第32話「逮捕」
第三十二話ー「逮捕」
綻びは、思わぬところから出て来た。
愛知県警の○暴が、「大川組」にガサを入れた際に、幹部の車のトランクから押収されたパソコンに「FDC開発」とのやり取りを示すメールの消し忘れが残っていたのだ。
それは、『リニア中央新幹線』の名古屋側停車駅周辺の土地買収に絡む「地上げ」の進捗を報告するメールであった。
それをきっかけに、そのパソコンで消去された全メールの復元作業が行われ、もはや「大川組」との金銭授受を「FDC開発」は言い逃れ出来なくなった。
岐阜県警はメールの当事者だった「FDC開発」の総務部長の駒井の逮捕状を請求し事情徴収で呼んだ。駒井はFDC開発プロパーの社員ではなく、FDCが買い取った地元の土建屋出身の男だった。
橙子は県警の刑事による取り調べに立ち会っていた。
それは、「本庁」からの指示であり「手柄」を独り占めされては困るという、メンツというか「本庁」と「県警」との立ち位置をはっきりさせておきたいという組織の事情である。
取り調べは、陰湿に粘着質に行われた。しかし、駒井は一切何も語らず、黙秘を続けた。警察の権限として逮捕より48時間容疑者を拘留することが出来、さらに最大、検察官の取り調べとして20日間拘留することができる。
駒井は、逮捕より10日目についに観念した。
これにより、子会社の不祥事とはいえ、親会社「FDC.COM」の責任は逃れられないものとなり、愛知県警「組織犯罪対策課」の捜査の矛先が向けられる事になった。
この件は「名古屋地検特捜部」を通じ「東京地検特捜部」にも報告がなされ、「東京地検特捜部」から2名の検事が応援を名目に乗り込んで来た。それは羽田健太と黒澤圭子であった。
むろん、名古屋管轄の事案に関しては口出しは出来ないが、東京管轄の「鹿島急便」へのアプローチを模索していることは、トップ同士で話が付いてた。
従って、羽田が寄越されたのは、本命である「FDC.COM」と「鹿島急便」、さらに衆議院議員、袴田幸太郎へと辿り着くための裏付け捜査という意味合いが強かった。
ーーーーーーーーーーーーー
FDCの顧問弁護士として派遣されて来ている矢神真咲が、小野田に別れの挨拶に来ていた。矢神の所属する法律事務所は「企業法務」では業界でトップ3の大手であり、その弁護士事務所が「反社会勢力」と関わりのあるクライアントを抱えていたとあればダメージが計り知れなく、愛知県警の捜査の手が入る前に「降りる」と決めたのだ。
ーーーふっ、あっさりしたもんだな。
ーーービジネス、ってことでしょ。ご理解ください
真咲は弁護士としての顔で小野田に向き合っている。
ーーーん、分かった。ご苦労さまでした。
ーーーただし、、、矢神真咲は、小野田健斗を支える、、、それだけは信じてね
小野田は、真咲の視線を受け止め、無言で頷いた。
ーーーあ、そうそう この間ここに来た、アナタの婚約者って女、アレ、マル暴の
ーーー・・・なんだって?
真咲は、ほんの一瞬であったが地元のテレビニュースに橙子の顔が映し出されたのを見ていた。それは、「FDC開発」への県警マル暴がガサを入れた日の映像だった。
ーーー灯台もと暗し。脇が甘いのよ、女には
真咲の目は女好きの男を咎める一人の女のそれになっていた。
(第三十二話ー了)
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