トイレから出たら異世界に来ちゃいました。

伊月朱李

各国訪問編

第1話 何でこうなった?

俺の好きな物。それは日本刀。美しく、活かっこいい。それは俺のすべてである。俺は昔、師範である父親が大好きであった。優しく、時に厳しく時に甘くそして強かった。母親は俺が3歳の時事故で死亡。その為、俺が家事をやっていた。

「愁斬よ。男ならば好きな女よりも先に死んではいけないぞ」

その言葉を後に父親も死去。俺は悟った。この世界はどんなに強い奴だろうと死ぬ。

俺と妹の若葉は母方の祖父に引き取られた。祖父は大の日本刀好きで、俺はその祖父に感化されたのだった。

「お兄ちゃん。朝だよ。学校遅れちゃうよ」

「わーってるよ。つーか、俺の方が起きたの早いだろ」

「そうだっけ?」

「ったく。ほら、朝飯」

「さっきゅー!!」

「俺は道場行くから。先に行ってろよ」

「りょーかい!!」

俺の朝はいつもこうだ。朝早くに起き、朝食を食べ、道場で練習し、学校に行く。これがマイサイクル。今の道場は父方の兄の娘。つまり俺には従姉にあたる奴が継いでいる。

「おっはよー!愁斬!!」

「蒔絵姉さん!くっ付くなってば!!」

今俺にくっついているのは黒鉄蒔絵くろがねまきえ。俺の従姉であり、姉馬鹿だ。そして俺は黒鉄愁斬くろがねしゅうざん。こんなご時世、愁斬なんてかっこ悪い名前だと俺は思う。

「さ、朝練始めるぞ!!」

「へいへい」

俺達は朝練を始めた。

「はーっ!」

「やーっ!!」

俺が竹刀を振り下ろすと、面に当たった。

「面一本!愁斬の勝ち!!」

「負けたー!!」

面を取った蒔絵は悔しそうに俺を見ていた。

「蒔絵先生、師範愁斬に変えれば?」

「そうしたいのは山々なんだけど、愁斬が嫌だっていうからさ」

「だって面倒だし。俺は面倒事は大嫌いだ。じゃ、俺は着替えるから」

俺は道場を出て更衣室に向かった。いつも黒鉄道場は小学生から高校生までやっているのだ。

扉を開けると、前には道場生の柏木海斗かしわぎかいとがいた。そいつは中学生でいつも俺を睨んでいる。小さい頃からここにいて、俺と何度もやっているのに勝てないからだろう。

「……ちっ」

「お前!舌打ちはねぇだろ!!」

「聞こえてたのかよ。もう終わり?」

「ああ。今日は日直だから早く行かねぇといけねぇんだよ」

「ふーん」

海斗はそう言って出て行った。あいつにしては珍しく自分から話を振った。蟲の知らせか?


学校に着くと、大きな声が聞こえた。乱闘だ。俺の対処はいつも変わらない。

「おい、俺に逆らうのか!?」

「で、でも出来ない物はできないです!!」

俺は不良に近づき、声をかけた。

「おい、泣いてるし止めてやれよ」

「んだと!?」

「聞こえなかったのか?止めてやれって言ってんだよ」

「お前に指図される云われはないだろ?」

「しょうがない」

俺は持っていた日本刀の鞘を抜いた。そして、不良を睨みつけた。

「これ、何だか知ってるか?」

「に、日本刀」

「正式に言えばレプリカだ。体は斬れはしないが、気絶するくらい痛ぇんだぜ?」

そう言うと、不良は逃げていった。

「あ、ありがとう」

「別に」

俺はすぐに教室に向かった。



学校が終わり、俺は家に帰る事にした。家には俺と若葉しか住んでいない。若葉はいつも部活で7時まで帰って来ない。

「さてと。トイレ行くか」

俺はトイレであろうとも日本刀は手放さない。

「……」

俺は用を足し、トイレの扉を開けた。すると、目の前には草原が広がっていた。ん?どうしてだ?どうして俺の家が草原に?

俺はもう一回扉を閉めて深呼吸をして扉を開けた。扉を開けるとやはり草原が広がっていた。もう一度閉めようとした時誰かに背中を押された。後ろを見ると女の子が笑顔で俺を送り出していた。

「お前……」

口にした瞬間、扉は閉じてしまった。俺と日本刀は草原に残された。

俺はすぐに立って扉を開けた。だが、我が家のトイレではなく普通の小屋だった。

「わ、我が家のトイレはどこに行った!?」

俺は何度も扉を開け閉めしていた。だが、状況は変わらないままだった。

「何でこうなった?」

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