第11話 ギルドマスター
鎧3人組との喧嘩が終わった時、僕の頭に、新たなスキル取得のアナウンス……と思われるものが流れた。
多分武器を使わずに、戦闘を行った事で、取得出来たと思うのだが……取得条件はよくわからない。
しかも、いきなりの中級である。大神さんが言うには、スキルを取得し易くしているとの事だったが、それにしても早すぎではないだろうか?
「まったく、ギルドで暴れた馬鹿どもはどいつだ?」
頬の痛みも忘れて、取得したスキルについて考えていたら、野太い声がまたもやギルド内に響いた。
声がした方を見れば、奥の部屋から、初老に差し掛かったくらいの男性がこちらに向かって歩いて来た。見た目に反してしっかりとした足取りにピンと伸びた背筋、そして何よりも体から湧き上がる怒りのオーラが年齢を感じさせない。
「また、ジーンとデニムにスレンダーの3人組か!」
どうやらこの3人組は、このギルドでも有名人のようだ。
3人組の最後の1人、革鎧は他の冒険者の皆様が取り押さえてくれていた。まぁ後ろからブスリと刺されるのは勘弁願いたいしね。
「おーい! 君たち無事か!?」
3人組が、ギルマスによって連行されていく中、人垣を掻き分けスルトが近付いてきた。
どうやら話し合いは終わった様だ。
「デニムの連中が、何か暴れたとか聞いたけど……イズミ!? 怪我をしているじゃないか!!」
スルトに言われ、改めて左頬を触ると、左手にベットリと血が付着した。よくよく見ると、頬から流れたであろう血が、チヨ婆から借りている服を真っ赤に染めている。
「……あのクズ、確実に息の根を止めてやる……」
「待て待て待て!! これ以上騒ぎを起こすと登録出来なくなるぞ!!」
一歩踏み出した所で、後ろから羽交い締めにされる。
放して下さい、スルトさん! 恩人から借りている服を汚した罪は、万死に値するんです!
革鎧にとどめを刺すために、移動をしたいのだが、後ろから簡単に持ち上げられた体は宙に浮き、ジタバタともがくが拘束は一向に解けない。
「取り敢えず怪我の手当てをしなければ……。ヴェルディア! 怪我の手当てを頼めるか!」
スルトは辺りを見回して、1人の女性を呼び寄せた。
「わかりました、スルト様。さぁ、こっちへいらっしゃい」
声の感じからして、先ほど叫んだ女性で間違いないだろ。
ヴェルディアと呼ばれた女性は、僕の手を取ると、そのままギルドの奥へと歩き出した。
ヤバイ、女性と手を握って歩くなんて小学生以来だ。変な汗かいてないよね?
「私たちは奥でエルトと話しているので、治療が終わったらそっちに来てくれ!」
それは僕に言っているのかな? それともヴェルディアさんに言っているのかな?
