1話「ロリと寝てしまったが、俺はロリコンではない①~波乱の入学式~」
ちょうど昨日は……入学式。
ダンジョンで戦闘する冒険者を育成する教育機関に入学したのだ。
『ダンジョン学園』という役所仕事すぎるネーミングの学校で、きっと頭が硬い連中がたくさんいるに違いない。そう断言できるほどに学園名がシンプルで酷すぎた。
しかも、入学式といえば、無意味に長い校長の演説が付き物である。
「貴様らっ……!クズッ……!クズっ……!その年になって黒バッチや銅バッチはっ……!
努力が足りない証拠っ……!社会が生み出した不良品っ……!
怠け者は去れっ……!ここは遊び場ではないんだっ……!」
白い髭がよく似合うお爺さんが、新入社員の気持ちを締め上げるために、眠くなる内容を延々と語っていた。
数万人の若い冒険者がズラリっと、無駄に広いグラウンドへと並んでいて、なぜか顔が真っ青だ。
恐らく、今まで通っていた冒険者支援学校が温い場所だったのだろう。
冒険者という仕事は、命の危険と隣り合わせな職業だから、演説の内容が物騒なのは当たり前の事なのに、今更ながら現実を知ったようだ。
「実力がない者は去れっ……!最底辺どもがっ……!
ワシらは欲しいのはっ……!どんな状況でも諦めない兵士っ……!
一般人や新兵に毛が生えたようなクソどもを教育している暇はないのだっ……!分かれっ……!クズどもっ……!
ダンジョンは甘くないのだっ……!弱い奴から……なぶり殺しにあってっ……!
中々、死ねないっ……!捕虜になれば自殺すら許されないっ……!弱者は死こそが救済だと理解できる場所なのだっ……!」
一応、説明しておくが俺たちが活躍するダンジョンという舞台は、ビデオゲームに出てくるような小さな迷宮ではない。
惑星サイズの超巨大すぎる異次元世界なのだ。
日本国民は自動的に二十歳になると徴兵され、十年間、ダンジョン内で兵役に付く義務が生じるのである。
ダンジョン内でトラックを運転したり、ビルを建設したり、工場で働いたり、様々な雑務が待っている。
もちろん財政が悪化している日本国政府が提供する仕事だから超低賃金だ。緊急事態になったら戦力として駆り出されて更なるブラック労働が待っている。
……この話だけを聞くと、まるで第二次世界大戦末期の日本より酷い状況だが、それにはもちろん理由がある。
人類が滅亡寸前一歩手前……これは幾らなんでも言い過ぎだな。
今、人類は滅亡50歩前くらいな感じに危ういような、まだまだ大丈夫だと思い込めるような状況に置かれている。
なんと、ダンジョンは全十層の異次元世界で構成されていて、俺ら人類が支配しているのは、たったの1層……まぁ、地球並に広いから第一層だけでも人類の手に余りすぎて、こぼれ落ち、魔物がウヨウヨいる訳なのだが。
かつては、アメリカ合衆国の圧倒的な軍事パワーで、異次元ダンジョンを次々と攻略して全階層を征服し、約50億人ほどが捨てられ……いや国連の移住政策で引越しして、ダンジョン内に住んでいたそうだ。
増えすぎた人口を次々とダンジョンへと放り込み、繁栄を謳歌していたと歴史の教科書には書いてある。
移民は次々とダンジョンを開拓し、アメリカの皆さんはニューフロンティア!ヒャッハー!と叫んで、コーラを飲んで、ハンバーガーと健康サプリを食べていたそうだ。
だが……繁栄の時代はダンジョンの最終階層がとんでもない世界へと繋がっていた事で崩壊した。
「貴様らなぞっ……!魔族1匹に皆殺しにされる程度のゴミっ……!
ゴミが何匹いてもっ……無意味っ……!虫けらはっ……!虫けらに過ぎぬのだっ……!
