ヒーロー
@ryuking
第1話 ヒーローという職業
──ヒーロー
それは何処からともなく颯爽と現れ、命懸けで人々を守り、名も名乗らずに去っていく
強くて かっこよくて 誰もが憧れる正義の味方
それがヒーロー
──だった
特異生命体、ゾームの出現から15年、
ヒーローは完全な利益主義と化していった
「サントニー社2名、ピーク社3名、形勢は不利です!
至急応援願います!」
胸元にサニー社と書かれ、青と白の軽量感を重視した戦闘服に身を纏う1人の女性が、銃を乱射しながら無線を飛ばす。
周りでは、柄の異なる戦闘服に身を纏った者達が宙を飛び交い、ゴリラにもよく似た五メートルはあろうかという巨大な怪物、ゾームに攻撃を重ねている。
更にいえばそこはビルやデパート、建物が立ち並ぶ町のど真ん中であり、その周りでは街ゆく人々が、その光景をまるで日常のように平然と見守る。
見物していると言った方が正しいのだろうか。それ程までに、目の前に巨大な怪物がいると言うのに人々に焦りは感じられない。それが日常なのだ。
その怪物を囲む戦闘員の内、先ほど無線を飛ばした女性戦闘員の放った銃弾が、怪物の首筋へとヒットする。その皮膚は飛び散ったが、またすぐに再生していく。その一瞬、皮膚の下からまばゆく光る丸みを帯びた物体が垣間見えた。しかしすぐに再生した皮膚によって隠れる。
それを見た女性戦闘員は再び無線を飛ばした。
「右の首筋に‘ダイヤ’発見しました、取り出し作業にかかります」
そう伝えるや否や、その女性と同じ柄の戦闘服を纏った男が細長い剣を片手に勢いよく駆け出し、怪物の肩へ飛び乗った。
胸元にサントニー、ピークと書かれた戦闘員はそれを阻止するように攻撃を重ね、同じく首筋を目指すが、援護する女性戦闘員の的確な射撃が行く手を阻む。
肩に飛び乗った戦闘員は首筋に剣を突き刺し、露わになった光り輝く宝石のようなものをくり抜いた。
するとその怪物は唐突に活動を停止し、その場から動かなくなる。
立ち止まり見物していた人々は、再び歩を進め始めた。
どうやら決着がついたらしい。
サントニー社とピーク社の戦闘員は肩を落とし、悔しがる。
サニー社の女性戦闘員は怪物が停止したことを見届けると、改造された特殊な銃を右腰へと仕舞い、無線で告げた。
「‘ダイヤ’の確保、完了しました。引き続きゾーム回収班の要請を願います」
「了解。ご苦労だった、カレン=ベルトルト」
戦闘中から報告を終えた今の今まで、彼女の表情は変わらない。
歳は20ほどだろうか、身長は150とさほど高くないのだが、艶のある黒髪に肩ほどまでのセミロング、凛と見開かれた目に整った顔立ちは正にクールな美少女である。
彼女の名はカレン=ベルトルト
サニー社のヒーローだ。
補足すると、先程の戦闘員はみなヒーローである。
ヒーローとは、18歳から受けることの出来るヒーロー認定試験に合格し、ヒーローライセンスを取得した後に、数あるヒーロー会社の入社試験に合格し、入社が認められた者のことを指す。
非常に小さなこの星、惑星アルファには、人を喰らう怪物‘ゾーム’が巣食う。そのゾームから人々を守るために設けられた職業、それがヒーローなのだ。
時は遡ること15年、突如として大量の特異生命体、ゾームが出現し、街を襲った。その巨大な怪物に人々は成すすべもなく、星が滅びるのを待つのみとなる。
しかしそこに現れた4人の仮面を被った戦士達は、特殊な武器を使い圧倒的な強さでゾームから星を守った。
争いの後に彼らの姿はなく、仮面だけが転がっていたという。
人々はその4人をヒーローと称え、四神と呼んであが見奉った。
そうして彼らの後を継ぐように生まれたのが、ヒーローという職業なのである。
カレンは無線を切ると、髪を耳にかけて、会社へ向かって歩き始める。
「白か」
その時、下から何やら声が聞こえてきた。カレンはゆっくりと自らの足元へと視線を落とす。するとそこには何者かが仰向けでカレンの足の間に顔を入れるようにして寝っ転がっていた。一瞬この謎の状況に思考が停止する。しばしの間が流れた。
カレンの戦闘服はミニスカートである。
・・・と言うことはつまり・・・
「きゃぁっ」
状況を把握したカレンは、先程まで全く崩れなかったクールな表情が嘘のように頬を赤らめて上擦った声を上げると、すぐに足を閉じて下に転がる顔面に何発もケリを入れる。
「ま、ちょっ、まて!、、ぐはぁっ」
恥ずかしさのあまり頭が真っ白になっているカレンには、下から聞こえてくる悲痛の叫びは届かなかった。
