鬼は外、福は内。

鰐川にわ

むかしの鬼と福のはなし1

むかしむかし、ある国に貧しい男が住んでいました。

男は毎日必死にはたらきましたが、得られるお金はなんとか飢えをしのげるほどでした。


ある日男がいつも通り仕事を終え、帰ろうとすると、仲間たちとともに工場長に呼び出され、

「おまえたちに払う金がない、すまないがもう明日から来ないでくれ」

と言われました。


次の日も、その次の日も、仕事を探しに他の工場を回りましたが、どこも男を雇ってはくれません。それどころか、どこの工場も従業員をクビにしているではありませんか。


クビになった男たちは考えました。

「どうしてこの国には仕事がないんだろう?」

「鬼が仕事を奪っているにちがいない」

「そうだそうだ」


男たちは、よくわからないけどとりあえず鬼退治に行くことに決めました。しかし、きびだんごを買うおかねすら、彼らにはありません。

「もうだめだ」

「それな」


そんなとき、

「おにはーそと!」

と声が聞こえてきました。

声のする方をみると、王子さまが豆をまいているではありませんか。

ちなみにこの王子さまは運動おんちなので、白馬には乗れません。徒歩です。


男は聞きました。

「王子さま、なぜ豆をまいているのですか」

王子さまは答えました。

「鬼を追い払って、福を招くのだよ」

鬼を追い払うと聞いて、男はなんだかよくわからないけどわくわくしてきました。

「わたしも、なかまに、入れてください」


こうして男は一緒になって豆をまきはじめ、しだいに仲間たちも加わるようになりました。


やがて王子さまは王さまになり、豆をまく人の数は、数万人にまでふえました。

ある鬼は国から出ていき、またある鬼は家から出てこなくなり、そして多くの鬼たちはいつのまにか姿を消しました。


「おにはーそと!ふくはーうち!」

鬼が減ってくると、男はまた仕事につくことができました。男は今日も王さまに感謝して豆をまきます。

「おにはーそと!ふくはーうち!」


あるとき男は考えました。

「わたしはどうして鬼に豆をぶつけるのだろう」

しかし、それは口に出してはいけないことのように思えたので、だまっていました。

そして、よくわからないけれど、みんなと一緒に豆をまき続けました。

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