第83話 久々の日常

 ブルーノ家の一件が片付き、セグリアを後にしてから一週間。

 ネロ達はセグリアから帝都ヘクタスへの経路にある、とある街へ来ていた。

 セグリアに比べれば小さいがそれなりの大きさを誇る町で、ここを出れば帝都ヘクタスまで大きな街はない。


 そのこともあってセグリアで出来なかった買い物をしたいというエーテルの提案により、今日はそれぞれ自由行動を取ることになり、エレナとエーテルは服を買いに洋服屋へ、ピエトロは自分の武器を新調しに武器屋へと向かった。

 ……そして一人、やる事のないネロは宿で休んでいた。


――……なんか随分久しぶりに休んでる気がするな


 ネロはベットの上で大の字の格好で倒れ込みただひたすらボーっとしていた。


――……でもまあ、たまにはこんな日もあっていいか、旅に出てからはいろいろとあったからな。


ネロが宿の天井を見ながら旅立ってからの、この三ヵ月の出来事を振り返る。

 炭鉱の町オルグスでの一件から始まり、獣人族との対立、そしてアドラーの大貴族、ゲルマとブルーノの二つの貴族の存在、そしてエーテルやピエトロという新しい仲間との出会い、その他にも様々な事があった。


 この出来事は三ヵ月と言うネロの歩んできた人生のほんの一部の時間に過ぎないが、その時間の中でネロは随分と変わってしまった。

 かつては平民の宿にすら泊まろうとしなかった自分が今、こうして平民の宿で普通にベットに寝転がっていることが不思議でならなかった。


――貴族に平民、そしてアジ……他種族とも色々関わってきたからなぁ。


 ネロが目を瞑ると頭の中で、その今までの出来事が蘇る。そしてその出来事の一つ一つには、必ず一人の少女の姿があった。


――……ま、なんにせよ、目的は変わらねぇしな。俺がこの先、生き続けるためにも先ずはエーテルを助けてオールクリアの効果があるというアイテムをもらわねえと、旅を始めてもうすぐで三ヵ月、まだ時間は十分ある。……あれ?そういや、確か三ヵ月経ったらしなきゃいけない事があったような……まっいっか。


 何かを忘れているような気がしたが、思い出せなかったネロはその事に深く考えず眠りにつこうとする。

 しかし丁度そのタイミングでので部屋の外からノックする音が聞こえた。


「ネロ、いるかい?」

「ん?ピエトロか?入れよ。」


入室の許可を出すとピエトロが部屋へと入ってくる。


「お前の部屋でもあるんだからノックはいらねぇだろ。」

「フフ、そういえばそうだね、まだ宿に慣れていないから自分の部屋以外は自然とノックしてしまうよ。」

「それで、なんだよ?」

「ああ、君は剣の扱いには長けてる方だったよね?」

「……まあな。」


――主に前世の話だが


「なら、一緒に剣を見に武器屋にいってくれないか?どうもこいうのに関しては本で得た知識より経験者の話を聞いた方がいいと思ってね。」


 ピエトロの誘いにネロは一度考えるが、特に断る理由もなく、これと言ってすることもないので同行することにした。


――


「わぁ!これ、すっごくエレナに似合うわ!」


エーテルが街の服屋に置いてあるピンクのドレスを見てはしゃぎたてる、しかし当のエレナはピンとこなかったのか難しい顔で首をかしげていた


「うーん、そうかなぁ?」

「そうよ、セグリアでも言ったけど、エレナはもっと可愛いの着なきゃ。」

「でも、動きにくそうだし、値段も結構するんじゃないの?」

「ん〜、じゃあこれはどう?値段もお手頃だし丈も短めで動きやすいと思うけど」

「う〜ん、私はやっぱりこっちの茶色の方が良いかなぁー、ほら、この色なら汚れもあまり目立たないし何よりこの服の素材!このブラウニーウールっていうのはミディールでは見られないモンスターなのよ!」


 そう言って目を輝かせるエレナを見てエーテルは大きくため息をついた。


「……前から言おうと思ってたんだけどさぁ……エレナ、そんなんでいいの?」

「え?」

「そんなんじゃ、いつか他の人にネロを取られちゃうかもしれないわよ?」

「えぇ⁉︎」


 唐突のエーテルの発言にエレナは激しく動揺し、ただ口を開けて固まっている。


「なんかさぁ、二人を見てると婚約者フィアンセとかそういう感じに見えないのよねぇ、仲は悪くないし大切にもされてるんだろうけど、どちらかと言えば兄妹みたいな感じに見えるのよ。それにネロって口の悪さは最悪だけど、滅茶苦茶強いし、顔も悪くない、オマケに貴族の領主なんでしょ?そんな人がモテないなんてないと思うけどなぁ」

「で、でも、ほら、私はネロの……その……フィ……」

「その考えが甘いのよ!フィアンセなんて親が勝手に決められたものでしょ?ネロに他に好きな人ができたら婚約解消だってありえるのよ?例えば――」


勢いよく説教していたエーテルだが、何かを見つけたのか遠くの方を見て言葉がピタっと止まる。

釣られてエレナもその方向を見ると、窓の外に見覚えある二人が横並びで歩いていた。


「あれは……ネロとピエトロ⁉︎」

「あ、本当だね、二人で買い物でも行くのかな?」

「……不味いわね。」

「え?」

「ネロとピエトロが二人っきりで歩いてる……これは何かあるかもしれないわ!追いかけましょう!」

「な、何かあるって、どういうこと?」

「そりゃあ、もちろんゴニョゴニョ……」

「……えぇ⁉︎で、でもピエトロは男の子だしそんなことは……」

「あっまぁーい!甘すぎるわエレナ!いい?世の中にはね、性別の壁を超えた関係って言うものがあってねて……」

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