第3話
私の手元のティーカップの中身が無くなって、彼のアイスコーヒーが無くなって、しかし彼が話し始めるようなことはなかった。いい加減にして欲しいな、呼び出したのはそちらなのにとか思いつつ、三十分ほどお互い無言の時間が過ぎて、私の我慢は限界に達する。
「で、あなたは私とどのような関係でいたいの?」
「それは、その、まあ……」
まっすぐ投げかけたが、彼ははっきりと答えない。
「私と付き合っている状態、カレシカノジョの関係でいたいの? 別れたいの?」
「それは、許してくれるかどうかで……」
「許す許さない以前に、謝りもしないわけ?」
彼は何を考えているのだろう。まず謝罪が先でしょう、そんなことも判らないわけ? そう言いたい気分だった。
「えっと、すみません、でした」
「言われてから謝られるほど気分の悪いものはないんだけど」
「それも、ごめんなさい」
まあ、そこは大目にみるしかないのかな。謝らない人はとことん謝らないだろうし。
「で、許すか許さないかだっけ? 結論から言えば、今は何も言わない」
彼は意外そうな顔で私を見る。
「今許す許さないを言っても、意味ないんじゃない? 逆に、何で今決められるのって話」
今後どういう行動を取るかで、私の彼に対する見方は変わる。その猶予を与えている時点で私は彼を許しているといえるし、執行猶予的に考えれば、許していないともいえる。だからどちらともいえない。
「それで、あなたはどうしたいの?」
彼は俯き、色々と思案を巡らせる様子を見せてから、言う。
「×××××さんと、引き続き付き合っていきたいとは思ってる」
「解った、そのかわり、今後このようなことはしない、それは当たり前ね」
何か、それだけでは物足りなくて。
「あと、このようなティータイムを、二週間に一回は取ること。それが条件」
彼と面と向かって話せる場が、大学に入ってから少なくなってしまっていた。お互いの足を引っ張りかねないから「同じ大学を目指す」ということはしない、そう決めたことが原因の一つではあるのだけど。デートをする時以外はほとんどがネットでSNSを使ったやり取りが中心で。彼自身を見れてない不安は私にもあった。
「そのかわり、しばらくの間はおごりで、よろしくね」
「……分かった。それで許してもらえるなら」
「許すとは言ってないわよ?」
彼は笑い、私も微笑んだ。そうね、もう私は彼を許しているのかもしれない。彼には決して、言わないけど。
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