51話「ロリへの愛は世界を救うか?終」」

「ひひひひひっ!僕の勝ち…………そんな馬鹿なっ!これはっ!?」


今だけ、俺は、このセリフを吐いた魔王と同じ気持ちになった。先ほどまで地下空間にいたはずなのに……俺たちは大量の塹壕陣地が円状に広がる平原にいた。

見える範囲に第一層と第二層を繋げるワープゲートがあって、それを数十万……いや、百万を超すであろう国連軍が包囲している。そう、壊滅して虐待されているはずの連中が無傷なのだ。


「ありえないぃぃぃぃぃ!どうしてこんな事にぃぃぃぃぃ!なぜ遮断装置が復活しているんだぁぁぁぁぁ!どうしてぇぇぇぇぇ!どうしてぇぇぇぇえ!この世界に僕の体は固定されているんだぁぁぁぁぁ!」


苦しみの魔王は空間転移しようとしたが、それが出来なくて苦しんでいる――これが殺戮の魔王の力を使った俺のオリジナル魔法の効果が齎した結果なのだろう。

この魔法は標的を確実に殺すために、異常な効果を齎す。『過程を無理やり作り上げて、標的を必ず殺す』という結果を残すのだ、そんな魔法である。

どうやら、破壊されたはずの遮断装置は、他にも予備があるとか、壊されてなかったとか、そういう感じに時空が改変されてしまったのだろう。苦しみの魔王を倒すためにな。

壊滅して、虐待されていたはずの国連軍が無傷で復活しているのも、俺の魔法の影響だろう。膨大な数の魔族と魔物が展開していたはずだが、それが1匹も居ないのは――最初から居なかった存在として消去されたのか、別の場所にいるのかは分からんが、100万人 VS 苦しみの魔王という酷い構図が出来上がっている。

今や魔王は、どうやっても生存不可能な状況に立たされているという訳だ。

百万を超す国連軍、世界最強の米軍。人間側も現状に混乱して攻撃が始まってないが、なぁに大丈夫だ。

ここは戦場だ。既に兵器を使用する許可は発行されている。そして、兵士という人種は――訓練で、スムーズに攻撃ができるように頑張っている連中なのだ。誰かが反射的に攻撃すれば、それが魔王の死刑執行のサインとなるだろう。


「アメリカこそ現代に冠するローマである!」

「米軍の戦闘力は世界一イイイイイ!」

「今までの悪夢は幻だったんだな!攻撃!攻撃!オールウェポンズフリィィィィー!全部許可するっー!」


米軍の砲弾が、魔法が苦しみの魔王が展開した魔力の盾へと当たる。ゴリゴリと削り、容易く貫通し、魔王の本体へと当たった。。

それが山のように、次々と飛んできて回避するスペースすらない。大物量による大火力。それは防御するのも回避する事もできない無情な現実だ。


「僕が負けるはずがないぃぃぃー!家畜ごときにぃぃー!こんな事がありえるはずがないぃぃぃぃ!!!

ありえないぃぃぃぃぃ!僕はぁぁぁぁぁ!僕の人生がこんな終わり方をして良いはずがないぃぃぃぃ!」


「……一つしかない遮断装置が壊れたという過去が修正された以上……お前も物理的な距離に縛られる存在に過ぎない。ほかの異次元へ逃げる事はできないんだ……。

壊滅した米軍が、壊滅してなかったという未来に上書きされた以上、お前に勝ち目はない……まぁ、俺の言葉なんて聞こえてないだろうがな……」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!なぜだぁぁぁぁ!なぜぇぇぇぇぇ!絶対的強者である僕がこんな目にぃぃぃ!ああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


それが苦しみの魔王の最後のセリフとなった……。

死因?ロシア軍の無誘導ロケットかもしれないし。

米軍の砲弾かもしれないし。冒険者の精神破壊波かもしれない。そんな感じに魔王の身体は瞬時に穴だらけになって、最後は食の神に食われ、何兆円もしそうな高級食材だけを場に残し――魔王はとうとう死ぬ事ができたのだ。

友達すら犠牲にして生き残った哀れで発狂した化物に――安らぎの時が訪れたのである。



~~~~


「ありがとう……私を止めてくれて……どうか、孫娘を幸せにしてやってほしい……」


男の幻聴が聞こえた気がした。ブラドさんは魂ごと死んだはずなのに、こんな事を言うはずがないのに、声が聞こえて不思議だ。

ひょっとしたら、食の神の胃袋が、時空を超えたタイムトンネルである事が原因なのかもしれない。あの世とやらと繋がっているのかも……そういうロマンテイックな想像ができる。。

今だけはそう思おう。しかし、聞こえたセリフに違和感がある。

白は死んだ。ファーストチュッチュをした可愛くて最高の銀髪美少女は死んだのだ。可愛くて小さいのに頼りがいがあって――


「お師様ぁー!」


幻聴でも、それで良いと思った。俺は後ろを振り返る。

そこには超高速で走って、抱きついてくる凄いロリがいた。俺は勢いを殺せず、白に押し倒されて地面へと転がる。後頭部を地面にぶつけて痛かったが嬉しかった。俺が抱きしめている小さな体は幻ではない。

暖かくて良い匂いがして、優しい気持ちになる。ああ、白は生きていたんだ。その存在を確かめるために強く抱きしめてモギューとした。


「僕、なぜか生きてます!なぜでしょう!?」迷いがない紅い瞳が美しい。


「うむ……俺が唱えていた魔法……をここで解説したら、誰が聞いているか分からないが言えないが……きっと、皆の生きたい、幸せになりたいっていう意志が、あの糞魔王を上回ったのだろう……うむ」


「なるほど正義は勝つって事ですね!死んだ仲間が復活して再登場するのは正義の味方のお約束展開だと思いましたけど、現実でもこういう展開があるって良いですね!!あれ……あのお祖父様は……?」


「格好良く死んだぞ……白の未来を守るために、魔王の中で暴れて……おかげで、俺達は明日をつかみ取る事ができた……すごい正義の味方だったぞ……」


「そうですか……お祖父様は恰好良かったんですね……」


真実はどうでも良い。俺たちが信じたいと思う内容。それが真実なのだ。

……しかし、今回の騒動は本当に疲れたな。お腹が空いて苦しい。

ぐぅーと、白の小さなお腹からも可愛らしい音が出ている。

小さい娘を飢えさせるのはブラドさんとの約束に反するだろう。俺は白の体をモギューモギューと4分くらい抱きしめて楽しんだ後に、白をどかして立ち上がり、右手をさし出す。


「お腹が空いたし……家に帰るか」


「はいっ!お師様!僕はお祖父さまの事を誇りに思おうと思います!英雄ブラド伝説を語り継ぎますよ!お祖父様は勇者だったんです!」


白の左手が、俺の右手を強く握った。柔らかいのに力強い女の手だ。

おれはふと疑問にかられ、白に言ってみた。


「じゃ、魔王を倒した俺は……どういう扱いになるんだ?」


「生きた伝説の勇者Yです!」


その言葉に癒され帰路に着く。

俺たちはようやく――日常へと戻ったのだ。



ーー




ボツネタ


ロシア「ロシアの火力は米軍すら超越するっー!何人たりとも上にはいないっー!」


米軍「アメリカの軍事力は世界一イイイイイ!魔族なんぞ、米国の前にそびえたつ糞でしかないのだぁぁぁぁ!」




(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)こんなセリフを最後にもっていったら台無しだろ!?

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