うさぎが懐いてくれない

酒山七緒

おっさんの歩んできた道

 何もない人生だと呟けばそれを懸命に否定してその方の存在が私の隣にあることに安心し信じて頼ることを論する人に恵まれている。私はそれがあることは当たり前に感じていて私自身のことで苦労の覚えはなく、評価されやすい位置に存在できているとあらゆる節目で感じる、そんな生活で不満は無かった。自身、こつこつと努力の面で頭を撫でられ、特といった特徴や伸びしろはないものの一生懸命に見えるその姿は素晴らしく思われた。思い出せばそれは、私は誰にでもある事だと当たり前に思っていて、何も成果をしないでいても何かに夢中になっている姿で周りの人は可愛がってくれることは私が可愛がられているという自覚以前に他の感覚を抱くのには容易だった。私はそれはごく普通で当たり前の事だと思っていたのだ。

 幼少期が過ぎ、勉強に皆頭を重くしている時、私は要領がよかったのかたまたま良い所ばかり掴みとっていたのか、最低限の事行動である程度の事では苦労をしなったので、頭のいい子だと思われた。隣に付きっきりで勉強を教えてもらうという状況が理解できなかったなんてことがある。不思議と人には困らなかった私は友人にも知り合いにも義務上の関係の人間にも恵まれ、よく人の相談事を聞いて、当たり障りのない言葉でも役に立つらしく私の意見はよく重宝された。

 人に恵まれていると自覚したのは、人に言われたときで、自覚は自分で発覚することであるのだが、私はそういうことに鈍く、人に言われて自分で思い返すまで全くわからなかったので、そういう関連の意見をしてくれる友人を尊重したら、周りは皆、賢く、他人を良く観察し、個人の意見を重視し、その自身も言いたいことがはきはきと言える人が集まり、お互いがお互いを伸ばしあい、競争し、私もそれに乗っかって評価を貰えたり、自発した物事でやっと成果を出し盛大に喜び合い再び評価される、そんな素晴らしい周囲が当たり前ではないのを知るにも大分遅くなっていた。

 言われることは真面目だとかそういうのばかりだけど、様々なことに対して砕けた考えを持っている一人の知り合いが言う事は、私をつまらないだとか自分の意志が無いだとかで、その場に私を知っている他の人がいれば、砕けた知り合いを論して、私の事を知らない砕けた知り合いの友人は、私がつまらなく意思の持たない人間であることに同調しその場の笑いにした。それで私を隣に置いて飲み歩くのは不思議と思うことはしばしばあり、私を笑いの種にするために連れ歩くのではないのが私と二人きりでいる時間が馬鹿にするために置いておくと考えるには多すぎて、この人はなんやかんや、遊んで廻ったりせずに落ち着いている私を隣に置いて安心しているのだと解釈していた。

 私の真面目な態度は異性にうけ、一筋だと紅いハートが散りばめられたラブレターを手に握りトイレに駆け込む青春は珍しい出来事では無かった。容姿を褒められたことはないし、むしろ批判的な言葉の方が記憶に新しいのだが、それが私が真面目であることで一筋に愛すという妄想を掻き立てるのか、成人後垢ぬけてないような人ないし遊びまわっていると噂が立つほどの少々派手な長身にまで、自身の追いかけられる対象にされ、表立ってちやほやされることはなかったものの、ストーカーまがいの事件で警察の顔を見て怯えていた痛い思いでがある。

 何もない人生という発言は皆否定してくれる。しかし、私には何もないとうなだれては人は慰めの言葉に詰まること多々。

 酒はすぐ酔って倒れてしまうことから、心の拠り所が必要だとわかった時、私の表情に生き生きとした若さが感じられないということなどをからかいの意を含めてそういう言葉に、どう慰めてくれるのかと様子を見ても、皆酔っていて、私への慰めの言葉を投げ買うほどの余裕すら無くなっていて、心の拠り所を酒飲み場での雑談で補ったりすることに不可能を悟る。

 恵まれていると気づくまで時間がかかるほど私は狭い空間で生きていたので、人の想像以上に実力が無いと生きていけない現実に恐怖を覚え、目覚まし時計から気づいたら冷たかった布団の中でまで疲れていて、家の中で帰りたいとの思いで視界を舞わせ、眠りにつくまで快適な空間で暮らしていた時を思い出しくだらない妄想をし、涙を流した。

 努力しかできない私だが、その努力が評価され、無理難題も投げ出さないでくれるだろうという期待を背よわされるようになるのは当たり前のことで、それが生意気な若造への嫌がらせだったかもしれないが、私は取り柄だけしか自分への評価が下せなかったのがあって、それを無くすのがいやでいやで、長期にわたったそれを成し遂げ、皆の期待を成し遂げ、それがあったことで評価されやっと安定した生活が送れるようになっている。

 時間に有余が出来て、お金に有余が出来て、大変羨ましがられ、その私の有余を目当てに夜道を渡る誘い建前の無心だろうものがしばしばあったが、酒が持たないことと、お金の使い道が分からないことで結果的にケチであることと、そもそもそういう行動に乗り気ではなかったことで、誘いは無くなり、いつの間にか、私は完全に私生活で孤独になっていた。

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