」
何なん? こいつら、本当に何なん!?
ひなぞーも蹴ろうと思ったが、ひらりと躱されてしまった。ひなぞーめ、意外と素早い。
僕は怒る気持ちを抑えて、訓練場へと足を踏み出した。
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訓練場は一言で言ってしまえば、コロッセオの様だった。
地面がむき出しの円形状で、周りを観客席が取り囲んでいる。たかが訓練場なのに、何故観客席が設置されているのだろうか?
しかも、大半の観客席が埋まっているのだ。ここで腕試しをすると決まってからそんなに時間は経っていない筈なのに……娯楽が少ないのかな?
辺りを見回しながら中央に向かうと、既にウィルディさんが仁王立ちで待っていた。待たしてしまったのは申し訳ないが、何故仁王立ち?
「イズミ、貴女その格好で戦うの?」
「え、あ~ごめんなさい。まだ自分の装備を持ってないんです」
きっと、このちぐはぐな装備を見て声をかけてくれたのだろう。
「そうじゃなくって!」
「はい、イズミちゃん。これ使って」
怒っているウィルディさんを無視し、ヴェルディアさんが1本のリボンを手渡してくれた。
「イズミちゃん、その髪じゃ戦えないわ。持ち合わせがこれしかないから、色は我慢してね」
なるほど、髪を縛れと言うことか。
ロングヘアに設定した僕の髪は腰辺りまである。今まで気にもしてなかったけど、縛った方がいいのだろう。
しかし、困った。僕は髪を縛った経験が無い。
僕は真っ赤なリボンを持ったまま固まってしまった。
「イズミちゃん、もしかして……」
「髪を縛ったこと無いわけ?」
「てへっ」
笑って誤魔化そうとしたが、無理だった。
ウィルディさんは盛大なため息をつき、ヴェルディアさんは苦笑いで僕の後ろに回ってくれた。
いや、だってね~20年間男として生きて来たのだ。髪を縛る経験なんてある訳がない。
「イズミちゃんの髪は、綺麗で羨ましいわ」
ヴェルディアさんは、自前の櫛で簡単に髪を整えると、簡単にポニーテール風に纏めてくれた。
「まったく、貴女って変な女の子ね」
「いや、僕は男ですって」
ヴェルディアさんが離れると、一気に緊張が高まっていく。軽口をたたくのも緊張を紛らわそうとしているからだ。効果はないけど。
「では、これよりウィルディによるイズミの腕試しを行う! ルールは時間制限無しの1本勝負。気絶するか、戦闘不能になるか参ったと言った方の負けとする。
……それでは……始め!!」
審判役のスルトの合図により、腕試しという
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