第85話 スカイレス
ネロとピエトロが武器屋に着くと、二人は早速中に揃えられた剣を興味津々にみてまわる。
ピエトロは気になった剣を手に取って、軽く振ってみてはまた戻すと言う動作を繰り返し武器を吟味する。
「こうも種類が多いとやっぱり迷うね、やっぱり値段の高い武器がいいのかい?」
「まあ、値段が高いのはそれだけいい素材を使ってるって事だからな、でもピエトロは武器を装備する事事態が初めてだからまずは適正武器から見つけるところからだな、値段や威力の高い武器を買ったところで使いこなさなきゃ意味がない。自分の命がかかってくる事だし時間をかけて探せばいい。」
「なるほど、どの武器が僕に適正だと思う?」
「それは、実際使ってみないとわからねぇな、素早さ重視の軽い武器や、威力重視の重量武器、それらをどう上手く使いこなすかは人それぞれだ、そもそもお前のステータスはどんなもんだ?」
「まあ、ずっと頭だけを鍛えてきたからね、自慢じゃないけど、褒められるような身体能力ではないかな。」
「そうか、ならまず初めはこれを基準すへばいい。」
そう言うとネロは店に置かれた剣の中から一つ取り出す。
「両手剣?」
「ああ、適度な重さで使うのも難しくない初心者向けの剣だな、俺も昔はこれを使っていた。」
「へぇ……」
ピエトロが関心の声をあげながらネロから渡された剣をまじまじと見つめる、
「まあ、買うなら初めは安いやつにしておけ、どんなにいい武器を使おうが使いこなせなければ、宝の持ち腐れだ。まずは適正を調べてから選んでいけばいい。」
「なるほどね、参考になったよ。」
お礼の言葉を述べると、ピエトロは勧められた両手剣を手に取ったまま、他の剣も見て回った。
――
二人は、その後、武器屋で気になった何種類かの武器を購入すると、街の広場で早速試しに使ってみる。
ピエトロが買ったのはネロに勧められた両手剣のほか、片手剣、レイピア、ダガーといった比較的軽量の武器だった。
「どうだ?」
「……片手剣でも思ったよりも重いんだね……これを振り回すのは結構大変そうだ。」
「まあ、慣れの問題もあるからな。日替わりで使ってみればいいんじゃねぇか?」
「そうだね……フフッ」
突然小さく笑ったピエトロにネロが顔をしかめる
「どうした?」
「 いや、なんだかこう言うの楽しいなと思って、今まではこう言う事を相談できる相手はいなかったからね。」
そう言うとピエトロは少し儚げな目をして笑う、その笑みに今までどれ程の苦難があったのかは過去を聞いていたネロには容易に想像できた。
「でもそれだけ知識があるならどうして剣を使わないんだい?」
「……まあ、昔、色々あってな。」
前世で剣で死んだから、なんて言える訳もなくネロは言葉を濁してごまかす。
「昔?幼い頃に何かあったってこと?でも君の年齢から考えるといろいろと計算が合わないような……それとももしかして前世での話とか?なんてね、そんなわけないか」
そう言って笑うピエトロにネロも引きつった笑いで返す。
――こいつマジでなんなんだ?
