異世界で学ぶ正しい怪物の生き方
星太郎
プロローグ
プロローグ1:怪物誕生
——あなたは力が欲しいと思ったことがありますか?
僕はあります。ありました。
この世のあらゆる物を凌駕する圧倒的な力、そんなものを手にしたいという想いが……
バカみたいですよね。そんなありもしないもの求めて、本当にバカだ。本当に、本当に……大馬鹿だよ僕は……
けれど僕は憧れてました。画面の中で、他を寄せ付けない力を使って悪を断罪してゆく正義の味方に、正義のヒーローに。
僕もいつかあんな風になれたら……なんて、ビデオで録画していた特撮映画を見てはそう思ってました。
•••••
僕の名前は
僕は生まれつき、髪が真っ白でした。頭髪の色素が何らか影響で生成されない体質らしく、それは綺麗に色が抜け落ちていていました。
それこそ黒斗なんて名前が冗談に聞こえるぐらいに。
まぁ案の定、小、中、高校と、この髪のことでずっと虐められてました。
「お前はストレスおばけだ」とか、「老化人間」だとか、まあ色々と言われていましたね。
『出過ぎた杭は打たれる』といいますか、人というのは自分とは違うものを差別してしまう生き物なんでしょうね。
この白い髪がずっと嫌でした。白い髪がコンプレックスで、それを隠すためにどんな時でもニット帽を被ってたくらいです。
ファッションも黒い色のものを進んで選んでいました。黒いパーカーにコート、ジーンズ、カーゴパンツ……とにかく上辺は真っ黒にしていましたよ。
それでも虐めはエスカレートする一方で、運動神経も、喧嘩のセンスも、さらには誰かに虐めを相談する勇気も無い僕には、止めることは出来なくて……
『こんな自分を変えたい!』、そう切実に願いながら、毎晩のように枕を涙で濡らしていました。そう願うことしか出来ない無力な自分を呪いながら。
——でも、この世には不思議なことがあるもので、ある日、突然僕の元に転機って言うのかな……人生を大きく変えることが起こりました。
その日、僕は校舎の裏で、いつものように同じクラスの数人の男子から虐めを受けていました。
無抵抗の僕に対して、罵詈雑言を浴びせながら理不尽なほどの暴力を振るう。本当にどうかしている。
僕も彼らと同じ立場なのだったら、同じようなことをしていたのだろうか?
そんなことを思いながら歯を噛み締め、痛みに耐える。この痣、なんて言い訳しようか、なんてことを考え、気を紛らわせる。
痛くて、痛くて、何度も泣きそうになったけど、なんとか耐えることができていました。そう、その時までは……
「つまらねぇな」、男子の内の一人が無抵抗の僕を見てそう言った。そしてその男子は、校舎の角から誰かを引っ張り出してきた。
それは僕のクラスメイトでした。確か名前は……高木くん、だったような気がします。
彼は学校内で浮いていた僕に対して、友好的に接して来た数少ない人物でした。でも、そのことが理由で目をつけられてしまったんだと思います。
彼らは僕の体を押さえつけ、僕ではなく高木くんに暴力を振るい始めたんです。「痛い、痛い」と言う彼の言葉を無視して何度も、何度も……
もちろん僕も対抗しました。けど、数人で押さえられていた僕はその拘束から抜け出すことは叶わなくて、「やめろ!やめろ!」って何回も叫んだけど、彼らはそんな僕を見て笑ってるだけでした。
そんな中で、僕の心の中にある感情が生まれました。
『こんな弱い自分は要らない。必要ない。代わりにもっと力が欲しい、誰にも虐げられることのない程の力が欲しい』
凄まじいほどの力への渇望、それだけが僕の心を染み込むように支配していきました。
そして、僕の心がその渇望で真っ黒に満たされた瞬間、奇跡が、いえ、悲劇が起こりました。
「グルルルァァァァァァ!!!!」
上がったのはそんな言葉にもなっていない声。それは《怪物》の産声が上がった瞬間でした。
まさに人類進化論を覆す世紀の《怪物》の誕生。
《怪物》になった僕は、衝動の赴くままに、虐めを働いていた男子たちに拳を振るいました。
