46話「ロリへの愛は世界を救うか?⑱~苦しみの魔王①~」


ネタバレ全開ver

http://suliruku.blogspot.jp/2017/03/46.html


★★★



地下通路を進めば進むほど、その先には不気味な光景が広がっていた。数千万円で取引される高級食材が転がっているのである。負けた人間や魔族の成れの果てだと思うと、そんなもんを毎日食べている俺は酷いケダモノなのかもしれない。

遮断装置を守る設備なだけあって、無数のトラップの数々が仕掛けてあったようだが、先に行った魔族陣営の奴らが引っかかってくれたおかげで、俺と白真珠は無傷だ。

……恐ろしいくらい扉が大量にあって、開かれた扉にゴールドアップルがたくさんあったりする所が怖い。

きっと、ほとんどの扉が開くだけで爆発するブービートラップの類に違いないと思ったが、遮断装置へと繋がる扉は簡単に見つかった。海兵隊と魔族の奴らが激しく戦闘しすぎたせいで、盛大にぶっ壊れすぎている扉がある。覗いてみると、中は真っ黒焦げ。最新式の誘導弾を連発する自動小銃が転がっていた。一発辺り数万円する高コスト銃とともに、高級食材も転がっている。間違いない。この部屋だ。

だって――


「壁が壊れてますね、お師様」


「うむ……隠し部屋の向こうに、さらに隠し部屋を作ったとか……そんな感じだったんだろうなぁ……」


隠された部屋にある、さらに隠された通路がそこには広がっている。

元は部屋の壁が、隠し通路を完全に隠していたのだろうが、壁が綺麗に崩れ落ちて、逆に隠し通路の存在感を高めているだけだった。

急いでいる俺たちは、隠し通路をさっさと通り抜け、とうとう――目的地へとたどり着く。


「えと……ガラスケースの中に、ゴールドアップル……?」


そこには、おぞましい、果物の陳列棚が何千ケースもズラリっ!と並んでいたのである。ガラスケースの内部は緑色の溶液で満たされていて、ほとんど黄金に輝くがゴールドアップル。たまに超高級食材が並んでいた。

何度も言うが、これはおぞましい酷すぎる光景だ。このガラスケースは人間が入れるようなサイズじゃない。この中に入れるのは――脳味噌くらいなものだ。

白真珠はそんな事に気付かずに、床でお腹から大出血して血まみれになって転がっているブラドを見つけ、抱き起こし言葉をかけた。


「お祖父様!大丈夫ですか!」


「ふははは……全ては……手遅れだ……私は報酬を受け取り……永遠の存在となる……」


「おじい様……お願いですっ!悪の道に染まるのはやめてください!というか、怪我を放置したら死んじゃいますよ!」


「見ろ…小娘……これが遮断装置の正体だ……」


ブラドさんを殴りたい気持ちになった。よりによって孫娘に残酷な真実を突きつけるつもりだ。

白真珠は周りのガラスケースを見渡し――その中に浮かぶゴールドアップルを見て、気づいてしまったようである。


「えと、大量の美味しい果物……これが魔族を弱体化させる機械の正体……?果物があるって事はまさか……?」


「私が来た時……ここには大量の生きた脳味噌が浮かんでいた……それも銀バッジ冒険者以上の脳味噌がな……死んでゴールドアップルと交換されるのは……銀バッジ冒険者クラスの実力があった証拠だ……。

腐った人類の上層部は……人類を守るために……大勢の若者を犠牲にしていた……つまり、そういう事だ……」


何千というガラスケース。溶液の中に浮かんでいる高級食材。そして……この上にあるのはダンジョン学園。

俺は吐き気がしそうだ。どうして遮断装置がこんな場所にあるのか、俺は理解できる。

ダンジョン学園の冒険者は――危険な仕事という事もあって、一定数の行方不明者を常に出している。恐らく、その事実を利用して、冒険者を拉致し、脳みそにして、ここで遮断装置の生体部品として使っていたのだろう。

かなりの魔力を持った脳みそを大量運用する事で、毒電波を出して、魔族の空間転移を封じて弱体化させてたんだ……。俺の考えが正しかったら、犠牲者は数千じゃ済まない。

定期的に壊れた脳みそを交換する必要があるから、その度に、ダンジョン学園の冒険者が行方不明になっていたはずだ。

遮断装置の周りに、エロい自販機があったのは――夜にエロい事をしにきた学生達を捕まえて、自然な感じに行方不明にしてきたのだろう。チーズ校長が加担しているなら、幾らでも隠蔽のしようがある。