いや虫よりも役に立たないクズっ……!」
人類の天敵『魔族』が住む魔界。そこにアメリカ海兵隊の皆が突撃して見事に返り討ち、魔族がゴキブリのごとくウヨウヨとダンジョンへと逆流してきて、もう80年。
2~9階層を丸ごと魔族に奪われ、人類に残されたのは、たったの1層。
住み着いている人間はたったの3億人足らずという有様である。まぁ、エルフや鬼などの先住民族を含めると5億人ほどいるらしいから、まだまだマシなのだろう。
そんな状況で低賃金で徴兵されるのが嫌な俺は……兵役から逃れるために十歳の時に冒険者の進路を志願し、冒険者支援学校で魔導を学び、ライバルと競い合いあった果てに――この入学式に今に至ったという訳だ。
冒険者は良いぞ。定期的にノルマの達成を求められるが報酬は良いし、自宅まで簡単に買える。
自分達で自由に計画を決めて、ダンジョン探索をやれるのは有り難い。
学園に入学すれば、可愛い女の子達とも知り合えるだろうし、雑魚モンスター狩りをやっていれば死ぬリスクも低くてウハウハだ。
真にアッパレな職業――と言いたいのだが、学生たちが不安そうにザワザワッと効果音みたいに騒いでいた。
「貴様らには入学する権利がないっ……!
銀バッチの入学は認めるがっ……!黒バッチっ……!銅バッチっ……!
貴様らは今日中にっ……!魔物を倒しっ……!千ゴールドアップルを集めてくるのだっ……!それが入学の条件っ……!」
この校長の言葉に、数万人いる若い冒険者達がザワザワっと騒いだ。
数人が勇敢にも校長に抗議してくる。人間社会では『出る杭は打たれる』という悲しい法則があるだけに、本当に勇気がある奴らだ。格好いいぞ……その努力は報われないだろうが。
「どういう事だよぉー!これ入学式だろぉー!」
「入学金払ったのにぃー!」
「アホでも入学できる学園じゃなかったのかー!」
「黙れっ……!黒・銅バッチ風情がっ……!
貴様らは人間ではないっ……!ただの魔族に食われる家畜に過ぎない事が分からんかっ……!
銀バッチ冒険者になるまでっ……!お前らはただのクソガキに過ぎないのだっ……!
おっとっ……クソガキに失礼だったなっ……!キサマらは家畜だったっ……!」
この学園は、もちろんダンジョン世界の第一層の新キョウト・シティにある訳なのだが……財政がキツいのだろうか?
先ほど、校長は千ゴールドアップルを納めろと言っていた。
これは恐らく、都市の財政が悪化して、ダンジョン学園の経営が危うくなっている事を意味している……と推理できる。
一層と二層を繋ぐ交通の要所とはいえ、第二層は魔族の支配エリア。
スタート地点から飛び出た途端、スライムではなく、終盤のラスボスが出てくるようなクソゲー環境。
魔族の力を制限する遮断装置でも設置しないと、勝率は0.00000001%くらいだな。間違いない。
……うむむ、人類の未来が暗い……可愛い彼女を作ってイチャイチャしたいのに、明るい未来を想像できないのは何故だろうか?
「実力がない物は冒険者になれないっ……!
最近は兵役逃れのために志願する奴らが多いそうだがっ……!
冒険者はエリート中のエリートしかなれない職業っ……!
馬鹿な貴様らにも分かるように言うとっ……!選りすぐられた精鋭しか通れぬ狭き門なのだっ……!
達成できないものは退学処分としっ……!冒険者の免許資格を剥奪するっ……!。
さぁっ……!入学試験スタートだっ……!」
「理不尽だぞぉー!」
「馬鹿めっ……!
郵送したパンフも読まない俗物がっ……!
これは入学式ではないと事前に書いてあっただろうっ……!
ちゃんとパンフを読んだ奴らはっ……!今頃狩りをしておるぞっ……!
