第23話「砲火」
第二十三話ー「砲火」
「東京地検特捜部」、その会議室に男女合わせて15人の「特捜検事」と7名の検察事務官が集まっていた。
月に二度開かれる「合同捜査報告会議」が朝九時から始まっていた。
彼らの中央には「特捜部長」の本郷英二が陣取っている。
ーーーじゃ、一班から。
捜査班は大きく三つに分けられていて、それぞれ5名が振り分けられていた。
ーーー 袴田議員への「ヤミ献金ルート」ですが、前回報告しておりましたルートに追加すべき人物が現れたので報告します。
「特捜部」は政府与党「政友党」幹事長への不正闇献金ルートの解明を進めていた。その捜査の過程で、名古屋の指定暴力団「大川組」の組長を通じて、大手宅配便業者「鹿島急便」社長、鹿島武が袴田議員に紹介されたことを掴んでいた。そして鹿島からは袴田議員の「政治団体」への企業献金の他に、裏ルートで「利益供与」を狙ったヤミ献金が袴田議員個人になされているのではないか、鹿島と袴田は「贈収賄」の関係にあるという容疑を本命に「特捜」は動いていた。
ーーー袴田議員と大川組長とは、十数年来の繋がりがあります。袴田議員が「厚生労働省」の大臣時代に「日本歯科医師連盟」からの不透明な献金が発覚しそうになった時、省庁の前を右翼団体の街宣車が大挙押し寄せ、抗議と議員辞職を迫られ対応に窮した際、「大川組」を通じて対象の右翼団体を抑えてもらったという関係が始まりです。
ーーーん、で、この3人の他に絡んでくるものが居るのか?
郷田の鋭い視線が「一班」のリーダーに向けられている。
ーーーその大川組長が名古屋に本拠を持つ新興のIT企業「FDC.COM」を鹿島に紹介しておりまして、鹿島はFDCの社長の小野田健斗を袴田議員に会わせています。FDCからも袴田に金が流れている可能性があります。目下その流れを捜査中ですが、この小野田健斗は袴田にこの五年の間にかなり頻繁に会っている形跡があります。
ーーーその、小野田って男、何を狙って袴田に近づいてるんだ。
ーーーおそらく、当初は金融庁などへの口利きを袴田に依頼したものと思われます、小野田の会社には証券金融系の子会社が二社繋がってますから。そこからの利益は連結決算でかなりのウェートを占めています。
ーーー補足説明でうちの羽田から報告させます。
羽田は「一班」に属していて、リーダーに目で促され席を立った。
ーーー先日も、SESC(証券取引等監視委員会)の局長クラスの人物を「神楽坂」の料亭で接待しておりましたが、小野田は、彼ら接待相手にはハニートラップを仕掛けているようで、そういう罠にはめられた官僚役人は各省庁かなりの数に登るようです。その女を調達派遣しているのが「大川組」系の暴力団です。
ーーーなるほど、、、人間、いや男にとっちゃキンタマ握られたようなもんだな。その現場写真やビデオなんか撮られてたんじゃ、骨の髄までしゃぶられるだろうな、、、役所の小役人を社会から抹殺するのには格好のネタだ。
本郷は女性検事や事務官が居ることを忘れ下世話な言い方をしたことに気づき声音を変えて羽田に向き合った。
ーーーしかし、、、金融庁や財務省ならわかるが、それ以外の省庁まで手を伸ばして何するつもりなんだ、、、この男。
本郷は配られた小野田の写真に訝しく視線を落とした。
その後、「二班」から政府機関にサイバー攻撃を仕掛けているグループもFDCが関わっているのではないかかという情報がもたらされた。FDC常務取締役、滝川一正の写真も会議室に居る全員に配られた。
本郷は少考した後、全員に向かって指示を出した。
ーーー今後は、FDCと「大川組」の繋がりの線で引っ張れるネタ取ってこい、最悪別件でも構わん!、小野田から逆ルートで解明する方針に変更だ!
ーーーハイっ!!
特捜検事全員が声を揃え、その檄に応えた。
羽田は、いよいよ小野田へ捜査の手が伸びることを実感し軽い武者震いに襲われた。しかし同時に橙子の顔が浮かんだ。
ーーー(橙子も、小野田を追っていた、、、)
アメリカの45代目の大統領が決まった日、それは小野田への集中捜査の命令が下った日でもあった。
(二十三話ー了)
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