ボンゴレ☆ビガンゴの日常

ボンゴレ☆ビガンゴ

友達とレトロゲーム

 最近のゲームについていけない。なんていうと老人みたいになってしまったみたいなのだが、PS3くらいから、もうついていけてない。

 操作は難しいし、単純に膨大なやり込み要素を消化するほどゲームにのめり込めなくなったのだ。

 私なんかにはレトロゲームでちょうどいい。

 ファミコンやスーパーファミコンで充分だ。

 マリオ、スト2。ドラクエ。ぷよぷよ。名作は多い。どこのメーカーかもわからないクソゲーも多いけどそれもいい。

 中古屋やリサイクルショップで安売りしてるのを探すのも楽しい。

 私なんかにはこのくらいの性能のゲームでちょうどいいのだ。


 友達からメールが来たので平日の深夜だというのに家へ遊びに行った。

 久しぶりにスーパーファミコンでもやろうという流れになった。

 コンビニでお菓子を買ってきて(これまた、よっちゃんイカなどの駄菓子系)

 本体にコントローラーを挿す。

 三色のコードをテレビの裏に挿す。

 ごちゃごちゃにしまわれたソフトの中からファミスタを出し、本体に入れ電源を入れる。

 画面は暗いままだ。

 ガゴっとソフトを取り出して裏の端子に息を吹きかけて再び本体に差し込む。

 一瞬緑の横線が画面中央に現れたが、再び真っ暗な画面に戻ってしまう。

 本体に入ったままのソフトをガチャガチャと揺する。取り出す、息を吹きかける。本体に差し込む。

 こういった一連の流れですら愛おしい。

 一瞬の間をおいて「NAMCO」のロゴが現れた。

「そういえばナムコの創業者死んだんだってな」

 友達が言う。

「九十一歳だって?」

「そこまでは知らないや」

 スタートボタンを押す。メニュー画面が現れる。一戦勝負を選ぶ。

「ゲームなんて子供のものだと思ってたけど、考えてみれば大人が本気になって開発してたんだもんな」

「そうだな。夢が詰まってるよ。昔のゲームには」

「おかげでこうやって未だにゲームやってんだからな。感謝しかねーな」

「間違いない」

 私はヤクルト。友人は巨人。試合が始まった。

「そういや、俺。結婚するよ」

 友達が照れたように言う。

「お、ついに籍入れんのか」

 飯田がフォークを空振りする。

「まーな。俺はどっちでもいいんだけど彼女がな」

「そっか、彼女いくつだっけ」

「二六」

「ま、女の子はそうだよなぁ。そのくらいで結婚し始めるもんな」

 稲葉が外角の球を打ち返す。ツーベース。

「婚姻届もらってきて書いたんだけどさ、しょっぱなで間違えちゃって書き直しだよ」

 友達が笑う。

「お前らしいなぁ」

 私もつられて笑う。

「あ、なんか二重線で消してハンコ押せば間違えてもいけるらしいよ」

 古田が内野フライでアウトになる。

「そうらしいね、知ってる。でもなんか彼女がそういうの無しでちゃんとしたの提出してえんだってさ」

「まあそりゃそうか。門出くらいミスなく行きたいか」

 オマリーが三振する。チェンジ。


 昔の野球ゲームは簡単だった。変化球なんか手動でコントロールだし、野手は全員一緒に動く。選手の姿に差異もない。外人の肌の色が違うくらいだ。バッティングフォームも全員同じ。ゲームだからそんなもんだ。ぽんぽん進むからすぐに試合は終盤に差し掛かる。

 くるくるバットを回す元木を三振に打ち取る。

「……ダメだ、こいつキヨの舎弟だから」

「そっか、このころは西武に清原いるんだな」

「イチローもオリックスいるぞ」

「まだ現役の選手もいれば監督になった奴もいるし、どこいったかわかんない奴もいれば逮捕された奴もいるんだな」

「そう考えるとすげえな。……お、国民栄誉賞だ」

 松井の出番。

「かたや国民栄誉賞で、もう片方は麻薬で逮捕だもんな」

「キヨ好きだったんだけどな」

 松井がスイングする。会心の当たりはスタンドに運ばれた。

「うわ、さすが国民栄誉賞」

「持ってるな。さすがゴジラ」

 画面が切り替わりホームランの演出シーン。ボタンを押すと選手がバク転したり親指を突き出したりアクションをする。

「あ、シンゴジラみた?」

 私が聞く。

「いや、見てねえ。なんか怪獣モノって全然興味ないんだよな」

 友達が言う。

「なんだよ、面白かったのに」

「あ、そうだ。婚姻届の証人欄、書いてくれね?」

 試合は九回。同点に追いつかなけりゃ私の負けだ。

「いいけど」

 池山が三振する。

「なんかなー。やってることは小学校と全く変わらないんだけどな」

 友達が首を鳴らす

「ゲームやってお菓子食ってるだけだからな」

「それが結婚だぜ」

「そんなもんだよな」

 私が答える。何がそんなもんなのか自分でもわからないが。

「俺さ、実家帰って昔の友達に会っても、みんなに「変わってねーな」って言われるんだよね」

 友達が酒をあおる。

 ミューレンが四球を選ぶ。

「そんなんじゃダメだって説教してくる奴とかもいるんだ」

「へー。いやだな」

「まあ別にいいんだけど、何言われたって俺は俺だし」

 ピッチャー交代、斎藤雅。

「お前はそれでいいと思うよ」

 私が言う。

「そんなもんだよな」

 飯田が三振する。ゲームセット。負けた。

「そんなもんだよ」

 何がそんなもんなのか、私はわかっていなかったが、友達に合わせてそう呟いた。

 友達なんてそんなもんだ。大人になるにつれて遊ぶということの意味が変わった。大人になると遊びは居酒屋に行くことになって金を使ってレジャーをすることになった。

 交友関係は自然と金銭感覚の合う奴ばかりになった。だから、こうやって家に遊びに行ってゲームをするなんて友達は自然と少なくなる。小学校の頃なんてみんなが家に押しかけて新しいゲームをしたものなのに。

 趣味が合わなくなって、疎遠になった友人も多い。結婚や転勤で疎遠になる友も多い。幼い頃の友達は自然と減っていく。でも、それは悲しいことじゃない。


 友達なんて、そんなもんなんだ。

 数年に一回あって昔に戻れればいいんだ。


 時々、無性にレトロゲームをやりたくなって、押入れから引っ張り出してきて、無心になってコントローラー握って、昔に戻るみたいなもんだ。

 新しいゲームもいい。新しくできる友人も素敵だ。

 でも、古い汚いゲームを取り出してやりたくなる時がある。

 それでいいんだ。


「もう一回やろうぜ」

 私は友達に言った。

「ああ」

 友達が頷いた。

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