第153話 ダルタリアン制圧戦

――ダルタリアン


「うおおおおおおお!どけぇぇぇ!」


 雄たけびを上げながらポールを筆頭にナイツオブアークの面々が行く手を阻むモンスターたちを見事な連携で次々と薙ぎ払っていく。


「流石Sランクパーティー、強いですね。」


 その活躍を見てピエトロが称賛するがポール達は浮かない表情を見せる。


「俺達もそう思ってた……俺たちの連携は世界一だと……でも同じランクのオーマ卿の奴らには全く歯が立たなかった、俺達は本当に自分たちが強いのかわからなくなってきた。」

「きっと黒の騎士もこんな気持ちだったんだろうさっ……自分よりも弱い相手を倒して称賛されたところで失った自信は取り戻せない。」

「自分で言うのもなんだが戦士というのは厄介な物だ、相手に勝つ事よりも、自分が負けた相手に認められる方がまだ自信になるんだから。」


 主力の三人を筆頭に、オーマ卿に手も足も出なかったことを思い返したナイツオブアークの面々が沈鬱な表情を見せる。


「済まないな、せっかく褒めてくれたのにこんな言い方して。」

「いえ、仕方ないです。僕が戦いに長けていないのは事実ですし、ただ、あなた方が強いのは確かだと思いますよ。」

「……ありがとう。」


 ピエトロの励ましに少し笑みを見せるポール。

 そのまま先立って前を進んでいると、前に赤い髪の女性の後ろ姿が目に映る。


「リグレット!」

「あんたら、そこにいたら危ないよ」

「え?」


 リグレットは振り向かずに忠告する。

 どういう意味かを理解する間もなく、リグレットは地面と同化すると、街の地面一体を剣山に変えモンスターのみを綺麗に串刺しにしていく。


「……ハハ、やっぱ俺達はまだまだな。」


 一瞬で辺り一帯のモンスターを殲滅したリグレットにポールは顔を引きつらせて笑った。

 周りにモンスターがいないことを確認するとリグレットは一度一息つく。


「ふう、大方倒せたかしら。」

「リグ、こっちも完了したよ。」


 ちょうどそれと同時に上空からロールも降りてくる。


「そう、お疲れ様。貴族には手を出していないわね?」

「大丈夫、殺してはいないわ。」

「……」


 その一言にリグレットは呆れた表情で、ため息をつく。

 二人がひと段落ついたのを見計らって、ピエトロが改めて声をかける。


「二人とも、お疲れ様。」

「あ、ピエトロ様……とポチ?」

「ポール・ルッチだ、もしくは赤の騎士。」


 ポールはいつもの様に呼ばれたあだ名を訂正する。


「ていうかナイツオブアークの面々がどうしたの?」

「まあ訳はあとで話すよ。」

「それより、リンス達は?」

「ああ、二人なら――」


 丁度その時、遠くの空から光の剣が落下するのが見えた。


「先に向かったのね……」

「ていうか、あれがリンスの本気?」


 遠くで見える繰り返される光の剣の落下。

 あれほどの威力の攻撃が休む間もなく何度も繰り返されるのを見て一同がも唯々唖然としている。


「えっと……これ、私達が行っても足手纏いになるんじゃないかなぁ。」

「どうだろうね……でもリンスはバルオルグスの討伐にはリグの力が必要と言っていたし、私はともかくリグは行くべきだよ。」

「そっか……そうよね。よし!」


 少し弱気を見せたリグレットが自分で頬を両手で叩いて気合を入れる。


「じゃあ、私はバルオルグスへ向かうわ。」

「ならあたしはこのままピエトロ様について行くね。」

「わかった。」


 二人が話し終えると、リグレットは風の中に消え、ロールはピエトロ達とそのままゲルマの邸へと向かった。


――ゲルマ邸


 ゲルマの邸に着くと、ロールとナイツオブアーク達は混乱している邸内を難なく制圧し、そのまま捕まっている者達の解放に向かう。

そしてピエトロは、一人エレナ達がいるメリルの部屋へと向かった。


「皆んな、無事かい?」


 ピエトロがメリルの部屋の扉を勢いよく開ける。

 すると中には怪物へと変貌しようとしているメリルに治療魔法をかけるエレナと、周囲のマナを調節しているところであった。


「あ、ピエトロ!」


 エレナ達がピエトロに気づくと一度魔法を止める。


「二人とも、状況は?」

「それがメリルが大変なの!今マナの影響で怪物化し始めていて、私がどうにかしようとしてそれでそれで――」

「エーテル、一度少し落ち着いて。」


 ピエトロが取り乱して説明するエーテルを一度宥める。

 エーテルが一度深呼吸し、落ち着きを取り戻したのを見計らうと、改めて状況を確認する。


「今メリルが、こうなってるのはマナの影響なんだね?」

「う、うん。今は私がなんとかマナの調整をして進行を遅らせようと頑張ってるんだけどあんまり上手くいってなくて。」

「ふむ、なら一度君のテレポーテーションでこの辺りから離れよう。このマナはバルオルグスの復活が影響しているから遠くに移動すれば少しは進行が遅らせられる可能性がある。」

「なるほど、さすがピエトロね!で、何処に移動するの?」

「あ。それなら、私の家でどうかな?場所も離れてるし休める場所もあるわ。」

「そうだね、エレナが良いならそこにしよう、それとできればあと何人か連れて行きたい人達もいるんだけど。」

「もちろん大丈夫。でもエーテルは大人数って大丈夫なの?」

「大丈夫よ、皮肉な事なんだけど今は私の魔法もマナの影響で強化されているの。だから今なら何人でも連れて行けるわ。」


 エーテルが胸を叩いて得意げに答える。


「よし、ならエレナの家に向かおう。僕は他の人達を呼びに行ってくるから二人はこのままメリルに付いていてあげて、あと人数が多いからエーテルにはかなり頑張ってもらう事になるんだけど。」

「任せてよ!今なら十人でも二十人でも運んであげるから!」


 ピエトロが他のメンバーを呼びに行ってる間、エレナはもがき苦しむメリルの手を握り続けていた。


「……待っててメリルさん、絶対救って見せるから」


 エレナがメリルの顔を見つめながら静かに呟く。

 メリルの顔色は、徐々に蒼白していき、髪はメドゥーサの特徴である白い蛇に変わりつつあった。


 ……そして、そんなメリルを看病していたエレナの体にも少しずつ異変が起こりつつあることを、この時はまだ本人も気づいてはいなかった。


 その後、ピエトロが捕まった者達合わせて百人近く連れて来ると、エーテルは少し慌てるも、自分の意識と引き換えになんとか全員を無事にガガ島へと送り届けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る