「ところでネロには剣の師はいるのかい?」
「師?」
「ああ、君に剣術を教えてくれた師匠だよ。君だって生まれた時から使えた訳でもないだろ?」
「……まあな。」
しかしそう言われてもネロ的には思い当たる節はない、使える技は全て前世のスキルで覚えた技だ、いるとしたら戦ってきた相手全てだろう。
そうなってくると師というのは自分に初めに剣の基礎を教えた人物が近い事になる。
――俺が初めて教えてもらった相手……
ネロは、かつての記憶を思い出して見る。
今までの様々な記憶がよぎる中、ふと懐かしい光景が脳裏をよぎる、そこにはまだ幼い自分とそんな自分に優しく手を取る男の姿があった。
『そうだ、なかなか上手いぞ、流石私の子だ』
そういいながら自分の頭を撫でながら優しい微笑みを浮かべる見覚えのある男の姿、それは前世の父親レインだった。
――そうか、これは俺が初めて剣を持ったときか。
ネロの前世であるカイルは父レインとは険悪であった。カイルは父親を嫌いまたレインも同様でカイルが死んだ時には歓喜したほどだ。
しかし生まれた時から仲が悪かったわけではない。
――確かこの一週間後、身内の集まったパーティーの合間の鍛錬で……
「……」
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない」
ピエトロの声に我に返ると、ネロは再び記憶を辿る。
――アレは師とは言えないな、このあと俺に剣術の基楚を教えてくれた奴がいたはずだ、確かルイン王国の将軍だった奴で名前はブライアン……
「……あ、あぁぁー⁉」
「ど、どうしたの」
「い、いや、なんでもない」
思わず大声を出してしまったネロが慌てて自分の口を手でふさぐ。
――思い出した!あのリグレットのパーティーにいた男、あいつグランツ・ブライアンじゃねぇか
グランツ・ブライアンはルイン王国で初めて平民から将軍となった男であり、かつてネロと学園で対峙していたレギオス、レオン・ブライアンの父であった。
実力は王国でネロの次に強い実力者で初めて戦った時は、まだ剣を握って間もなかったとはいえ敗れている。ただ、その後もう一度戦う機会があった時はカイルの圧勝であった。
――なんか、気さくなおっさんだったから気づかなかったぜ、昔はもっと真面目な奴だったのに
「で、キミの師は?」
「えーと、まあ、言うなれば国の将軍だったかな確か?」
とりあえず、嘘ではないのでそう答えててみる、するとピエトロはネロの言葉になんだか気まずそうな表情を見せる。
「……そういうことか、ミディールの将軍と言えば、君の父親であるバッカス・エルドラゴ将軍だったね。確か十年前に海難事故で……、剣を使わなくなったのもその影響っていう事か、ごめん、なんか失礼な事聞いてしまったみたいだ。」
――そうだったの?
と言いかけたが、ちょうど辻褄があってくるのでネロは話を合わせることにした。
「ま、まあ気にすんな、もう昔の話だ」
「そうかい、じゃあ、今度は君が僕の師になってくれるかい?」
「ああ、任せろ」
そう言うとネロは早速ピエトロに指導していく。
「まずは構えからだな」
ネロが買ってきた剣から一つ手に取り、構えを実演してみせる。
「こうかい?」
「少し、手の位置が高いな、手の高さはもう少し低めにだな。」
ネロが説明をしながらピエトロの後ろから手を取った、その時……
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
すこし離れた場所から聞き覚えのある声が広場に響き渡る。
二人揃って声の方向を見ると、そこには頰が赤く染まったエレナがこちらを指差していた。
「エレナか、どうした?」
「エーテルの、言ったとおりだった……」
「は?」
「……けない……」
「え?」
「ピエトロには、絶っっっ対、負けないんだからぁぁ!」
顔を赤くし涙目で突如された宣戦布告に何が何だかわからない男二人が顔を見合わせながらしばらく固まる。
しかし、何を思い立ったのかその数秒後、ピエトロはクスリと笑い
「僕も負けないよ」
と答えた。
ピエトロの笑顔が余裕の表れに見えたのか、怯みを見せると、エレナはさらに顔を真っ赤にさせ、泣きながら後ろの方へと走って言った。
「……何の話だ?」
「さあ?でも対抗心は人を成長させるからね、何についてかは知らないけれど僕への対抗心でエレナが成長するのならなんだってかまわないさ。」
そう言って二人は特に気にすることなく、再び剣の指導に戻る。
しかしこの一件がエレナを一人の女性として大きく成長させるきっかけとなっていった。
――
「エーテル、私頑張る!ピエトロには絶対負けないから」
「そ、そうよ、その意気よエレナ!大丈夫、私に任せて!この恋の妖精、エーテルちゃんがエレナを立派な女性に仕立て上げちゃうんだから!」
――うわぁ、ネロにバレたら私、絶対殺されるな~
こうして、男性陣の気づかぬところでもう一つの成長物語が始まった。
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