43話「ロリへの愛は世界を救うか?⑮~中ボス戦➁~」
http://suliruku.blogspot.jp/2017/03/43.html
ネタバレ全開ver
★★★
「僕が快楽の魔族の手先となったのは……君と出会う4年前くらいだったから……7,8年くらい前になるかな……」
そう言って、ドナルド先輩は自身の胸元を見た。茶色のくたびれたスーツの胸元には、白いプラチナバッジがある。冒険者の最高峰である事を証明し、人としての価値すら決めてしまう残酷な評価システムだ。
「あれは……冒険者バッジ制度が始まった頃だからよく覚えている。冒険者を画一的に評価すると称して導入された『パーフェクト冒険者バッジ制度』……バッジそのものに意志を持たして、人としての価値すらも全てバッジの色で評価するようになった時代だ。
世間では、今までやっていた民間軍事会社が作ったいい加減な評価制度と違って、分かりやすく実力を把握できて便利と言われたが……このパーフェクト冒険者バッジ制度には、とんでもない欠陥があった。君もその欠陥の犠牲になったから分かるだろう?」
「……迷宮管理機構や地球を支配する偉い人から邪魔だと思われると――最下位の黒バッジにされてしまうという問題ですか?」
「ああ、そうだ。普通に魔物を殺し、魔族と戦争している冒険者には特に影響はないが……僕と君には、とある共通点がある」
先輩の言葉に俺は考えた。一瞬で思いついたのは――俺たちは魔道という分野の研究者であり、この分野には多数の闇が覆っているとしか思えない。
現に、殺戮の魔王の存在を推理し、実際にその魔法を作っただけで俺は黒バッジへと落とされている。
バッジの色は、その人間の価値。ダンジョン学園の入学試験で俺たちを襲ってきた奴らが、俺を標的にしたのは……恐らく、俺と白真珠が黒色のバッジを付けていたからだろう。
価値が低い。だから殺しても良い。弱い冒険者が死んでも、そんな事は何にも問題にならない、自業自得だ……そういう風潮が、パーフェクト冒険者バッジ制度のせいで出来上がっている。
「トモヤ君。魔導とは、そもそも魔族が使う技術を模倣した代物だ。当然、魔界から持ち帰ったとされる文献を読む必要があり、よく考えて考察すると――恐ろしい事実が複数思い浮かぶ事は……君も経験上、分かるよね?
そもそもだ……全く違う異質の世界にある文献を解読できる奴がいる訳がないって事に、僕らは気づいているはずだ」
「……魔物と魔族は人間の感情を食らう化物……この時点で、地球と魔界は無関係な世界じゃない……」
「そうだ。生物が自然に進化する場合……生物は周りの環境に大きく依存する。シマウマは草を食べ、ペンギンは海に潜って魚を食べるように……魔族が人間の感情を食べまくって、とんでもない栄養を得られるという事は――」
ドナルド先輩は、ひと呼吸おいて言葉を続けた。
「魔界にも人間が存在したという事さ。そして、魔族が使う魔物達の遺伝子情報を見れば分かる事だが――奴らは、99%以上、人間と似たような遺伝子を持っている事は知っているね?
アメリカは『魔界に行った人間を元に、手下となる魔物を作り出した』とか言って非難してるけど……これ間違いだってわかるだろう?」
「……元々、魔界にいた人間を品種改良して作り出したのが魔物……って事ですよね?」
「チーズ博士が持ち帰った研究資料にはこう書いてあった。魔界とは全ての恒星が死に絶えた宇宙の可能性が高いと。
ありとあらゆる太陽がエネルギーを使い果たし、再利用できなくなったエネルギーが転がっている死の世界。
人の目では、星の光すら視認できないほどに、何もかも終わってしまっている。
魔族も人間も、太陽光が存在しない世界では活動できない。どんな食物連鎖も莫大なエネルギーがあるからこそ成り立つんだ。それは魔族でも例外じゃない」
よくよく考えてみれば――全てが死に絶えているはずの世界で、魔族たちが冬眠の真似事をしていたのは可笑しい事だ。
宇宙全体のエネルギー資源が枯渇して、未来がないのに、活動を停止して眠るという選択肢は……ただの自殺行為である。
ドナルドの先輩の続きの言葉が、俺の考えを強く補強した。
「ここまでいえば分かるだろう?魔界とは――遥か時の彼方にあり、全ての可能性を閉ざしてしまった暗黒の未来世界なんだ。魔族が人間の感情を食べるのは、奴らが人間から進化し、全く違う種族になったから。
百年前、魔界に大量の軍人が突撃した事で、奴らはその感情を喰らい、何億年、何兆年……宇宙の全ての恒星がエネルギーを使い果たす期間を考えると……100兆年以上に及ぶ深い眠りから目覚めたんだ。恐らく、魔族はこの出来事を何度も何度も繰り返していると思う。
