「きゃっ」

 雪が降る中に日差しが差し込み、銀世界となっていた高校の中庭。ネコジャラシを持っていた少女が飛びかかってきた猫に驚き、雪の上に尻もちをつく。

「もう、何やってるのよ、翠は」

 それを見ていたもう一人の少女が呆れたように言う。髪を三つ編みにした少女、本陣 歌穂である。

「でも、猫と言ったらネコジャラシでしょ?」

 一方、猫と戯れているポニーテールの少女は鶴里 翠。二人とも、この高校の二年生。アクティブ過ぎる翠を歌穂が止めるということが多いが、お互いをそれぞれ、親友だと思っている。

「でもそのうち、引っ掻かれるわよ?」

「いいもん、可愛いから許す。可愛いは正義! ──きゃっ」

 ぽす、と白い塊が不意に翠へと当てられる。そちらを振り返ると、黒髪を伸ばした少女が雪の塊を手に、立っていた。

「あ、さくらちゃん」

「先輩方、何やってるんです?」

 徳重 さくら。一年生だが、二人とは親交が深い。

「えっと、猫可愛いよね」

「はい、そうですね♪」

「……雪玉を当てられた件はいいの?」

「可愛いから許す! だってさくらちゃんは、MSWのリーダーだもの!」

 MSW。名古屋・栄を拠点に活動する、地元密着型のアイドル六人組である。その中でさくらは不動の一番人気で、この高校の中にもファンは少なくない。受験生の中には「さくらがいるから」この高校を志望する者もいるらしい。軽い気持ちで受けられるほど、この高校の受験難易度は低くないのだが。

「いや、リーダーは梓ちゃんですよ?」

「そうだっけ? でも可愛さ一番はさくらちゃんなのだ!」

 可愛くてたまらない、といった表情で翠はさくらをぎゅっ、と抱きしめる。抱きしめ、愛でるように背中をさする。

「猫はいいの?」

 歌穂が聞く。

「さくらちゃんの方が可愛いもん!」

「まったく、もう……」

 すると歌穂は足下の雪をかき集め、丸く固めると翠へぶつけた。

「かほりん、何するの!」

「別に? てかかほりんっての、止めてって言ったよね?」

「あれあれ、嫉妬?」

「何で嫉妬するのよ」

 ぼす、と歌穂に対しても雪の塊が当てられる。

「ちょっと、徳重さん?」

「当たりました♪」

「もう、さくらちゃん可愛いんだから。えいっ」

 翠も雪玉を投げ、雪合戦が始まった。完全に猫は蚊帳の外である。

「にゃあ」

 寂しそうに一鳴きするが、それでも三人は雪合戦に夢中。高校の中庭でやっている訳だから、他の生徒の注目も集まる。それでも雪合戦は止まらない。

「あっ」

 さくらの投げた雪玉がコントロールを失い、通りがかった女子生徒に当たる。

「ごめんなさい! ──あ、セーラ先輩」

 海部 セーラ。翠と同じクラスで、校内一、いや名古屋一とも言われる高密度・広範囲の情報網を持っていると言われる女子生徒である。どういう縁か、さくらとも親しい。

 セーラは雪を払うと、近くにいた猫を抱き上げる。

「タケ、こんなとこにいたのね」

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