冬の日

愛知川香良洲/えちから

 サク、サク、サク。ボクが一歩ずつ歩くと、そういう音がする。地面が白くて軽いものに覆われているからだ。サク、サク、サク。何かいい気分だけど、足許がちょっと、冷やっとする。寝転がったら面白そうだけど、全身が冷やっとしてしまうだろう。

 ここはどこなのだろう。何となく歩いていてたどり着いた、知らない場所。ご主人様、どこにいますか。探しまわってたどり着いた場所。同じ格好をした、ご主人様のような人達がたくさんいて、部屋にこもって誰かの話を聞いているようだ。まあ、ボクみたいな人もいて、部屋の外を眺めてたり、隠すように手許で何かをいじってる人もいるみたいだけど。

 すると突然、何かがボクの視界の一部を遮った。白色をして、ふわりふわりと落ちてくるもの。ご主人様は「ゆき」と言ってた気がする。

 すっと、太陽が雲のあいだから顔をのぞかせた。すると地面や、「ふわりふわりと落ちてくるもの」が銀色に輝き出す。そうだ、ボクとご主人様が出逢ったのはこういう日だった。ボクと同じ、銀色の日。

 その前のご主人様はひどかった。毎日ボクを叩いて、時には熱いものを押し付けられたりした。機嫌が悪いとご飯をくれないこともあった。そんなひどい生活が嫌で、ボクは逃げ出した。そして出逢ったのが、今のご主人様だ。

 そうだった。突然消えてしまったご主人様を追い掛けて、微かな匂いを追って、ボクはここに来たんだった。ご主人様、どこにいるの。

 ふと、目の前にゆらゆら揺れるものが現れる。ふわふわして、波打つように揺れる。捕まえたい、そんな本能に逆らえず、ボクはそれに飛びかかった──。

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