情報の大切さも分からん無能どもめっ……!」
すいません、俺、その無能でした。
説明書を読まずにゲームをする派としては、かなり心に痛い演説だ。
知らず知らずに、情報弱者の側になっていたようである。
「さぁっ……!さっさとモンスターを狩ってこいっ……!」
この校長の言葉を最後に、数万人いる学生達が次々と学園の外へと走っていった。
まるで、ライオンに追いかけられた草食動物の群れのような見事な走りっぷりである。
自分が生き残るために、他者を犠牲にする気満々な所が特に似ている。
大勢の人間が去った後……このグラウンドに残った奴らは、チームを組んでいないボッチどもだ。
当然、それには俺も含まれる。
今まで特殊な支援学校に通いながら、魔導関係の仕事に着いていた関係で、この場には知り合いが一人もいない。
さて、どうするべきだろうか……?
とりあえず、近くにいる謎の銅バッチ男に話しかけてみよう。きっと彼もボッチだ。
「おい、俺とチームを組まないか?俺は魔法を使えて元プラチナ――」
「銃器も持ってない奴とは同盟組めないぜ!他をあたりなっ!この黒バッチ風情がっ!」
うむむ……プラチナバッチから黒バッチに転落した後に、銅バッチを取得してなかった事がここまで影響が出るとは知らんかった。
周りから俺はとんでもないアホな弱者に見えているらしい。
あと、俺達の胸元に付いている冒険者バッチは、稼いだ額や貢献度に応じてバッチの色が変わるシステムを導入している。
黒が初心者。
銅でヒヨッコ。
銀が一人前
金がベテラン。
プラチナが、超一流の冒険者である事を示しているのだ。
別に一人でも問題はないような気はするが、俺は可愛い女の子と知り合って、素晴らしい青春時代を過ごすという目的がある。
出来れば、この場で可愛い娘を見つけて、彼女たちとチームを組みたいが……バッチが黒では誰も相手してくれない。
銅バッチを付けた奴らは、皆、ゴミを見るような目で黒バッチを笑い、次々と学園の外へと去っている。
黒ばっち冒険者のほとんどは、この場にで立ちすくみ、絶望し、涙を流していた。
1000万円ちょっとを稼げば、簡単に銅バッチになれるのに、今まで何をしてきたのだろうか?
最弱の雑魚モンスターを千匹ほど狩れば良いのに、それすらやっていない時点で冒険者に向いてないのだろう。
校長先生の演説にも一理あったようだ。
「すいません!
僕と一緒にチームを組みませんか!」
背後から、とっても愛らしい声がかかった。
素晴らしい妖艶すぎる声だ。俺はオッパイがボインボインなスーパー美少女を期待して、背後を振り返る。
しかし、残念な事に美少女の姿はない。
あるのは空気だけだ。声の主はどちら?
「まさか……幽霊か……?」
「僕はこっちです!」
声は、下から聞こえた。
視線を少しずらすと――10歳くらいの小さい女の子が見える。
胸元を見ると、オッパイが中々に大きい……いや、黒バッチがそこにはあった。
白いセーラー服を着ていて、襟が薄い水色の縞々模様になっていて可愛らしい格好である。
髪は絹のように柔らかそうな銀色。それが背中にまで伸びていて、素晴らしい洋ロリだった。
そう、洋ロリ。銀髪で目は真紅。純真で小さな女の子が目の前に居たのだ。
……最近の女の子は発育が良いんだな……。単純に背中が小さいだけの合法ロリな可能性もある訳だが。
「年齢は?」
「女の子に年齢を聞くのは失礼だと思います!」
「じゃ、なんで俺に声をかけたんだ?黒バッチだぞ?」
「持っている物が高そうだったので!たぶん金持ちのボンボンか、凄い腕の冒険者なのかと!
ほら、その時計とか高級品な気配がします!
黒づくめの服装ですけど、ところどころ高級品な感じがしました!」
なるほど、金の臭いに敏感すぎるロリなのか。
確かに腕に付けている腕時計は、自分で開発した腕時計で、周りから魔力を集めて、魔力の回復を早める効果がある。
実用性があり、希少性もあるから一億円くらいの値段は付くだろう。
俺がそうやって考えて黙っていると、洋ロリは積極的な攻勢に出てきた。
「僕っ!モンスターを狩った事はあるんですけど、読み書きが少ししかできないから車を持ってないんです!
なんでもするから一緒にチーム組んでください!
お願いですっ!」
確かにこの洋ロリは可愛い。お肌は真っ白でモチモチしてそうで、胸が大きい所が魅力的だ。
だが、俺はロリコンではない。恋愛の対象外な上に、役立たずと一緒に行動するほど暇ではないのだ。
「……すまないが実力がないものは死ぬ。冒険者はそういう業界――」
「はい、実力証明しました!」
そう言うと、洋ロリは俺の右手を掴んで、ミカンを持ち上げるかのごとく、軽々と俺を宙へと持ち上げた。
……うむむ、どうやら見た目通りの洋ロリではないようである。
オッパイが大きい以外にも、組むメリットがあるという訳だ。
「どうです?僕と一緒に正義の味方とか目指しませんか?
僕は冒険者の資格を剥奪される訳にはいかないんです!お願いします!僕とチームを組みましょう!」
「……まぁ、魔力も豊富なようだし。きっと魔法も凄いのだろう、分かった。
一緒に協力してやろう」
「やったー!
……ところで校長先生が言ってたゴールドアップルって何でしたっけ?」
転げ落ちそうになった。いや、洋ロリに持ち上げられているから、ただの比喩表現なのだが。
素人でも知っているような一般常識すら知らない事に、俺は心の底から驚いて頭が痛くなりそうだ。
「モ、モンスターを倒すと、クッキングマスターって神様が食べ物と交換してくれるだろ?
ゴールドアップルは一番弱い魔物が落とすリンゴであり、通貨を兼ねている」
「あのリンゴってそんな名前だったんですね!美味しいから全部食べちゃいました!」
「……ちなみに1ゴールドアップルで1万円くらいの価値がある。
つまり校長は一千万円を稼いで持って来いと言ってる訳だな」
「なるほど」
この洋ロリは、何時まで俺を持ち上げているつもりなのだろうか?
近接戦闘で勝てる自信が全くないだけに、俺のプライドがズタズタになりそうだ。
最近のロリは、オッパイだけではなく、腕力も凄いらしい。
だが、これから相棒になる人物だ。名前くらいは教えておこう。
「……自己紹介が遅れたが俺の名前は、大道寺トモヤだ」
「友達がたくさん居そうな名前ですね!」
友達が居たら、こんな所でボッチしてない。無邪気に俺の心を抉る洋ロリだ。
「僕の名前は白真珠です!苗字はありません!」
洋ロリは俺に向けて、片手でVサインをしてきた。
邪気のない笑顔を見て、俺も元気が出てくるのだが……何時になったら、地面に下ろしてくれるのだろうか?
身体能力がクッキングマスター製の特殊な食べ物のおかげで強化されているとはいえ、さすがに右手が痛くなってきたぞ。
それにしても可笑しいな……。
この洋ロリは幼いのに……保護者の姿が全くない。
まだ冒険者支援学校に通っている年齢のはずなのに、どうしてこんな所にいるのだろうか?
影がないように見えるのは……気のせいか?
恐らく、俺の影と重なって彼女の影が見えないのだろう。
ーー
(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)先生ー!これー!
小学生が高校にいるようなもんでしょー!
(´・ω・`)飛び級のようなものだと思えばワンチャンスじゃ
(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)黒バッチなのに?
(´・ω・`)魔物から出た食べ物を換金せずに、全部食べていたからのう。社会には貢献してません扱いになるんじゃよ
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