第73話 強者

森へと後退していくピエトロ達の姿を見送ると、ネロは再び前をみる。


目の前には今にも襲いかかってきそうなほど興奮した三体のモンスターを待機させたレクサスが薄っすらと笑みを浮かべながらこちらを待っていた。


「仲間との別れは済んだか?ではこちらも始めるとするか。」

「まあ、そう焦んなよ、こちらにはお前には聞きたいことが色々とあるんだ。折角遊んでやるんだから少しくらい教えろよ。」

「……フン、いいだろう、少しくらいは答えてやろう。」


ネロの提案を時間稼ぎとでも考えたのかレクサスが小馬鹿にするように鼻で笑い承諾した。


「ならまず、タールのグリフォン討伐の依頼、アレはお前が出した依頼か?」


 ネロの質問を聞くとレクサス一度顔をしかめるが、すぐに思い出したように答える。


「あぁ、オーマの眼を移植した奴か。いかにも、あれは私の出した依頼だが?それを知っているということはアレを壊した・・・のは貴様だな?」


すんなり肯定されると、ネロはタールでの出来事を思い返し怒りをぶり返した。


「……おかげさまでな、ずいぶん傍迷惑なペットだったぜ、飼い主なら逃げられないようにペットの管理くらいしっかりしやがれ。」


いつもの様に生意気口調で話すが、声には怒気が混じり、少し声色が低くなる。

しかし、ネロの言葉に今度はレクサスが不機嫌になる。


「フン、なにを言うかと思えば、文句を言いたいのはこちらの方だ、折角のデータ収集を邪魔されたんだからな」

「なに?」

「あれは元々データ収集のために放し飼いにしたに過ぎない。本来Cランクのグリフォンがオーマの眼を持つことでどれほどの強さかを調べるためのな、おかげで報酬に目が眩んだ馬鹿な冒険者モルモット達がよく集まっていいレベル上げにもなったよ。」

「テメェ⁉︎」


 ネロが拳に力を込めてすぐにでも襲いかかりたい気持ちをグッと堪える。


――こいつらをぶっ飛ばすのは話が終わってからだ。


「すぐにピエトロが手を打ってくるのはわかっていたが、まさかあんなに早く処理されるとは思わなかった 。おかげでキメラの回収もできず、データが思ったより集まらなくてな。その件も踏まえてお前には色々と付き合ってもらうぞ。」

「テメェ!ふざけてんのか!そんなくだらないことのために何人のやつが犠牲になったと思ってんだ!」


ネロが怒り任せに怒鳴り散らす、しかしレクサスは悪びれもせずネロの言葉に呆れるように首を横に振る。


「くだらない?フッ、これだから馬鹿は困る。」

「何だと⁉︎」

「いいか、この際だから教えてやろう、この世界は強者のための世界だ。力さえあれば、全てが思うがままになる、その力を得るための実験のどこがくだらないと言うのだ?」


レクサスがモンスターの一匹の体を摩る。


「どうだ?ここには最強のモンスターの一角、白龍をも容易く葬れる忠実なるモンスターが三体……ありとあらゆる研究を重ねて作った私の力だ。私はこれからも研究を続け、さらなる力を手に入れる。そしてまずは帝国……最後は世界さえも私の手のものとする、お前も最強の礎になれることを誇りに思うがいい!」


レクサスが手をあげると後ろから三体のモンスターが同時に唸りを上げる。

 

「さて、話は終わりだ。まずはオーガニクス、お前の成長した力を存分に見せるが良い。」


 レクサスの言葉にまるで駆動音の様な低い咆哮で返事をするとオーガニクスと呼ばれた四本足のオーガが一歩前に出てくる。

 そして体を震わせ始めると背中からハンマーの形をした十本への腕が生えてきた。


「おお!十本まで生やすことができる様になったのか!素晴らしい!」


レクサスの賞賛の声に答えるかの様にオーガニクスはその十本のハンマーの腕を華麗に動かし威嚇する。


「さて、まず貴様には白龍の体を一撃で粉砕するこのオーガニクスのハンマーの威力をとくと味わってもらう、なに、感想などは期待していない。お前が死んだ後、遺体を研究室に持ち帰り、潰れた貴様の遺体から威力を割り出す、他にも普通の人間の貴様にどうして、そこまで力があるのか、隅々まで調べ尽くしてやるから光栄に思え。」


 上にあげた手をそのままネロの方へと突き出す。


「さあ、行くがいい」


レクサスの号令にオーガニクスが四本足で地面を強く蹴り、瞬時にネロの元まで行くと、勢いをそのままに十本の

オーガニクスのハンマーのラッシュがネロを襲う。


どんな悲鳴が聞こえるのか、どれほどの大きな穴ができるのか?レクサスが興奮を抑えきれずに不気味な笑みをうかべながら観戦する。


……しかし次の瞬間、あたりに響いたのは地面が潰れる音でも少年の悲鳴でもなく、低いエンジン音のような悲鳴だった。


「な……⁉︎」


そして目の前で起きた光景にレクサスが息をするのを忘れ凝視した。

本来なら辺りの地面は破壊され、赤い血しぶきがでていたはず。

しかし目の前には自慢していたオーガニクスの十本のハンマーが全て引きちぎられており、先端からは緑色の血が吹き出てあたりに小さな水溜りを作っていた。


「ば、馬鹿な……」

「……さて、と」


ネロがゆっくりレクサスの方に目を向ける、するとレクサスの足が自然と後ろに一歩一歩後退する。


「そういやさ、お前のさっきの話、俺は間違ってるとは思わないぜ?強さこそ正義、自由こそ強者に与えられた特権だ。……ただ、間違っているのはお前は強者ではないということだ。」

「な、何だと⁉︎ふざけるな!この私が強者ではないだと⁉︎」


先ほどまでの冷静さを失ったレクサスが大声で叫ぶ。


「そうだ。どんなに白龍を倒せようが世界を支配できようが、目の前にいるのがその上を行く奴ならばそいつは弱者になる。……つまり本当の強者というのは最強と呼ばれるものだけ……」


ネロがゆっくりオーガニクスの顔を見上げる。


「そしてそれはつまり……俺だけだ」


その言葉が終わると同時にオーガニクスの首が飛び、何の音も立てることなく肉塊となった。



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