行動と、想い。
愛知川香良洲/えちから
行動と、想い。
ふと少年が気が付くと、見たことのない風景がその眼に映っていた。そこはいつも見慣れた街、のはずなのだが。
少年の眼には、街の風景と、人々の腕だけが見えている。まるで手品のような光景だが、少年は逆に、その光景が面白く感じていた。
「腕だけでも結構、どんな行動をしているか分かるもんだなぁ」
独り、呟く。手をつないで歩いている、カップルのような手。立ち止まって本を読んでいる手。音楽を聴いているらしく、微かにリズムを取っているような手。街の至る所に手があり、それらが全て、異なった動きを見せている。そして、どんな行動をしているか何となく判る。
しかし、何で手だけが映っているのだろう。人間が全て消えてしまう、それならまだ理解できる。この大都会のど真ん中で人が誰もいなくなることが不可思議な現象極まりないことはともかくとして。でも今起きていることは、それ以上の不可思議な状態だ。しかも腕以外の身体が白くぼやけるとかはなく、後ろの背景はちゃんと見えている。脳内補完されている、かは定かではないが。少年はそんなことを思って、立ち止まっていた。
すると突然、少年の視界が何者かの手によって塞がれる。驚きつつもゆっくりと、その細い腕をどけると、
街の風景は、少年の知る風景に戻っていた。
「けど腕だけじゃ、細かい気持ちは伝わってこないよ?」
少年の背中側から一人の少女が顔を出して言う。少年もよく知る、少女。しかし何故、彼女の手によって光景が戻ったのか。
「これは、×××××さんの仕業なのか?」
「仕業? 何のこと?」
「僕を、腕だけしか見えない状態にしたこと」
「……何のことかな?」
少女は首をかしげる。少年には、その少女が嘘をついているようには見えなかった。しかし確認のために聞く。
「じゃあ何で、腕だけしか見えないと知っていたんだ?」
「自分で言ってたよね、腕だけでも行動が判るって」
「……まあ、確かに」
「今は、腕しか見えてない?」
「いや。……腕だけしか見えてなかったら×××××さんだと判らないじゃないか」
「腕だけで判ってくれてたら嬉しかったのになぁ」
「まあ、それだったら会話出来てないし」
「あ、そう?」
少女は若干、残念そうな顔を見せる。
「それで、×××××さんはなんでここに?」
「聞きたい?」
「いや、まあ何となく」
「……何それ」
「えっと、うん、聞きたい、なぁー」
明らかに棒読みな、少年の台詞。その態度を気にしつつも少女は少し戸惑いつつ、言う。
「ちょっと欲しいものがあって、ね」
「欲しいもの?」
「そう、欲しいもの。簡単に手に入るものじゃないんだけど」
「高いの?」
「別に、高い訳じゃないかな。……いや、高いかもしれないか、高望みって意味で」
「もしかして、普通は売ってないとか」
「売ってたら怖いわ、てか疑うわ」
少女の「欲しいもの」とは何か、少年には思い当たる節がない。売り物じゃないけど、街で手に入るもの。そんなものあるのかとさえ思う。
「見つかればいいね」
「見つかってはいるんだけど、ね?」
見つかってはいるけど、簡単に手に入らず、売っているものではない。訳が分からない、と少年は思う。
「……ねえ、×××××くん」
少女は、ゆっくりと口を開く。
「あなたが、好きなのよ」
顔を赤らませながらも、言い切った。少年は少女の顔を見て、自分の頬をつねり、それが現実であることを確認した後、
「……え!?」
少年は、今日一番驚いた。
おわり
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