気が済んだのか、蹴りをやめて肩で息をするカレン。その頬は未だに朱色に染まり、先ほどのクールな様子はどこにもない。そのカレンの前には、カレンの蹴りによって顔面がぼこぼこになった男があぐらをかいて座っていた。その男はぼさぼさの髪の毛にやる気のない眠そうな目つきをした、見た目はただの中年のおっさんである。服装は、素肌に革ジャン1枚に下はジーパン、その前の開いた革ジャンから見える腹筋はきっちりとシックスパックに割れており、上方にははち切れんばかりの胸筋、
上腕二頭筋は革ジャンの上からでも膨れ上がっているのが分かる。
そのボクサー顔負けの筋肉質な肉体が、より変態臭を漂わせた。
「この変態!!」
「ったくなにすんだ急に。俺が寝てたらお前が勝手にベッド・インしてきたんだろうが」
「なっ!ベッド……っ!大体なんでこんな所で寝てんのよ!!」
「どこで寝ようと勝手だろ。この星はみんなのものだ」
ぼさぼさの髪をかく男のふざけた答えに、カレンは拳を震わせるが、再び頬を赤らめて言いづらそうに小声になる。
「……見たんでしょ、その· · ·私の……ぱんつ」
もじもじとスカートを抑えながら、最後の単語を小声で濁すカレンに、男は即答する。
「あぁ、ばっちり見たぜ。可愛いうさちゃんの……」
男が言い終える前に、カレンの鉄拳が炸裂した。
「変態変態変態変態」
顔を真っ赤に染めてぶつぶつと唱えるカレン。頭からはぷしゅーと湯気が出ている。よほどこう言ったことに耐性がないのだろう。
対して終始あっけらかんとした男は、眠そうにあくびをすると何かを思い出したように立ち上がった。
「あ、やべ。これからバイトだったわ、じゃな、白パン女」
「え、ちょ、待ちなさいっ」
男はそそくさとどこかへ消えていく。
あの歳でフリーター・・・カレンのあの男に対する変態のイメージは益々膨れ上がっていった。
カレンの雇い先であるサニー社に着くと、そこで働く全てのヒーローたちが一室に集まっている。カレンもその部屋へ入っていくと、後ろから声をかけられた。
「よっカレン」
「お疲れ様、今回のゾームはどうだった?」
そこにいたのは、メガネをかけ、いかにも秀才といった雰囲気を漂わせるケビンと、黒髪ロングの清楚なお嬢様といった風貌のサラだった。2人はカレンの同僚である。
「まあ手応えはなかったわ、A級のレベルじゃないわね」
カレンは表情を変えずにそう答えると、2人の隣の席へ腰を下ろした。先程までの動揺はなく、すっかりクールな彼女に戻っている。
「相変わらずクールだね、カレンは」
「ほんと。私たちC級とは違うねやっぱり」
2人は目を合わせ、微笑した。
──A級とは、ヒーローにつけられたランクである。
ヒーローは、ゾーム討伐時の速さ、効率、能力などから各会社内で、S、A、B、Cの4段階に割り振られる。
そのランクに見合った仕事が会社から与えられ、ランクが高いほど給料は高くなっていく。そして半年に1度、それまでの実績を見て昇級、降格が告げられるのだ。
カレンは入社1年にしてA級まで上り詰めた、いわばエリートである。
「今日はどんな講師が来るのかな」
期待に満ちた表情でサラが言う。
各会社では、3ヶ月に1度、外部講師を招き、特別授業を開くことが義務付けられている。
単純なヒーローの規則を定期的に見直し、初心に帰ることが目的であり、元ヒーローや大会社のヒーローなどが特別講師として呼ばれることが多い。
「あの社長のことだから、どうせ安上がりで雇えるようなやつしか来ないだろ」
ケビンが社長に嫌悪感を抱いたような口振りでそんなことを言ったその瞬間、ガチャりと部屋のドアが開かれた
そこから現れたぼさぼさの髪の男に、カレンは目を見開く。男は前に立つと、眠そうに口を開いた。
「どーも、特別講師のジーク=ドリークスです」
ヒーロー達はまばらに拍手をする。隣のサラが小さく拍手をしながらカレンに話しかけてきた。
「何か変な人だね、すごい筋肉だし」
その言葉はおそらくカレンに届いていないだろう。反射的にカレンは席を立ち上がった。
「……あんたは」
その声に反応し、振り返るジーク。
「お、白パン女じゃねーか」
「なっ!うるさいこの変態!」
笑いながらとんでもないことを言うジークに、カレンは頬を赤らめて叫ぶ。そのやりとりに他のヒーローたちの視線が集中した。
そこでハッと我に返ったカレンは、ゆっくり席へと座る。その横で怪訝そうな顔で見つめていたサラが口を開いた。
「……あんた達、どういう関係?」
「……別に?」
必死にクールを装うが、時すでに遅し。
最悪の特別授業が、幕を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます