第151話 討伐開始

「なんだ、これは……。」


帝国の兵士達はその光景に言葉を失う。

飛龍に乗り、上空から見下ろした広大な海には、一本の大きな線が描かれていた。

バルオルグスの砲撃によって削られ出来たその線は、周りの水が埋めていき瞬く間に元に戻ったが、しばらくの間その光景にアドラーの兵士達は釘付けになっていた。


そして、アドラーの兵士同様、飛竜の上からその光景を見ていたテリアは不満気な顔を見せる。


「クソ、バルオルグスめ。挨拶がわりにこんな攻撃を見せてくれるのは嬉しいが、これほどの威力の攻撃をなんで誰もいないとこに撃つんだよ!どうせ撃つなら大陸に向かって撃てよ。」


飛龍の上でブツブツと文句を言うも、テリアはすぐに切り替える。


「……まあいいや。古代文によればバルオルグスはここからこの攻撃を撃つまで時間を要するみたいだからな、今のうちに洗脳して、次は俺の意思で撃ってやろう。」


 今後の事を考えてテリアは邪悪な笑みを浮かべると、飛龍からバルオルグスの体に飛び移り、先程作っておいた鎖を取り出すと、自分の腕に巻き、その腕でバルオルグスへと触れる。

すると、その鎖を巻いた腕がそのまま同化する様にバルオルグスの体へと沈んでいく。


「さあ、邪龍王バルオルグスよ。俺と一緒に世界を壊そうじゃないか!」


――


――ダルタリアン


「あれが……」

「バルオルグス……」


リグレットとロールは実体化したバルオルグスの、姿を見て青ざめる。

 二人の目に映ったのは山に並ぶ巨大なモンスターから放たれた城をも破壊しかねないほどの威力の砲撃、その絶望を感じさせる圧倒的な力を目の当たりにした二人は恐怖というものを感じざる負えないでいた。


「あんなの、倒せるの?」

「……わからない。」


リグレットが言葉を振り絞って言う。

 先ほどまでは何とかなると言うリンスの言葉を信じて前向きに考えられていたが、いざその力を目の当たりにするとその考えも一瞬でかき消された。


「……私達だけではどうにもならないのは確かよ。とりあえずリンスちゃんたちが戻るまで私達にできることをやろう。」


そう言ってリグレットは辺りに目を移す。

ダルタリアンの街には今、モンスターで溢れかえっていて街に来ていた貴族達が襲われダルタリアンの兵士たちが応戦していた。


「私達も早く助けないと……」


そう言ってリグレットは体を地面と同化させようとするが、それをロールが腕を掴んで止める。


「待って!」

「……どうしたの、ロール?」

「……ねぇ、ここの連中を助ける必要ってある?」

「え?」

「ここにいる奴らは皆んなこの町で残虐非道な事をしてきた連中よ?助ける必要なんてないじゃない。」

 

 ロールがいつもとは違う真剣な顔つきで言う。

 確かに今街を襲っているモンスターの中にはマナの活性によりモンスターと成り果てた人間が大多数いる。

 そしてそれは全てこのダルタリアンで非道な仕打ちを受けていた者達だ、襲われているのはいわば自業自得ともいえるだろう。そのロールの言葉にまたリグレットも心が少し揺れ動く。


「……確かにロールの言い分もわかるわ。」

「なら――」

「でも、私達はこの街にいる人達のことを全てを知っている訳じゃない、襲われている人の中には何の罪のない人もいるかもしれない。もしそうなったら私達は守るべき人達を見殺しにしたことになるわ。だから私は助けるべきだと思う、この街で行われていたことに関してはあとでどうにかすればいいと思うから。」