そうじゃないと、幾らなんでもありえないだろう?過去と未来が繋がる事を知ってなければ――死に絶えた宇宙で眠って、エネルギー消費を抑えるっていう行為はしないはずさ」
「……ダンジョン世界は現在と未来を繋ぐタイムトンネルだったって事ですか……?」
「僕は、その秘密を知りすぎた。迷宮管理機構はプラチナバッジだった僕を黒バッジへと落とし――口封じをかねて、苦しみの魔族がいる領域に、僕を置き去りにしたんだ。黒バッジ。ただ、それだけで仲間たちは僕を見捨てた。奴らは僕のバッジの色しか見てないクズ野郎だったのさ。そんなクズを信用した僕がアホなのだろうけどね。
僕は強制的に魔法を封じられた夢の世界で、魔族の手によって、ありとあらゆる拷問と苦しみを受けた。目玉を抜かれて光がない世界を体験させられ、聴覚を失い音の世界で永劫と思うような長い時を過ごし……今、僕の器には、苦しみの魔族が宿っている。人類にとって最も残酷で容赦がない最悪の魔族の魂が宿っているんだ。
幸い、快楽の魔族様がそいつの精神をぶっ壊してくれたおかげで、かなり自由に行動できるけどね」
「先輩……アナタは快楽の魔族の手先でいいんですか?」
「それどころか前都市長も、快楽の魔族の手先……いや、議員といった方がいいかな?快楽の魔族は民主的な議会制だからね。こういう所に人類の名残があるよ。ところでトモヤ君。この悪徳都市の別名を覚えているかい?」
「快楽と美食の都市……まさか……?前都市長が快楽の魔族の手先という事は……?」
「その別名通り、ここは快楽の魔族のために存在する快楽都市なんだよ。西にいけば性的な快楽が、北に行けば食欲的な快楽が、東に行けば奴隷を購入して他人を従わせる快楽が転がっている。
快楽の魔族の家畜牧場は、こんな感じに――気持ちよくて退廃的なんだよ。なら、良いじゃないか。他の魔族主導で人類が家畜化されるぐらいなら、快楽の魔族主導で支配された方がマシだろう?
人間は生きているだけで苦しみ、絶望し、様々な感情を吐き出す生き物だから、他の魔族も妥協できるしね。それが一番人類にとって平和で幸福な未来さ」
「先輩……アンタはそれでいいと本気で思っているのか……?」
「……既に歴史の可能性は凍結されている。酷い結末を迎えたSF作品のような世界観で、人類が勝利しても……それは悲劇でしかないよ。なにせ未来の人類を殺して、今の人類を勝たせるなんて……何の意味もないじゃないか。僕は人間っていう生き物が嫌い嫌いで仕方ないよ」
ドナルド先輩が言い終えた頃、ちょうど瓦礫の撤去作業が終わった。
白真珠が魔法の鞄をブンブン振り回しながら、俺の所に歩み寄ってくる。その小さな頭を撫でてやろうとしたが――ドナルド先輩の口元を見て驚愕した。
それは詠唱。魔法を発動させるための呪文を小さい声で唱えている。
「お師様ぁー!撤去が終わりましたよー!あっー!」
魔法は発動した。恐ろしいほどに指向性をもった風が、白真珠の小さな体を吹き飛ばす。
黒いドレスは物理的な風の影響は受けないはずなのだが、この風には恐ろしい量の魔力が込められている。
遥か通路の彼方へと、白真珠の姿は消え、瓦礫の向こうから銃弾や爆発音がした。どうやら通路の先に誰かが待ち伏せしていたようだ。
俺はドナルド先輩から距離を取る。突然の裏切り行為を働いた先輩は……人生に疲れきったサラリーマンのような顔で怪しく微笑んでいた。
「さぁ、トモヤ訓。僕と一緒に人類を家畜化しないかい?快楽の魔族が目指す先は無限大の気持ちいい世界が待っているぜ?」
「……断る。俺はそんな快楽はいらない」
「なら、殺そう。君が負けたら白ちゃんはそうだなぁ……豚人間にでもプレゼントしようかな?きっと良い感じに鳴いてくれるに違いないよ。
君には特別に複合魔法を見せてあげよう。ちゃんと僕の依頼を達成できたご褒美だ。こう見えても僕は――約束は守る男なんだぜ?」
そんな報酬はいらない。だが、白真珠を傷つけるなら――俺は先輩を許せない。
さっさと、白真珠に殴らせておくべきだった。
---
(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)(白真珠ちゃん、吹き飛ばされちゃった……)
(´・ω・`)(ドナルド先輩による各個撃破戦じゃのう……)
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