真相はわからないが、僕達は喧騒の残るギルドホールを後にした。
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連れてこられたのは、医務室と書かれたプレートがかけられた部屋だった。
「ギルド内に、医務室があるんですね」
「ここのギルドは、訓練場も併設されているの。だからって訳じゃないのだけど、応急処置くらいは出来るのよ」
ヴェルディアさんは、僕の質問に答えながら、薬品棚からビンを1つ取り出した。
ヴェルディアさんを一言で表すとしたら、『清楚』と、表現するのが1番だろう。
亜麻色の綺麗なストレートヘアーを肩甲骨辺りまで伸ばし、ギルドの制服がベストマッチしている。かなりの美形で、どちらかと言えば、綺麗系よりは可愛い系の美人さんだ。
スタイルもとてもよく、出るところが出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
「私の格好、どこかおかしいかしら?」
ヴェルディアさんは、制服の裾をつまみながら質問をしてくる。
しまった、マジマジと見過ぎてしまった。せっかく手当てをしてくれているのに、申し訳ない事をしてしまった。
「ごめんなさい。ヴェルディアさんがとても綺麗だったから……」
何を言っているんだーー!? 言い訳するにも、もっと別の言葉があるだろうに! ヤバイ、完全に変な人だよ~~。
「あら、ありがとう。でも貴女もとっても綺麗よ? この銀色の髪なんて羨ましいわ」
だがヴェルディアさんは、逆に笑顔で僕の髪を褒めてくれる。なんていい人なんだろう。
その後、切られた左頬にやたらと沁みる軟膏を塗られ当て布をして治療は終わった。
なんかとてもよく効く軟膏なんだと。
「はい、治療は終わりよ。もう無茶しちゃダメよ?」
「ありがとうございます。あ、自己紹介もせずにごめんなさい。僕は、和泉といいます」
「イズミちゃんね。私は、ここのギルドで働いているヴェルディアよ。これからもよろしくね」
僕は、ヴェルディアさんと握手をすると、医務室を後にした。
まぁそう言えば格好いいのだろうが、実際は手を引かれてスルトが待っているであろう部屋まで案内してもらった。
女の人の手ってなんでこんなに柔らかいのだろう……。
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案内された部屋は応接室の様だ。
中央にローテーブルが置かれており、向かい合う様に4人掛け程のソファーが設置されている。
その手前側に、ひなぞーと武さんが、向かい側に、スルトと先ほどの初老の男性が座っていた。
「お、早かったな。そこへ座ってくれ」
僕の姿を確認すると、スルトは武さんの横へ座る様言ってきた。まぁ順番なんてどうでもいいんだけどね。
「おいスルトよ、まさかとは思うが、その嬢ちゃんも冒険者にするなんて言わないよなぁ?」
「いやエルト、そのまさかなんだよ。ここにいる3人を冒険者として登録してもらいたい」
僕がソファーに座るかどうか位で、初老の男性がスルトに話し始める。多分、この人がエルトさんなのだろう。
「おいおい、そりゃ何の冗談だ? こんな嬢ちゃんが冒険者になっても、直ぐに奴らの腹の中に収まっちまうぞ」
「いや、先ほどの騒ぎの話しを聞く限り、イズミも十分に戦えるはずだ。油断していたとは言えジーンとデニムを倒したんだからな」
話しの流れから察するに、骨鎧がジーン、金属鎧がデニムなのだろう。そうなると、革鎧は残りのスレンダーという事になるな。
スレンダーめ……次あったら泣いて謝る迄殴ってやる。
「……まぁいいだろう。儂が、このギルドでマスターをしておる、エルトガルザと言う。今後、このギルドを利用するなら、儂のことはマスターと呼べ」
「よろしくお願いします。陽向といいます」
「涼です」
「和泉でーす」
エルトガルザさん改めマスターに、順番に挨拶をする。
1人ひとり握手をすると、マスターはバレーボール位の水晶を取り出してくる。
「では、ヒナタから順番に、この水晶に手を当てもう1度名前を名乗ってくれるか?」
マスターに言われ、ひなぞーから順々に水晶に手を当て名前を名乗っていく。すると、名前を言った瞬間に、水晶が淡く光り、マスターが何かを書き留めていく。
僕の分迄書き終えると、マスターはペンを置き、何処か納得した様な表情になった。
「なるほど、全員戦闘スキル持ちだったとはな。
ヒナタは、大剣とハンマー、リョウは、片手剣とランス。
イズミに至っては、魔砲と片手剣、それに格闘と3つも持っておるわい」
おや? そのラインナップは、僕達がナビちゃんの所で引き当てたものと一緒だ。
「おい、いずんちゅ。いつの間に【格闘】何てスキルを覚えたんだ」
「さっき暴れた時にね。アナウンスが流れたよ」
わざわざひなぞーが、覗き込みながら聞いてくる。
どうやって覚えたのか、聞かれても正確には答えられないのだけれども。
「まぁ犯罪歴も無いようだし、登録を許可しよう」
こうして、何とか冒険者としての道が開けた。
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