「……わかったわよ。」


 ロールは不服に思いながらもリグレットの言葉に渋々納得すると、二人はモンスターを退治するため街中を駆けていった。


――


「うわ!何だこれは⁉」


 リンスのテレポでベルトナからダルタリアンへと転移すると、ネロは転移先の光景に思わず驚きの声をあげる。

 転移したのはダルタリアンの街中で、そこには異様な光景が広がっていた。

あちこちから聞こえる悲鳴と街に溢れるモンスター達、そして街の外に見える巨大なモンスターの姿に他の二人も絶句する。


「まるで物語に出てくる魔界だね……。」


 ピエトロが冗談っぽく言うが笑えないほどしっくりくる例えである。


「そして、あの遠くに見えるでかいヤツが……」

「ええ……あれがバルオルグスよ。」


 ネロが思わず息を呑み、バルオルグスをマジマジと眺める。

 山脈に並ぶ巨体と、それに見合うほどに感じる威圧感。

バルオルグスは今まで出会ったどんな敵よりも遥かに上回るとネロは直感した。


「……誰かいるのか?」


 ネロ達がバルオルグスに気を取られていると、近くから男の声が聞こえそちらに目を向ける。


「あ、お前は……」

「ナイツオブアークだね。」

「……ネロ達か。」


 現れたのはボロボロになったポールとメンバー達。

 パーティー名をを呼ばれると、現在動くことができるメンバーたちが三人の元へと足を引きずりながら歩み寄る。


「やっぱり無事だったんだな。」

「やっぱり?」

「いや、なんでもない。」

「それよりその怪我……」

「ああ、情けねえ話だがオーマ卿にやられちまった。」


 傷だらけのポールが苦笑しながら言う。

 とりあえずネロは手持ちの回復アイテムをポールたちに譲った。


「ありがてえ。」


ポールが早速怪我の酷いメンバーを優先に使っていく。

みんなが治療されていく中、ネロは初めて見るナイツアブアークの面々の顔を見て行く。


――やっぱり、ベルセインはいないか。


帰郷したとは聞いていたので驚きはしないが、改めて話がしたかったので少し残念がる。


――残りのメンバーはやはり知らないものばかり……


と思っていると、一人見覚えのある男を見かけた。


「あれ?あんた、たしか帝都にいた。」

「やあ、久しぶりさっ覚えていてくれて光栄さっ」


 金色の騎士がボロボロの体で格好をつけてウインクを投げる。


――そんな派手な格好と変な語尾の奴は中々いないからな。


「あんたもこいつのメンバーだったのか。」

「ナイツオブアークの剣と呼ばれる金の騎士さっ、そして隣にいるのが盾と呼ばれる銀の騎士さっ」


 金の騎士が自分の自己紹介ついでに、銀の騎士も紹介すると、銀の騎士は無言でネロに頭を下げる。


「それよりもあいつはなんなんだ?」

「バルオルグスだよ。」

「バ……」


 ポールは伝説に出てくるモンスターの名前を簡単に告げられると言葉を詰まらせる。しかしそれが嘘か本当かは相手を見ればわかる。


「というより、あんたらはなんでこんなところにいるんだ?」

「えっと、それは……」


その問いにポールが戸惑いを見せる。


「……ちょっと野暮用があってね。」

「野暮用?」

「あ、ああ……」

「ふーん。」


ネロからの問いにポールが目を泳がせながら答える。


「ま、いいか。」


その言葉にポールが胸を撫で下ろす。


「それよりこれからどうするんだ?」

「そうね、リグ達と合流したいけどバルオルグスが復活している以上探してる時間が惜しいわね。」

「なら二人は先にバルオルグスへ向かって、リグレットに関しては、僕がエレナのところにいくついでに探しておくよ、あとナイツオブアークのメンバーで動ける人は護衛について欲しいんだけど。」

「え?」


 ピエトロの申し出に、ポールは少し躊躇するも承諾した。


「そっか、じゃあエレナの方はお前に任せる。」

「リグの方も」

「うん、任された。」


 次の方針が決まるとネロとリンスはテレポを使い、一足先にその場から離れる。

 そして今いる場所にはピエトロとポールたちが残る。


「……いいのか?君は知ってるんだろ?俺たちの目的を?」

「今人手が足りないのは事実ですから。あなたのことに関しては後ほど考えます。とりあえず今は僕たちを手伝ってください。」

「……わかった。」


ピエトロの言葉に頷くと、ポールはピエトロと動けるメンバーと共にエレナ達のいる屋敷へと再び向かった。


――


 テレポで再び封印場所まで移動すると、バルオルグスの巨体は目と鼻の先の距離にあった。


「流石に近くで見るとデカいな。」

「うん……」


 二人が触れられる距離で改めてバルオルグスを観察する。

 バルオルグスは山脈と一体化しているように動く気配を見せない。


「よし、先手必勝!」


 バルオルグスが動かないのを見計らうと、ネロが先に動きだす。

 地面を強く蹴り、バルオルグスの足にめがけて突っ込むと、その勢いのまま気を溜めた拳で足を殴りつける。


 力一杯振り抜いた拳がバルオルグスの足に直撃すると、その衝撃が辺りにも伝わり周りの木々が大きく揺れた。


「凄い、何て力なの⁉」


 そばにいたリンスもその衝撃に吹き飛ばされそうになるも、杖を地面に突き刺し、なんとか持ちこたえる。

ネロはその一撃に手ごたえを感じる。

 ……しかし当のバルオルグスは全く効いてないのか、傷つくどころか一切の動きさえ見せない。


「……マジかよ」


 その反応にネロも思わず驚きの声を漏らす、自分の本気の攻撃にビクともしない相手は流石に初めてであった。


――なるほど、一筋縄ではいかないか……


いつものような力任せの攻撃が通用しないことを知ると、ネロは不敵に笑った。


「普通に攻撃してもダメみたいだね。」

「ああ、まずは弱点を探さないとな。」

「うん、そういえば確か昔戦った時は全員で二つの頭を攻撃してた。」

「よし、なら狙うは頭だ。」


 ネロの言葉にリンスはコクリと頷くとネロは跳躍で、リンスは風魔法を使いバルオルグスの背中に飛び乗ると、頭の方へと向かった。



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