179話 王族として

「では話は以上です。これより私も戦いに加わる準備をしますので一旦部屋に戻ります。」


 リリアナはそう告げると、そのまま扉へと歩き出す。エーテルはそんなリリアナを当然のごとく引き留める。


「ち、ちょっと待ってください!どうしてですか?確かにフェアリーリングは昔から代々受け継がれる妖精族の秘宝ではありますが、それも今や昔、この平和となったこの国にリングの力は必要ないと思います!」


 エーテルが訴えるように尋ねると、リリアナは足を止めて振り返り、理由を告げる。


「エーテル、そういう問題ではないのです……確かにフェアリーリングは時代が進むごとに不要になっているのかもしれません、ですがそれでも遥か昔から王家に代々受け継がれてきた我ら妖精族の秘宝なのです、それをそう易々と他種族の者に渡す事はできません。」

「……それは国が滅んでも……ですか?」

「そうです。」


 リリアナはキッパリと告げた。


「……しい。」

「はい?」

「そんなの絶対おかしい!」


 エーテルが声を荒げて言う

 

「王家の秘宝とか昔から受け継がれてきたからなに?そんな理由で渡すのを拒んで皆が死んでもいいっていうの?」

「エーテル、あなたもご存じでしょう?我ら妖精族は例え肉体は滅びても魂は女神の下で輪廻転生を繰り返し再びこの世に戻ってくると遥か昔から伝えられ――」

「だからって死んでも構わないっていうの?例え生まれ変われるとしたって、見た目も記憶も立場も違うんだよ?それはもう今の私じゃない!私は絶対嫌、ネロやエレナやピエトロと旅してきた私じゃなくなるなんて、そんなの絶対に嫌!」

「エーテル……」

「他の人だってきっとそうよ、口では平気なんて言ってるけど本当は絶対に死ぬのが怖いはずだもん……それを私は知っているから……」


 エーテルはネロ達と出会った日の事を思い出しながら言う。

 獣人族に追われ、国を守るため輪廻転生を信じ死ぬことを構わないと考えていたがネロに助けられたことで心の底から安堵した自分がいたことを、その時の気持ちをエーテルは今でもしっかり覚えていた。


「皆が助かるなら私はフェアリーリングも王族だってことも捨てても構わない、だから――」

「……フフフ」

「え?」

「フフフフフ」

「お母……様?」


 自分が必死の訴える中、突如笑出す母親にエーテルは訳が分からず戸惑いを見せる。


「エーテル、あなた変わりましたね……以前のあなたは言うならば王女としても人としても半人前でした。

王族の妖精であろうと習得するのが難しい古代魔法を覚え、国のためならば例え自らも犠牲もしていいと言う考えを持ち合わせていた半面、色々な事に興味を持ちあちこちを飛びまわりたいと言う王族らしからぬ考えを持っていました、ですが今の言葉であなたはより王族とはかけ離れた人になりました。」

「お母様……」

「ですが、私はその変化をとても嬉しく思います。エーテル、あなたは良い仲間に会えたようですね。」

「はい!私のとても大切な仲間です。」


 エーテルは母からの問いに対し満面の笑みで応える、そしてリリアナも娘の笑顔に釣られるように微笑みを返す。


「わかりました、では一度その方々と話をさせてください。」


――


 ネロがエーテルと別れ、妖精の国の結界で待機してから小一時間が経過しようとしていた。

 その間にネロとエレナは戦況などをフローラから聞いていると、妖精の城がある方面から二人の妖精が近づいてきた。


「ネロ―!エレナ―!」


 二人の名を呼びながらエーテルが先行して飛んでくる。


「二人ともお待たせー。」

「エーテルおかえり、もう話はもう済んだの?」

「うん、それでね、話を聞いたおかあ……じゃなかった。女王陛下が二人と話がしたいって。」


 そう言うと、エーテルの後からゆっくり飛んできたエーテルとフローラに顔立ちが似た頭にティアラを付けた大人の妖精が二人に頭を下げる。


「此度は我ら、妖精一族へのご助力の呼びかけに駆けつけていただき誠にありがとうございます。私はこの二人の母親にして妖精一族を統べる女王リリアナと申します。」

「えーと、ネロ・ティングスエルドラゴ・です。」

「エ、エレナ・カーミナルです。」


 リリアナの貫禄のある自己紹介に二人も思わず浮ついた声で自己紹介を返す。


「話はエーテルから聞きました、なんでも全状態異常無効化オールクリアのスキルを求めて妖精族に古くから伝わる秘宝フェアリーリングを求めているとか。」

「はい、まあ一応。」


 一族の秘宝と言われ素直にほしい、とは言いにくくネロは少し曖昧な返答をする。


「……実はその事であなた方と三人でお話ししたいのですがよろしいでしょうか?」

「お母様!」


 その話に真っ先にフローラが反応する。


「い、いくら客人と言えど、出会ったばかりの人相手に護衛もつけずに三人きりになるのは無防備すぎます。」

「御安心なさい、フローラ。この方々はエーテルの大切な仲間達です。それだけで十分に信用に値する方々です。」

「そうよ、フローラ。確かにネロは口が悪く一度怒らせるとエレナ以外は手に負えないほど暴れるけど、変なことさえしなければ優しいよ?」


 フォローなっているのかもわからないエーテルの言葉にフローラは益々不信感を募らせる。

 そんな眼差しでフローラに見られるネロは呆れるようにため息を吐く。


「……なら、ここで話せばいいんじゃね?」

「いえ、それはいけません、話すのは我々三人で。」

「つっても、そんなこと言ったってエーテル妹の方は納得しなさそうだぜ?」

「……フローラ。」

「うぅ……わかりました。」


 リリアナがフローラじっと見つめると、フローラも渋々納得を見せる。

 娘二人が納得したのを確認すると、リリアナはネロとエレナを連れてテレポーテーションを発動させた。


――


「これは……」


 獣人族迎撃のため、結界の外へと出て行ったレオパルド達四人はは目の前の光景に思わず立ち止まる。

 侵攻してくるのは獣人族の軍勢……などではなく、魔物の軍勢であった。

それもただの魔物ではない、スケルトンやグールと言った、アンデットと呼ばれる死霊系モンスターの軍勢だ。


「おかしいなぁ、僕達は確か獣人族と戦争しているんだよね?」

「しかも、これだけの数のアンデットは見た事はないわあ。」

「……いや、俺は見た事ある。」


 押し寄せてくるアンデットの軍勢を見てレオパルドが口を開く。


「本当?」

「ああ……何せ此奴らは三百年前、俺の国に侵攻してきた奴らそのものだからな。」

「という事は……まさか⁉」


 三百年前と言う言葉で気づいたトルクが声を上げると、テオとミトラも遅れて気づき、息を飲む。


「これで妖精族の結界が破られた理由がわかったな。獣人族の奴等は死の王ネクロ・ロードが関わっている」

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