本当に腐った世界だ。だから、ブラドさんは絶望して苦しみの魔族なんかに加担してしまったのだろう。


「魔族も人間も変わらぬ……魔族は食事のために……猿同然の存在に過ぎない人間を飼い、人類は同族を犠牲に戦争している……。それはそうだ……どっちも元々は同じ存在なのだからな……」


「お祖父様……あの改心してくれませんか……?僕、殺したくないんです……僕はお祖父様の事が――」


「黙れ……お前を見ていると妻と娘を思い出してイライラする……その顔を見せるな……出ていけ……」


ブラドさん、いや、ブラドは白真珠が孫娘だという事を知らない。だから、言葉で彼女の心を傷つけられる。

俺はどうすれば良いのか分からなかった。瀕死のブラドを説教しても、死人にトドメを刺すようなものだ。後味が悪すぎる。

それに、遮断装置が完全に壊れたという事は……地上は今頃、地獄と化しているだろう。

エロフィンもカグヤも、知り合いの皆の人生が危うい。悪徳都市丸ごと家畜牧場にされそうだ。


「魔族と人類の戦いに正義など存在しない……歴史は既に凍結され、人類の可能性は閉ざされている……。

見るが良い。これが魔の力だ……苦しみの魔王っ!お前の願いは叶えたぞっ!

褒美をよこせ!私を永遠の存在にしろ!私を苦しめた世界を滅ぼしてしまえっ!」


最後の力を振り絞るかのように瀕死状態のブラドが叫んだ。その瞬間――場に凶悪な気配が漂う。

全ての戦略を無視し、距離という概念を吹き飛ばす空間転移をする際に放たれる波動だ。出現と同時に、遮断装置に入っている高級食材をグシャリッと潰れた。

それは――大きな氷の板に、目玉が付いた無機質な形をしていた。口はない。本物の魔族を目で見たのは初めてだ。

ブラドの言葉が確かなら――こいつは苦しみの魔王。

遮断装置のガラスケースは壊れていないのに、中に入っている食材が潰れているのは、こいつが魂だけの存在だという証拠だ。食の神が褒美としてもらす食材は、霊的な要素を含んでいるから、魔族に触れる事ができる。


「ははははっ!遮断装置を壊した報酬をあげよう!さぁ、僕と同化しよう!ブラドっ!ありとあらゆる苦しみに手を染め、美味しい美味しい食事をしよう!家畜だけど君は実に役に立つ家畜だったよ!」


魔王から聞こえたのは、耳が痛くなる……いや、魂が軋むような嫌な若い男の声だ。

この化物は、ブラドに氷の棒みたいなものを突き刺し、魂を吸い上げている。俺は魔王の油断を利用して、こっそりと詠唱を開始する。殺戮の魔王の力を使った魔法だ。

正直、ブラドは助からない。その犠牲を無駄にしない方が良い。唯一の肉親を失った白真珠が可哀想ではあるが、この絶望的な状況を齎したのはブラド当人だ。俺には、魔法を使う事くらいしか、現状を解決する方法が思い浮かばない。だから仕方ないんだ。


「お祖父様ぁー!?」


しかし、白真珠の絶叫とともに――俺が見ていた世界は変容した。

ガラスケースや白真珠の姿が周りから消え去っている。ブラックホールのような真っ暗な世界へと俺は放り込まれてしまった。

ドナルド先輩が言っていたのは、こういう事か……夢の世界に閉じ込めて、人間を虐める……恐らく、そういう魔法なのだろう。

夢の世界で、呪文を詠唱しても意味がない。魔法とは自身が持っている魔力・周りにある資源・生物、遠い資源を有効活用する技術であり、夢の世界では役に立たない。夢の世界で主導権を握るのは――創造主である苦しみの魔王当人のみだ。


「家畜ごときが僕に勝てると思うなんて身の程知らずだねぇ?こっそり詠唱しているのがばれていないと思ってたの?いいよっ!いいよっ!そういう傲慢さを拷問でへし折るのは大好きだからさぁー!

君たちに本当の絶望って奴を体験させてあげるよ!自分の無力さを知って後悔するといい!」


俺は魔王に、返事を返さなかった。こういう輩は無視するのが一番だ。相手にすればするほど、こちらを虐めようとしてくるに違いない。

それに、まだ可能性は残っている。超大国アメリカの事だ。遮断装置の予備の類を作る程度の予算はあるはずだ。それが起動するまでの間、耐えれば逆転できるという希望があるのだ。だから、耐えろ、俺。

アメリカの軍事予算は伊達じゃない。地球の先進国の軍事技術レベルは、どこの国も似たり寄ったりだが、アメリカだけは値段が超高い最新鋭兵器を配備しまくって可笑しい国なのだ。普通の国がやったら財政ごと崩壊するような所業ができる超大国の力って奴を俺に見せてくれ。お願いだから。


「おやおやー!?家畜君は家畜の軍隊なら、何とかしてくれると思っているのかなぁー!

でも、残念でしたぁぁぁぁぁぁぁ!家畜君が頼みにしている軍隊はこんな感じでぇーす!」


魔王の言葉とともに周りの光景が変わる。これは――悪徳都市の東にあるワープゲート周辺の風景だ。

米軍の何十万、いや国連軍を含めると何百万という大軍がゲートを二重に包囲していたはずなのだが……今そこは、『死ぬ事だけが唯一の救済』と言っても過言ではない地獄と化していた……。


「うわぁぁぁぁぁー!逃げろぉー!」

「助けてぇぇぇぇぇ!」

「大変なのですーっ!あの人間は嘘つきなのですー!戦場は地獄なのですよー!こんなの嫌なのですっー!」


米軍兵士と巨乳エルフ娘は、現実味がない事を叫びながら逃げようとしている。しかし、魔族は物理的な距離に縛られない存在だ。逃げた兵士達はすぐに手足を焼かれ場に放置された。

頑強な装甲に守られた戦車に乗っていた連中は、いきなり車内転移してきた魔族に半殺しにされ、放置されている。

移動できる大砲とも言うべき、自走砲部隊も搭乗員たちが嬲り者にあい、その絶大な火力が何の意味もなかった。

魔族たちは兵士達に傷を負わせ、出血死で楽に死なないように、焼いて傷を止血し、アルコールをかけて殺菌していく。

自殺できないように拳銃を取り上げ、手榴弾を奪い、舌を噛んで自殺できないようい猿轡を口にはめ、生き地獄を演出していた。

幸運なのは逃げずにさっさと自殺した奴だけ。歯向かったもの、逃げたもの、ありとあらゆる国籍の兵士が、手足をもがれ、死なないように応急処置されていく。

魔族は美味しい食事を楽しむために、兵士達を励ました。


「あははははっ!簡単に死ねると思うなっ!家畜に死ぬ権利なんてない!もっと生きろ!あがけっ!苦しめ!血と泥を啜り、生き抜いて見せろ!ほぉら!怒れ!もっと感情を爆発させろ!心を死なすな!」


「おいっ!家畜っ!拷問するのを手伝え!手伝えば生かしてやるぞ!

この拷問棒を使え!ほら!殴れ!別に死なないから!苦しむだけだから!ほらっ!遠慮なくやれ!生きたいんだろう!この棒でたたくだけで良いんだ!」


「わかったのですー!人間を虐めるから、私を虐めるのは止めてほしいのですよー!この棒でパシンパシン叩けばいいのですね!わかったのですー!」


……空間転移をする魔族に、人類は勝てない。

どれだけ戦力があろうと、瞬時に別の場所に移動し、軍隊の弱点を破壊できる相手じゃ……超大国アメリカの軍隊といえども、勝てるはずがなかった。

つまり、外部からの助けはこない。俺は――魔王の家畜として、しばらくの間、死ぬ事をも許されずに嬲り殺されるのだ。


「どうだい?絶望したかい?絶望の感情は食べたら食中毒を起こすけど、なかなかに楽しいものがあるよ。

家畜君は高位の冒険者だから、美味しい感情を食えそうだ」


「クソ野郎……っ!」


この状況、どうしよう。勝率がほぼ0%だ。



(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)エルフ娘が、普通にゲスな件


(´・ω・`)でも、可愛いから許す。


(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)こらぁー!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る