第十五話 壊れた病院
元倉総合病院、KABUKI町にあるそこそこ大きい病院だ。
見た目なんかも新しく建てたばかりのように綺麗で、設備等なんかも充実しているようだ。外科、内科、循環器などなど総合病院というからには多くの診療を行っておりその中でも、放射線を使用したガン治療は海外からも多くの注目を集めているらしい。
さて、今回行うことは三つある。
・病院の患者記録と職員の名簿を回収する。
・被害者の友人たちに聞き込みを行う。
そして最後に・・・
「実際に診療を受けろって・・・俺は仕事中だぞ」
そう呟いて、昨日の作戦会議で決まったメモ用紙をポケットにそしてメモ用のペンを胸ポケットに突っ込んでため息をする。
さて、行くとしますか。
そして俺は患者の少ない昼下がりの病院へと足を踏み入れた。
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「それで・・・患者とここの従業員の名簿のデータが欲しいと?」
「えぇ、今回の事件の調査の資料としてお借りしたいのですが」
元倉総合病院の医院長室にて、その目の前に座っている人物はここ元倉総合病院の医院長、元倉 康介62歳。見た感じは白衣などは来ておらず、スーツ姿でとても医者には見えないがなかなか貫禄のある人物だ。
「渡すことには異論はありません、すぐに準備させましょう」
「ご協力感謝いたします」
俺は椅子から立ち上がり深々と礼をする、これでまず一つ行うことを終えた。
「いえいえ、お気になさらず。どうぞ座ってください、秘書に持ってこさせますので」
そう言うと元倉は立ち上がり、自分の机に置いてある受話器で話をし始めた。
しばらくしゃべってそうなので、俺は辺りの部屋を見渡すが壁には多くの賞状と写真が飾ってあり、おそらく先代の医院長の写真が並んである。そしてガラスケースの中には多くのトロフィーとなんかの勲章が飾ってありそれらをしっかりと眺めておく。
「お待たせしました、もう少しで持ってくるそうなので」
「ありがとうございます」
元倉が席に戻ってきて俺の視線はまた正面へと戻る、さて。
次だ。
「すみません、待ってる間に幾つか質問したいのですがよろしいでしょうか」
「えぇ、構いませんが・・・」
俺はボイスレコーダーを取り出し、机の上に置く。念のためだが。
「今回の被害者について何か知ってることはございませんか?」
「さぁ・・・この病院にも看護師はたくさんいますしね・・・さすがに全体のことは把握できておりません」
「『高橋 直樹』については、ご存知ですか?」
「・・・残念ながら・・・」
確かに、大きな病院だったら看護師はたくさんいるし全体を把握しきれていないというのも頷ける話だ。
「そうですか・・・ちなみに単刀直入に聞きますがこの病院から密売臓器が出ていたのは把握されていましたか?」
「いいえ・・・」
高橋 直樹の証言が正しいのであればこの病院では死刑囚の臓器が秘密裏に売買されている。こうなるともはやこれは病院の不祥事だ、いずれニュースなどに取り上げられることになるだろう。
「そうですか。それでは最後になりますが岩崎 薫さんとはお会いしたこと、もしくは何か話したことはありませんか?」
「・・・ありませんね」
そう言って元倉が首を横に振る。医院長が関係ないとしたらおそらくここの院内に高橋 直樹の所属していた組織の協力者がいるということになる。
これはかなり厄介だ。
そう思っていると、扉をノックする音が聞こえ元倉が指示をすると中に秘書と思われる女性が入ってきた。
「元倉医院長、データの方をお持ちしました」
「あぁ、そちらの刑事さんに渡してやってくれ」
するとこちらに秘書が近づき俺は席を立つ、見れば20代頃だろうか?よく手入れのされた髪と程よく香る香水は、なかなかいい暮らしをしているのだろうかと想像する。薄化粧ではあるがすっぴんでも十分美人なんだろうなとも思ってしまった
「こんにちは。私、元倉医院長の秘書を務めています、中井です」
「警視庁捜査一課の渡辺 純です。この度は捜査協力感謝します」
警察手帳を見せて挨拶をすると、中井は手に持っていたUSBメモリーを丁寧に渡してきた。
