第113話 ネロ対ミーファス

それぞれの対戦相手が決まると、一試合目を戦う二人以外は一度控え室へと戻っていく。

そして一試合目を戦うネロとミーファスはリングの中央に集まり向かい合わせに立つ。


「……なんだよ?」


 ネロの前に立った、ミーファスがクールな表情でマジマジとネロを見つめてくる。

まるで観察でもされているかのように感じたネロが少し不愉快そうに眉をしかめながら尋ねる。


「いや、まさか本戦の相手がこんな子供とは思ってなくてな。だがここまで勝ち上がって来たのだ、並大抵の強さではないのだろう。」

「当たり前だ、俺はお前より百倍強い。」


 ネロの発言に、ミーファスが一瞬キョトンとした表情をする。そしてその言葉に対し小さく笑った。


「フフ……そうか、初戦でモールズと戦えなかったのは残念だが、その代わりなかなか面白い相手と戦える事になった。ならば、予選決勝で溜まったこの不満を君にぶつけさせてもらおう。」


ミーファスが槍を取り出し構える。ネロも構えると、それに合わせるように試合開始の合図の銅鑼が鳴る。


「せいせいせいせい!」


 今までの戦いと同様、開始と同時にミーファスが相手にめがけて槍を乱れ突く。

 ネロはそれを淡々と避ける。


「ほう、私の槍をいとも簡単に避けるか、流石勝ち上がってきただけの事はある。ならばどんどん行くぞ!」


 ミーファスがニヤリと笑うと、今度は槍を自在に操り、多種多様な技を繰り出し攻撃する。それもネロは避けていくが、徐々にミーファスの動きが速くなっていく事に気づく。


――一定時間が経つたびに動きが速くなっていく……『アクセレーター』か。


 ネロが前世の仲間が身に付けていたスキルにふと前世の事を思い出しフッと笑う。

 一方試合を見ている観客たちはミーファスの攻撃が目で追えておらず、そんな攻撃を笑いながら避けているネロに対し言葉を失っていた。


――なるほど、元々の驚異的な槍さばきに加え『アクセラレータ』持ちか。確かに今までのどの相手よりも速い奴だ……でもこの程度なら……


 相手の実力を見切ったネロはタイミングを見計らって槍を掴みミーファスの攻撃を止める。そしてそのまま槍をへし折った。


「な⁉︎」


 槍を折られたミーファスが目を細めながら思わず固まる。

 そして、先の折れた槍を持ちながらしばし茫然とする。


「まさか、あのヴァルキリアの槍を……」

「何ちゅう子供だ……」


 今までミーファスの槍の前に幾多の強者が敗れていたのを見てきたCブロックからの観客達も驚きの声が上がる。


「……」

「……えーと、まだ、続けますか?」


 折れた槍を呆然と眺めるミーファスにリグレットが声をかける。すると……


「フ、フフフ……フハハハハ!」


 今までクールな態度を装っていたミーファスが突如、高らかに笑いだした。


「まさか、槍を折られるとは思ってもみなかったぞ!」


 そう言って笑い続ける今まで見た事のないミーファスの様子に、周りもただ戸惑いを見せている。

 そしてミーファスが笑い終えるといつもの真面目な表情に変わり、ネロの方を真っすぐ見た。


「先ほどまでの自分の非礼を深く詫びよう、どうやら君は私が考えていたよりもずっと強かったようだ。」


――だからてめえより百倍強いって言ってるだろ。


 ミーファスの言葉にネロはまだ不満げな顔を見せる。


「ならば、ここからは私も本気で戦わせてもらおう。」


 ミーファスが両手を前に出すと、その場の空間に歪みが生じ、光が手の周りに集結する。

そしてそれは徐々に形を成していき、一つの神々しい槍へと変わった。


「聖槍リカルド。テッサロッサ家に代々伝わる槍で、槍術を極めたものにしか使えない武器だ。あまりの脅威のため、今までモンスターの討伐でしか使ったことがなく、これを人間に使うのはこれが初めてだ。」


 槍の説明をするとミーファスが再び構える。


「さあ、我が本気の一撃、とくと受けるがいい!せいやぁ!」


 ミーファスが槍を鋭く突き出す、ネロは先ほどと同様に避ける。しかし……


「ッ⁉」


 ネロが思わず脇腹を抱える。

 避けたにも関わらず、ネロは脇腹に痛みを感じていた。


「フフッ、驚いたか?この槍には『絶対命中』と言うスキルが付いている。君がどれだけ避けようが決して外れることはない、さあどうする?」


 ミーファスがネロに向かって槍を乱れづく、ネロはつい反応し避けるが、その攻撃は着実にネロに当たっていた。


――なるほど、確かにこれは厄介だな。避けることができないとは……ま、俺としちゃ避けるほどでもないんだがな。


「さあ、一体どれだけ持つかな?」


 ネロの心境を知らず、勝利を確信したミーファスは手を休めることなく槍を突き続ける。

 時間が経つにつれ、アクセラレーターの効果も加担し、ミーファスの攻撃は音速の領域まで達していた。

 しかし、そこでようやくミーファスはこの状況の異変に気づく。


「……なあ、一つ聞いていいか?」


 ミーファスが突きながら尋ねる。


「なんだ?」

「私の攻撃は、当たっているんだよな?」

「ああ、当たってるな。」

「なら、何故倒れん?普通の人間なら一撃受ければ致命傷だぞ?それなのにかれこれ数百は突いているのに倒れないのはどういうことだ?それが君の特殊スキルなのか?」

「いや、単純にレベルに差がありすぎるからだろ?」

「レベルだと?」

「ああ、どれだけ攻撃が当たろうが、実力差がありすぎれば大したダメージにもならんだろ?」

「……私のレベルは三五〇だぞ?」

「そうか、俺のレベルは……約四〇〇〇だ。」

「な⁉」


 その言葉にミーファスは驚き目を細めるが、それも一瞬。ミーファスはまるで悟ったように笑みを浮かべ小さく呟いた。


「そうか……世界は、広いな……」


 その言葉と同時にミーファスが渾身の一撃繰り出すが、ネロは怯む様子もなくミーファスの背後に周り、首筋に手刀を入れると、ミーファスはそのまま地面へと崩れ落ちた。

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