第一八話 諦めない――絶対にっ!
「ごめんっ!」
ミコトはシェルターの下降口に友達三人を押し込んだ。
「ちょ、ミコト!」
チア、アコ、コミの三人がもつれ合うように降下する姿を見届けては扉を閉鎖する。
重低音が響き、扉は内側より自動でロックがかかる。
電子ロックが大半をしめる学校であろうと中には電源が落ちた場合を想定して手動で開閉する避難口が設けられている。
ただし数は少なく、校舎につき一つ、一階にしかない。
ミコトが知っていたのは万が一を脳の隅っこに収めていたからだ。
「んっ!」
ミコトは物陰にすぐさま飛び込み、身を屈めては息を殺す。
フード付き狼が二足歩行で闊歩しながら時折周囲を見渡している。
探しているのがなにか、この状況で気づかぬ者はいない。
(どうしてEATRが人間を殺さず捕まえているの?)
度々目撃した。
EATRは人っ子一人殺さず、発見次第捕まえている。
教師であろうと生徒であろうと用務員であろうと、たまたま訪れていた来客であろうと無差別に捕まえる。
捕まえれば箱状の檻に一人一人丁寧に収納しては鮫の形をしたトレイラーに積み込んでいる。
(身代金? でも人間のお金なんてなにに使うの? それともご飯? でも今の今まで殺していた理由に矛盾がある……ただ確かなのは危ない)
身を潜め続けていようと、安全な場所などこの学校にはない。
(イザくん……)
隠れ潜むミコトは胸元をぎゅっと抑え込んだ。
一一〇へ通報はした。
緊急性の高い情報として<S.H.E.A.T.H>に伝達してくれるか不安だが、あの時は通報しか打てる手はなかった。
(携帯電話は無線通信だから、もしかしてと思って備え付けの公衆電話からかけてみたら正解だった)
有線である故、妨害電波の影響を受け付けない。
だが、公衆電話は突撃してきた黒い兎に破壊され、命辛々逃げてきた。
身を潜めて他の固定電話を探そうと、先の使用でEATRに外部との連絡手段があると知られ、校舎にある全ての固定電話は破壊されていた。
(顔隠す狼は欺き、黒き兎は鮫の上で嗤って助けの邪魔をする。繋がるは九頭の獣、星は昇らず、陽は沈む、命奪われようとも現れし天は地を消し去ろう)
記憶力には自信がある。
屋上でサボっていたイザミを見つけなければ、この詩を聞かずして今頃EATRに捕まっていただろう。
(でも、時間の問題かも……)
助けを請う声や悲鳴が少なくなってきている。
同時に鮫型トレイラーに積み込む荷物の数が増えている。
(EATRはセンサーがあるのにどうして歩き回って探しているの?)
ミコトは非効率的な行動をとるEATRに警戒と疑問を抱く。
息を潜めてやり過ごそうとEATRは人間の体温や呼吸により吐き出される二酸化炭素を感知して容易に発見する。
家族がEATRと関わりあるからこそ、EATRの知識をミコトは持ち得ていた。
(そうだ、情報処理室のパソコンなら!)
疑問を抱く中、ミコトは新たな外部への連絡手段を思いついた。
ディスクトップ型のパソコンがあの部屋にはある。
有線接続されたパソコンならば外部との連絡が取れる可能性があった。
(隠れていても隠れなくても捕まるなら、少しでも生存する可能性が高い方に賭ける)
全身の細胞が逃げろと叫ぶ。
身体走る神経が生きろと恐怖に震えながら叱咤する。
武器もない。
逃げる術もない。
窮地の状況下、都合のよい助けなどない。
救援が来る保証はない。
それでもミコトが絶望せず、恐怖に屈せずにいられるのは可能性を信じているからだ。
(イザくんは絶対に来る。あんな壁、突き破って絶対に来てくれる!)
イザミはミコトの側にいつも帰って来てくれた。
日常だと真面目顔で言ってはミコトを内心困惑させると同時に嬉しくもさせた。
(諦めない――絶対にっ!)
フード付き狼が別校舎に移ったのを見計らってミコトは視聴覚室へ続く階段をゆっくりと駆け上がる。
曲がり角で気配を感じ咄嗟に踏みとどまった時、見覚えのある生徒たちが我先にと飛び出したことで鉢合わせた。
「あ、あなたたちって!」
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