「ここにこの病院の全職員、入院患者のデータが入っています。お分かりだとは思いますが決して外部には漏らさないように気をつけてください」
「えぇ、もちろん」
中井が説明するがそれは当然のことだ、俺たち警察にも守秘義務があるのと同じように病院にも守秘義務が存在する。まぁ時と場合によるが。
「それでは、本日はお忙しい中時間を割いていただきありがとうございました」
「いえいえ、我が院内で起こった事件です。尻拭いは自分でしなくては」
そう言われ、なんとも言えなくなったがそれは確かに管理が行き届いていないことが原因でもあるだろう。そう思いながら俺は医院長室を後にした。
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さて、次は院内での聞き込みだ。すでに医院長には許可を取っているし今は病院が時間的に空いているとのことなのでやりやすいだろうとのことだった。
岩崎 薫のいた病棟は主に外科の方で、そこに入院する患者の看護をしていたそうだ。病棟の3階にあるナースステーションは主に彼女がいた場所だったそうだ、おそらくそこの看護師に話を聞けば何かわかるだろう。
外科の病棟に向かうまでの廊下は俺の定期検診で通っている病院に比べいくらかきれいに感じる。そして受付や待合室などはとても広く、よく周りを見れば何やら高そうな絵を飾ったりと白の空間だけではなく彩りもあり、純粋に良い病院だと思った。
ナースステーションに行くまでに俺はさっきの会話のシーンをもう一度よく考えてみる、確かに元倉の言うことも理解はできる。だが、あまりにも事件のことを他人事のように考えてる気がしてしょうがない。
そうこうしているうちに、エレベーターは3階をそこから降りる。さて、ナースステーションを見つけるのは思ったより簡単で、エレベーターを降りてすぐのところにあった。
「すみません」
「はい、面会ですか?」
声をかけると、年配な看護師が受付に現れ、入院患者の面会かと聞かれた。
「いえ、私こういうもので」
「・・・あっ」
俺がポケットから警察手帳を取り出すと、看護師は状況を理解し少し顔を強張らせた。
「ここで働いていた岩崎 薫さんと高橋 直樹さんについて聞きたいのですがお時間よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞここでは何ですから」
そう言って受付の前にある椅子や机などのある談話室みたいなところに案内された。
「それでは、早速ですが質問をしてもいいですか?」
「はい、ですが薫ちゃんの件ではもう何度も警察にお話をしたはずです。それに犯人は死んだって聞きましたよ?」
「えぇ、ですが追加で捜査が必要になってしまって。大丈夫ですお時間は取らせませんから」
現在、この病院で臓器売買が行われていたというのは秘密になっている。マスコミに公表するまでは黙っていてくれとのことらしい。
今目の前に座っているのはここの看護婦長を務める佐川 涼子、53歳。この病院に勤めているのが最も長く、看護師をまとめる役割を持っており一番広くここの看護師のことを知っている人物だろう。
そして、今までの捜査でもしてきた質問もしながら、今回新たにする質問をする。
だが、今回の収穫はそれほどでもなかった。以前した質問の回答とほとんど変わらない。
なら、次だ。
次に呼んだのは、岩崎 薫と一番仲の良かったと言われている葉山 美穂、27歳。彼女に対しての質問内容も佐川に変わらないものをしたが、そこで俺はホームズに言われたもう一つの質問をした。
「岩崎さんが最も接していた医師は誰ですか?」
「えっ・・・確か・・・外科の斎藤先生とか落合先生・・・ですかね」
「となると、特に接していた医師はいなくもう満遍なくですか」
「はい、基本先生はいろんなところにかけ持つので特に多く接しているとかはないですね・・・」
なるほどな・・・だがこの質問がどんな意味をなすというのかがわからない。
「わかりました、今日は以上です。貴重なお時間ありがとうございました」
「いえ・・・あの、刑事さん」
