第150話 復活
「ハハハハ、凄いぞ!まだまだ出てくる。」
白龍の卵から溢れ出る魔力は止まることを知らず、延々と上空へ上がっていく。
「しかし、多すぎるのも問題だな、時間がかかりそうだ。」
テリアがまるで困った様子を見せることなく言う。
「なら、その間にあなたを仕留める。」
普段表情を見せないリンスが怒りに満ちた表情で呪文を唱える、その怒りを形にしたように頭上には巨大な火の玉が出現するが、すぐにピエトロが制止に入る。
「ここで魔法はダメだ!こんなマナが活性化してる場で魔法を使ったら、天井が崩壊するかもしれない。」
「ハハハハ、流石愚弟、わかってるじゃないか。」
その言葉にリンスが唇を噛みしめ、悔しそうにしながらも魔法を止める。
だが、今度は隣に立つリグレットがすかさず動く。
「なら魔法じゃなければいいのね。」
「ぬ?」
地面に片足を突っ込んだリグレットがテリアの両側に土の壁を作り出すと、そのままテリアを挟み込んだ。
「やった!」
喜ぶロールとは対照的に、攻撃したリグレットは険しい表情を見せる。
――手ごたえがない……
リグレットがゆっくり壁を開くとそこにテリアの姿はなかった。
「いない⁉どこに」
皆が辺りを見回す。すると、先ほどテリアが立っていた場の近くに突如空間が切り裂かれると、そこからテリアと骸骨の仮面を被った男が一人現れる。
「嘘⁉」
「ハハハハ、残念だったな。」
驚愕するリグレットを見て、テリアが楽しそうにゲラゲラと笑う。
「少々遅れて申し訳ない、我が主よ。」
「その格好、オーマ卿か……」
現れた男の格好を見てピエトロが言う。
「なあに、かまわんさ。それよりヘルメスよ、向こうの様子はどうだ?」
「ええ、主が予想していた通り、町は活性化したマナの影響を受けて邪念、怨念が増幅し、それに釣られてモンスター達が次々と出現しています。」
「ハハハハ!それはなんという光景だ!ぜひ見に行きたいものだ!だがまあ、それはオイオイだな。」
「ええ、とりあえずまずはここから離脱しましょう。」
そう言うとヘルメスは魔力で小さなナイフを作り出し、それを何もないとこに切るように振ると、空間が切り開かれ、二人は中へと入って行った。
「今のはまさか、空間を切り開いたの?」
「さっき、テリアを助けたのもあの魔法ね。暗黒魔法の一種かしら?」
「とりあえず……ここは、危ないわ、私たちも移動しましょう。」
リンスの言葉に頷くと四人はテレポで洞窟の外へと移動した。
――
「なに、これ……」
洞窟から脱出すると、全員が一斉に上空を見上げた。
上空には先ほど卵から出ていた魔力が溜まっており、辺り周辺の空の色が紫色に変色している。
そしてその魔力は徐々に巨大なモンスターのような形になりつつあった。
「……あの時と同じだわ」
「え?」
リンスの呟きに全員が反応を見せる。
「かつてバルオルグスが現れた時と同様、周辺のマナが活性化している。」
「リンス、なんだかまるで見てきたような言い草ね。」
冗談交じりで言ったロールの言葉にリンスは真面目な顔つきで頷く。
「え、本当に?でもリンスは人間よね?バルオルグスは数百年前の話でそんな昔から生きられないと思うけど……」
「そもそも長寿のエルフだとしても数百年も子供の姿はおかしいわ……ねぇリンスちゃん、あなたは一体何者なの?」
皆がリンスに注目するとリンスは暫し無言になる。
リンスは言おうかどうか、少しの間迷いを見せた後、覚悟を決めるように一度唾を飲み込むと、ポツポツと語り始める。
「……私は時限魔法の実験の影響によって十歳で時が止まっているの、私が生まれたのは今からおよそ八百年前……まだこの国が魔法大国テスだったころよ。」
「ご、八百年⁉」
「それに時が、止まっているって……」
初めて聞く話に一同は目を丸くする。
「私は全てをこの目で見てきた、バルオルグスが現れたところ、国を滅ぼしたところ……そして、封印されたところを、だからこそ私は知っているの、バルオルグスの脅威を……」
リンスが上空を見上げながらバルオルグスの方へと足を一歩一歩前に出す。
「私は一緒に戦った仲間たちの代わりに封印が解けないようにずっと見守ってきた、でもそれもとうとう失敗に終わった……でも見守ると同時に倒す方法も考えてきた。」
そしてリンスは振り返ると、全員に向かって深く頭を下げた。
「皆……今まで黙っててごめんなさい、そしてバルオルグスの討伐のために力を貸してほしいの。」
ひたすら頭を下げ続けるリンスに対し、三人は顔を見合わせ頷くと、リグレットが胸を叩いておどけてみせた。
「もちろんだよ、だってリンスちゃんは仲間だもん。」
