strap-on booster

古ノ山

プロローグ

かつて大地を捨てたその子らが、再びこの地に降り立った時、

国と国との戦は無くなったという。

しかし、神の如く強大な力が封印されても人は争うことを止めることはなかった。

そう、人は今も生きる為に戦う。



草原で対峙するモノ達がいた。一方は巨大な獣であり相対する者は一人の少女。

1.8メートルはあるであろう巨大な獣は、姿形は狼に似ていたが鋼鉄の外皮を身に纏い、鋼の牙と爪を持っていた。硝子で出来た瞳からは異様な光が灯っている。

その巨大な体躯と比べれば少女は余りにも小さく、儚げに見えた事であろう。腕には鋼のガントレット、白いズボンの上には鋼のレガース、そしてブレストプレート。しかしその大まかな衣装は群青になびくドレスの其れである。そして紋章の描かれた軍衣は少女が戦の道に生きるものである事を教えていた。事実、立ちはだかる巨大な獣に対して彼女の目には恐れの色さえ感じさせてはいない。彼女が手にするレイピアの刃は月光の光を反射し、その鋭い眼差しとともにある不可思議な力の加護を感じさせた。

少女の美しさ、そして長い金髪を1つに結わえ風になびかせるその様は、伝説の戦乙女を彷彿とさせる。

少女は眼前で攻撃態勢に入っている機械の獣をその碧眼で見据えながら、額を綺麗に覆う意匠の施されたサークレット。そこに装備されていたインカムのスイッチを入れた。

はるか後ろに控えていた一人の騎士に語りかける。


「トレヴィン、もう一度確認しておく、コイツが近隣の村や街道で人々を脅かしている件の機獣なのか?」


「左様ですな、報告にも御座いましたが、あの特徴的な左右色違いの瞳で、まず間違いないかと」


彼女の質問に答えた男トレヴィン。服装は少女と異なる紋章の軍衣、左手にはスモールシールド、右手にバスターソードという一般的な兵士の装備をしている。白髪白髭の頭ではあるが長身でがっしりした身体つきは年齢を読み難くしている。左眼の眼帯は歴戦の戦士の証といったところか?

トレヴィンの周りには既に骸となった。いやガラクタと化した機械の獣、数体分が散らばっている。

トレヴィンは周囲に気を配りつつ彼女を促す。


「シャーロット様」


「ああ、分かっている」


シャーロットは勇ましくも大きな一歩を踏み出した。その群青のドレスに稲妻の様な光がパチパチと弾けていた。

対峙する銀狼は彼女の正面からやや右手に回り込み距離を詰める。その動きはまさに獣であり、およそ機械の身体で出来ているとは思えない。

銀狼はそのままシャーロットの背後へ、右斜め後方にまで歩を進めると、その巨体を静かにかがませた。正に一瞬、一足飛び、銀狼は彼女の首筋にその凶悪な鋼の牙を突き立てる、いや突き立てたかに見えた。ガキンッと歯と歯がぶつかり合う音が鳴り響いた。

銀狼は彼女の首どころか、その存在全てを見失う。

気がつくとシャーロットは銀狼の背後、数メートルの先にいた。彼女はレイピアを掲げ空を切り裂く。ヒュウッと夜空に舞う草原の葉には油膜の様な黒い染みを滲ませていた。獣は気配を察知し振り返るが、彼女を確認する事は叶わなかった。銀狼の首が無くなっていたからだ。それでも彼女の命を刈り取ろうと鋭い爪を振り回せるのは、やはりからくり仕掛けの獣故。

シャーロットは、更に暴れのたうち回る獣に対しレイピアをしならせる。瞬間、銀狼の全ての足は両断された。ドサリッと最早胴体だけになった銀狼は為す術もなく大地に倒れ伏した。

敵に興味を失った彼女は振り返りトレヴィンの元へと向かう。

彼はシャーロットに対し恭しく頭を垂れる。


「流石に御座いますな。彼奴めは幾人もの勇士達を返り討ちにしてきた強者ではあったのですが、姫様の前では手も足もでなかったようで」


「世辞は止せ、トレヴィン。お前なら一刀で終わらせていたであろうに」


トレヴィンは軽く頭を下げたまま肯定も否定もしない。

シャーロットは周囲に散らばる残骸を確認しつつ嘆息する。


「幾人もの勇士達が返り討ちにか・・・最近の勇士は質が落ちたのではないか?」


「姫様の追い求める基準は高こう御座いますれば」


シャーロットはこの時初めて年相応の表情を見せる。それはとても可愛らしいむくれ顔。

トレヴィンめ、その物言いでは私の性格が高飛車で人を見下している様に聞こえるではないか!しかし、この男に口でも勝てる気がしないのは辛い。

ふぅと少女は溜息をつくと、打って変わって佇まいを正し、トレヴィンの前を通り過ぎる。


「トレヴィン、回収班に至急連絡を、残敵確認は彼らに任せるとしよう」


「御意」


シャーロットは颯爽と前を行く。そしてトレヴィンもシャーロットに付き従い後に従う。月光に照らされた光は雲によって弱くなり、二人の姿はすぐに夜の闇の中に消えた。

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