178話 エーテルの帰還
「……行きましたか。」
リリアナは仲間たちが結界の外へと消えていくのを見送ると、表情を引き締めて城の方へと振り返る。
「さて、どうやらあの子達も無事についたようですね。」
結界の外で数か月ぶりとなる長女エーテルのマナを感じ取る。
娘と思われるマナは他に二つのマナを引き連れ順調にこっちへと向かってきている。
一つは決して大きいとは言えないが純粋でどこか懐かしい感じがするマナだ。
――この感じ……セナスと似ているわね、その血筋の子って事かしら?そしてもう一人は――
そしてもう一つ、二つの小さなマナのに挟まれるようにしてこちらに向かって来る計り知れないほどの膨大なマナの持ち主。
今まで出会ったどの者よりも大きく、そしてまたどこか
「では、私も
そう一人呟くと、リリアナは玉座の間へと転移した。
――
エーテルはネロとエレナを引き連れて順調に妖精の国へと向かっていた。
自分の故郷という事もあり、初めこそ空の色や植物の事など、妖精界の特徴を解説しながら意気揚々に案内をしていたが、妖精の国が近づくにつれて徐々に異変を感じ取っていく。
「……おかしいわね、もう国の近くまで来てるのになんだか前よりも他の妖精達のマナが少なくなっているような……」
「そりゃそうですよ、なんせ今は戦争中ですから。」
その疑問を答える声が返ってきたかと思うと、目の前に一人の妖精が姿を現す。
青い髪とエーテルと少し顔立ちの似た、凛々しい顔つきの少女だ。
「私達妖精族は数が少ないので今は国総出で獣人族の対応に追われているのです。」
「フローラ!」
突如現れた、妹にエーテルは思わず抱き着く。
「わあ!今度は本物だわ!フローラ久しぶりねえ!」
「お、お姉さま、う、嬉しいのはわかりましたから、いったん離れてください。」
再会を喜びはしゃぐ姉にフローラも一瞬頬を緩ませるが、すぐに険しい顔つきに戻すと、エーテルを強引に引きはがす。
そして一度咳をはさむと、改めてネロ達に自己紹介をする。
「皆さん改めまして、私は妖精第二王女にしてエーテルの妹、フローラと申します。此度は妖精界の危機に駆けつけてくれたこと、女王に代わって心から感謝申し上げます。」
「王女だな。」
「王女だね。」
「わ、私だって王女よ!」
礼儀正しいフローラの挨拶に二人は思わずそんな声を漏らすと、すぐさまエーテルがツッコミを入れる。
そんな三人のやり取りに、フローラは少し複雑な表情で見つめる。
「……では、お二方の案内はここから私がさせていただきます。お姉さまはすみませんが先に玉座へとお越し下さい。女王陛下が待ってます。」
「わかったわ。ならフローラ、二人の案内をお願いね。」
フローラの言葉を聞くとエーテルはそのまま一人、一足先にテレポで妖精の国へ移動する。
「では、私達も行きましょう。」
それを見届けた後、エーテルから引き継いで今度はフローラが二人を案内し始める。
――
「すみません、私にもテレポーテーションが使えればよかったのですが、生憎まだ習得していなくて。」
「別に気にしなくていいですよ、私達も見て回りたかったので。」
「妖精の国はここから遠いのか?」
「いえ、正確に言えばここはもう国の範囲に入っております、ただ今現在結界が張られているので外からは見えないのです、そしてこの結界を外から入るには特定の場所から入らないといけないのです。」
フローラは丁寧に対応しながら二人を結界の入り口へと案内する。
フローラの後について歩くネロだったが、ふと何もない場所に足を踏み入れた瞬間、景色が歪んだような妙な感覚に襲われる。
「今のは……」
「なかなか鋭い感性をお持ちですね。はい、たった今結界の中へと足を踏み入れました。」
フローラの説明すると、エレナは後ろを振り返る。
「見たところ何かが変わった様子はないけど……」
「ですが、外からいる人から見ればもうあなた方は見えなくなっているでしょう。」
その言葉を最後にフローラは進むのをやめ、その場で立ち止まる。
「それでは、お姉さまが戻るまでこの周辺でお待ちください。本当なら我らの城でおもてなしをしたいところなのですが、生憎他種族の方々では我々の住む建物には入らないので。」
「それは別に大丈夫……ただ、本当に歓迎してもらっていいのか?」
「……」
その問いに対し一瞬、少し不穏な空気が流れる。
「へ、どういう意味?」
ネロの質問の意味が分からなく首を傾げるエレナに対し、意味を理解したと思われるフローラは、少しの間、ネロの眼をじっと見つめた後、何も答えず無言で頭を下げた。
「今は陛下と、お姉さまをお待ちください……」
――
妖精界の外から城の玉座へとテレポで移動したエーテルだったが、風景が歪み見えた場所は玉座から少し離れた城の門だった。
「あら?今回は射程圏内ね。ダルタリアンでも割と近い位置だったしもしかして慣れてきたのかな?」
指定位置から少しずつ近くなっていることに成長を感じつつエーテルは城の中へと入っていく。
「エーテル様!」
「おお、エーテル様だ。」
エーテルの姿を見た城に残る妖精たちから声が上がると、エーテルもその声に応えながら玉座の間へと向かう。
――今の私凄く王女っぽいわね、ネロにも見せてあげたいわ。
などと考えながら進んでいくうちに、玉座の間へと到着すると、エーテルはそのまま勢いよく扉を開く。
「お母さま!ただいま戻りました!」
扉を開きながら挨拶をするエーテル、そして開いたその先には母であり、女王であるリリアナが玉座に座り待っていた。
「お帰りなさい、エーテル。」
久々となる母との再会にエーテルは、嬉しさのあまり思わず飛びつこうとするがふと、先程の王女と呼ばれたフローラの対応を思い出し、一度止まると少し大人びいた雰囲気でゆっくりと近づいていく。
「おかあ……じゃなかった、陛下、ただ今戻りました。」
「フフ……長旅ご苦労様でした。」
ぎこちないエーテルの挨拶にリリアナも笑みをこぼしながら玉座から立ち上がり、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「事情はフローラから聞いています、こちらの認識違いであなたには手間をかけさせてしまいました。」
「いえ、おかあ……陛下、確かにエドワード・エルロンは連れてこられませんでしたがその代わりとしてとっても強い方々に協力を受ける事が出来ました、恐らく彼ならきっと
「それは頼もしい限りですね。」
「ただ、その代わりに、なんですけど一つお願いがあるのですが……」
「お願い……ですか?」
「はい、実は――」
エーテルは助っ人であるネロの事情と助けを求めた際に交わした約束のことを話す。
「……という訳で、彼はオールクリアのスキルを手に入れる必要があるみたいなのです。」
「……」
「そこでなのですが。もしこの妖精界を救って貰ったあかつきには妖精族の秘宝、フェアリーリングを差し上げて欲しいのです。」
「フェアリーリングを?」
「はい!フェアリーリングにはオールクリアのスキルが付いているという話を聞いたことがあります、でもそれは私達が人間界にいた時に活用していたもので魔物のいないこの世界ではもう必要がないはず、なので是非フェアリーリングをネロに――」
エーテルの話を無言で聞いていたリリアナだったが気が付けば顔からは笑みは消えていた。全てを理解したように「そういうことですか」とポツリと呟くと、一度眼を閉じた後、改めてエーテルの顔を見つめる。
「エーテル」
「はい。」
「折角連れてきて貰って申し訳ありませんが、その方々との話は受けられません」
「……へ?」
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