「それにもうこれはリンスだけの問題じゃないわ。」
「ああ、なによりもこれは僕の身内が招いたことだからね。寧ろ僕が力を貸してほしいくらいだ。」
「みんな……ありがとう。」
リンスが顔を上げて、小さく笑みを浮かべた。
「そうなれば、ちゃっちゃと倒しちゃいましょ」
「そうだね、まずは情報からだ、知っていることを全て教えてほしい。」
「うん、以前バルオルグスを封印した時は竜殺しの剣の存在が大きかったわ、でももう龍殺しの剣はない。」
「竜殺しの剣はどうやって手にいれたの?」
「当時はドラゴンバスターというドラゴン対策に作られていた剣があり、それに神鳥レアードの落とした羽を素材として加えて作ってもらったの。でも今じゃドラゴン自体が珍しいからドラゴンバスターなんてどこにも置いてないわ。」
「探せば見つかるかもしれないけど、今はそんな余裕はないか……」
かつての方法は使えないと考えると、ピエトロはすぐに切り捨て次の案を脳内で瞬時に考え、使えるかどうかシュミレートしていく。
「私たちの力で倒せるの?」
「正直言うと私達だけじゃ難しい、けど、みんなの力を合わせれば勝てるかもしれない。そしてその為のカギとなるのが私とマルシェド兄さんと同じスキルを持つリグ、そして規格外のレベルを持つネロよ。」
「ネロ君か……確かに、あの子のレベルは異常だもんね。なら早速拾いに行こう。」
「でも、ダルダリアンの方も今大変みたいなんだよね?あっちは行かなくていい?」
「じゃあ、ここは一度二手に別れよう、リグレットとロールはダルタリアンの街へ行き、僕とリンスはネロを拾いにベルトナに向かおう。」
「オッケー、じゃあ早速行動開始ね。」
目的が決まると四人は移動を開始した。
――
「バルオルグスの封印場所はどこだ!」
「さあな、知っていればこんなところにはおらんよ。」
ネロの問いに呆れ気味に答えるレゴールにネロは苛立ちを募らせる。
――クソッこれじゃあ動こうにも動けねえじゃねえか。ピエトロともさっきの連絡以降通じねえし、一体どうすれば――
「あ、いた。」
「ネロ!」
どうすればいいかわからず動けずにいると、リングの外から突如名を呼ぶ声が聞こえ振り向く。
すると別行動をしていたピエトロとリンスが駆けつけてきた。
「お前ら、どうしてここに?他の二人は?」
「ごめん、作戦は失敗に終わり、バルオルグスが復活してしまった。」
その一言に後ろで話を聞いていたレゴールがフッと小さく笑った。
「それで、バルオルグスの討伐をネロに手伝ってほしいの。」
「それはいいがエレナの方はどうなってる?」
「ダルタリアンには他の二人を置いてきた。私達も君を拾い次第すぐに向かうわ。」
「わ、わかった。」
以前と話し方に違和感を感じながらも話を了承すると、リンスがテレポの呪文を唱え始める。
「待て、ピエトロ。」
呪文を待つ合間に呼び止められた声にピエトロはゆっくりと振り向く。
「父さん……」
「バルオルグスが復活したと言う話だが、貴様の予測ではかの者にバルオルグスは倒せるのか?」
レゴールの問いかけにピエトロは言葉を詰まらせる。バルオルグスの力はまだ復活を遂げていなかった先ほどでさえ周りに影響を及ぼすほどの力だ。
たとえネロのレベルが高いとはいえ確実に勝てる計算なんて出来てはいない。
「正直言ってわからない、バルオルグスは想像を超える力を持っていた。これでまだ完全復活すれば、どれほどの力になるかなんて予測もつかない。」
「ほう……」
ピエトロの話にレゴールが興味深そうに耳を傾ける。
「だからもう予測なんてしない、僕はネロ達を全力でサポートして勝つことを信じるだけさ。」
「⁉」
そう言い残して消えていくピエトロの姿をレゴールは静かに見送った。
「信じる……か」
レゴールがポツリと呟いた。
「お前は、一族のこのしがらみから抜け出しつつあるというのか……面白い。」
――
「おお……」
テリアが目の前の光景に感嘆の声をあげる。
テリアは今、飛龍に乗って近くからバルオルグスの復活を見届けていた。
先ほどまでモンスターのような形をしていた魔力は少しずつ形から姿へと変わっていく。
巨大な手足から順に二つの巨大な尾、角、そしてバルオルグスの特徴ともいえる二つの首が実体化し、その姿を表す。
「これが……これが、バルオルグス!」
全ての体が実体化すると、同時にその巨大な二つ首の龍は大陸に響くほどの咆哮をあげて口からレーザーのような砲撃を海へと放った。
飛び出した砲撃はそのまま海を一直線突き進み、海面に大きな傷跡を残した。。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます