永遠に金赤の輝きを……

芒来 仁

第1話

 ごん、ごん、ごん、と機械音が響く。回転寿司のコンベアの継ぎ目にある微妙な段差を、何度目だろうか乗り越え、私の載った皿がガクンと揺れる。

 金赤に輝く私の身体。無数の真球が折り重なり、黒い海苔、白い舎利と高級感のあるコントラストを為している。

 「ああ、イクラか。輸入物のおかげで最近安いよな」などとほざく貴君は洞察力に欠けている。あのこましゃくれた輩がコンベア何周も放置されるわけがない。

 私はトビコである。

 回転寿司時代よりも昔からパック寿司に金赤の輝きで彩りを与えてきた、誇りある魚卵、栄えある寿司のネタなのだ。

 ……何かの代用品だのといった突っ込みは許可しない。

 まあとにかく、我等トビコは庶民の味方にして贅沢を夢見るための小窓なのだ。

 そんな私に背後――頭上から声がかかる。

「あ、これはトビコさん。お先っす」

 イクラの野郎である。彼は御注文品の台座に鎮座し、間もなくお客に取られることは彼の運命である。

「君も大人気だね」

「お陰様で……っと、俺はそろそろみたいですね。じゃ」

 私の言葉に滲んだ嫌味に気付く間もなく、彼は注文した客の手に取られて行った。

「さすがイクラさん、大人気ですね」

 私に同調したのは、前を行くタラコだ。同じ魚卵ながら、寿司ネタとしては若手である。

「まあ彼はエリートだからね。けれど君だってなかなかのものだろう」

「いやいや、僕なんて寿司ネタかどうかも怪しくて……あれ?」

 コンベアがカウンターエリアから家族シートエリアに入った瞬間、幼子がタラコの皿をひょいと取り上げて行った。

 挨拶の間もなく、彼は子供の胃袋に収まって行く。そうだ、彼はマヨネーズベースの味付けで子供人気が高いのだ。

 話し相手も軒並み消えてしまった。近場で一緒に回っているのは……ワサビの小袋を満載した椀くらいのものだ。

 さて、どうしたものか。……そんなことを考えているうちに、またコンベアの継ぎ目の段差を、ごん、と乗り越えた。

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