俊敏性、パワー、跳躍力……今までの僕とは全く違う力を、《怪物》になった僕は持っていて、それこそ憧れていた画面の中のヒーローのように——
•••••
気がつけば不良達は皆、地面へと倒れていました。死んではいなかったけど、かなりの重傷だったと思います。
無事だったのは、僕と、高木くんの二人だけ。
僕は一抹の喜びを抱えて、高木くんの側へと近づきました。正義のヒーローのように華麗に悪を挫いた僕は、きっと高木くんから称賛の声を、喝采を浴びるのだろうって。
「グルァァァ……」
変な声しか出なかったけど、別に気にしない事にして、僕は高木くんへと手を差し伸べました。
けれど、僕の手は掴まれることは無く、代わりに僕が突きつけられたのは、残酷なほどの現実でした。
「か、怪物だ……来ないで……来ないで……」
助けた本人から拒絶されるなんて何事だろうか?そう思っていた僕は、ふと校舎の鏡に目を向けました。そこに映っていた僕の姿はとても異形で、歪んでいて……人間ではありませんでした。
「…………」
発狂しそうになりました。
僕が望んだのはこんな力じゃない。僕がなりたかったのはヒーローだったんだ。決してこんな醜い怪物なんかじゃないんだ。嫌だ。嫌だ。
心の中でそう叫んだ僕は、校舎の壁を垂直に登り、そのまま屋上へと駆け上がりました。
そしてゆっくりと屋上の端へと近づき、学校のグラウンドを見下ろして、僕はこう思いました。
ここから飛び降りれば、死ねるのでは無いかと……
こんな姿ではこの世では生きていけない。このまま、異形の存在として、世界から拒絶されて生きてゆくなんて、僕には耐えられない。それならば、今ここでぼくは命を断つ。
グラウンドで運動をしていた数人の学生が、僕の存在に気づいたらしく、僕の方へと指差しをしながら、何かを話しているのがふと目に入りました。
でもそんなことは全く気にならないぐらい、僕は自分のこの姿に絶望していました。僕は、ゆっくりと屋上の飛び降り防止の為の柵にその変わり果てた手を掛け——飛び降りた。
•••••
飛び降りた瞬間、僕の頭の中で様々な映像が再生されました。
髪の白い僕のことを異物のように見る家族達の顔や、毎日のように僕を虐めていたクラスメイト、さらには先ほど見た、高木くんの僕を拒絶する表情。
俗に言う走馬灯と呼ばれるものを見ながら、僕は心の中で涙を流しました。
きっと僕はこの世界には要らない存在だったんだろう。だからこうやって最後の最後で怪物なんかになってしまったんだ。
できることならこんな世界じゃ無い、どこか別の世界で、一から全てをやり直したい。一人の人間として生きてゆきたい。
どこか、どこか別の場所へ、僕なんか普通だって言ってくれる人達がいる世界へ僕を連れて行って下さい。
いるかも分からない神様に、僕がそう祈った瞬間、僕の体は地面へと叩きつけられ、混迷する僕の意識はこの世から完全に消え去りました。
•••••
「あんた!大丈夫かい!?しっかりしな!」
何処からか声が聞こえる。ここは天国だろうか?
僕は、重たい瞼をゆっくりと開き、眩しいほどの光を浴びる。
「ああ、よかった!生きてるみたいだね!」
光に慣れた僕の目に映ったのは、見知らぬ街中に、僕へと必死に語りかける見知らぬ女性の顔。
ここは……そうだ、僕の体、一体どうなったんだ?
慌てて僕は、自分の体の方へと視線を向ける。そこにあったのは、懐かしくも思える人間の僕の体だった。
よかった……僕、人間に戻れたみたいだ。
ホッと一安心した僕は、また重くなり始めた瞼を逆らうことなく再び目を閉じ、そのまま眠りについた。
この世界が、僕が先ほどまでいた世界とは異なる世界だと知ることもせずに——
——そしてこの一年後、僕の物語は始まる。
これは《怪物》となった僕が、新たに辿り着いたこの世界で、人間として生きていく為に、様々な運命に抗い続ける物語だ。
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