「はいなんでしょう」
立ち上がろうとした時に俺は葉山に呼び止められる。
「薫さんを殺した犯人・・・死んだんですよね」
「えぇ、そうですね」
今回の事件の犯人とされた、高橋 直樹が何者かに射殺された事件はすでにマスコミの手によって報道されており、この病院内でも知っている人は多い。唯一知らないのはこの病院が臓器売買をしていたということくらいだ。
「・・・いえ、なんでもありません。すみません引き止めてしまって」
「いえ、いいんですよ。何か思い出したことがあったりしたらここに連絡してください」
そう言って渡したのは、自分の名刺だ。それを両手で受け取って顔を上げた彼女の目は若干赤くなっていた。
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さて、次は自分が診療を受けろというのだが・・・これは無理だろ。なにぶん自分は今健康体だ、それに行きつけの病院だってある。
ということでこの話はまた今度ということにしよう。まぁあいつがどんな反応をするかはわからんが。
今俺は警視庁へと向かうバスに揺られながら、おもむろに胸に挿しておいたペンの頭を押す。
さて、こいつが今回の重要な鍵だ。
俺は警視庁に向かって、調書に新たに書き加えることが増えたためそれの記入を行う。そして全ての記入を終える頃には時刻は午後8時を回っており、帰ろうかと席を立とうとした時だ。
「おい、渡辺 純」
「えっ、はい」
突如誰かに呼ばれ、後ろを振り向くとそこに立っているのは、逃走の指示を担当していた倉橋刑事だ。
「いや、すまん。あの探偵小娘が気になってだな・・・」
「あいつなら今自宅で謹慎処分のはずです」
「そう、だったな」
若干ではあるが少し肩を落とす倉橋刑事、確かに逃走の指示だしをしていた責任者は彼であったこともあり、少なからず始末書などを書かされたことは間違い無いだろう。
「これからあいつに会うのか?」
「まぁ、はい」
「そうか、なら伝えといてくれないか?見くびって悪かった。と」
そういえばあいつは倉橋刑事に向かって自分の目で確かめろ、みたいなことを言っていたような気がする。となると倉橋刑事はホームズの才能を認めたということか。
「わかりました、伝えておきましょう」
「すまない、ありがとう」
そう言って倉橋刑事は帰ってしまった、さて俺も帰らないとな。
村上さんの家に。
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「それで、収穫はあったのか?」
「いえ、以前の捜査の内容とほとんど変わりません」
目の前には村上さんが腕を組んで座っており、その隣にはホームズが座っている。現在は午後10時過ぎ、晩飯を食べたあと俺たちは以前と同様今日の捜査についての話をしていた。
「なるほどな・・・ホームズ、どう思う?」
「まず、私の言ったとうりにしたんだろうな?」
そう言われると若干腹がたつが、俺は黙って今日渡されたUSBメモリーのコピーをテーブルの上に置いた、元のUSBメモリーは鑑識に置いてきた。
「まず一つだな。龍一、パソコンを借りるぞ」
「あぁ、好きに使ってくれ」
そう言われてホームズはリビングを出て約数分で戻ってきた。
「さて、まずデータを見よう。ついでだ。純、ボイスレコーダーと私のペンを返せ」
「あぁ、うまく撮れてる保証はないぞ?」
そう言って手渡すがホームズは無言だ。
実は俺が今回使用したペンには小型のカメラが搭載されており、胸ポケットから俺の質問や見たものなどがすべて記録されている、それを後々確認しようというものだった。
「・・・よし、これだな」
「総従業員数2346人、入院患者が3054人か・・・」
やっぱり規模は大きい、この中から犯人をさがs
「やっぱり、おかしいな」
「ん、なんだってエミリー?」
データが表示されて約数秒、すでにホームズは何かをわかったような顔をしている、おいまさかお前・・・
「おそらくだが」
犯人がわかったかもしれない。
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