第68話 妖精の王女エーテル
――時間は少し前に遡る。
集まっていた場所からテリアとレクサスの馬車がそれぞれ出発したのを見送ると、その場にはネロ達だけが残っていた。
「……どうやら行ったみたいだね、それじゃあ、こちらも行動開始しよう。エーテル、頼めるかい?」
「任せといて!」
ピエトロの問いかけにエーテルが元気よく返事をする。そして、一呼吸を入れた後、エーテルはゆっくりと目を閉じ、祈るように手を合わせると魔法を唱え始める。
「しかし、本当にこいつに使えるのか?テレポなんて」
ネロが呪文を唱えているエーテルに眉を顰めながら疑いの目を向ける。
エーテルが唱えているのは転移魔法テレポーテーション。
通称テレポと呼ばれる魔法で、一度行ったことある場所ならどこにでも一瞬でいけると言う魔法だ。
非常に便利な魔法ではあるが、この魔法は遥か昔に失われた魔法とされている古代魔法の一つで、使える者は世界中を探しても十人いるかいないかと言われている魔法だ。
そんな魔法をエーテルが使えると言うことが、ネロは信じられなかった。
「妖精は攻撃魔法は得意じゃないけど補助系魔法に関しては数いる種族の中でもトップクラスの種族。人間が覚えていない魔法が使えてとしてもおかしくはないよ。」
ピエトロの言葉にネロはしばらく黙り込む。
そのことならネロも一応勉強はしていたので知っている。
この世界にいる種族には見た目や性質以外にも種族によって様々な能力的特徴がある。
例えばステータスは人間と大差ないが高い魔力値を誇るエルフや、種族の中から更に種類が分かれて、それによってステータスに偏りやスキルを持つ傾向がある
身体的ステータスに関しては右に出るものはいないが知能が低く魔力を一切持たない
そして、エーテルの種族である
そしてテレポの魔法の種類は補助系の魔法の分類に入る。
「まあ、それでもテレポテーションを使えるはかなり珍しいけどね、エーテルは君が思ってる以上に優秀な妖精だったみたいだね」
ピエトロにそう言われてエーテルを改めてみる。
認めたくはないが、呪文を唱えてるエーテルは確かに普段とは違う神秘的な雰囲気が漂っている。
呪文を唱える声は普段の騒いでる時とは違い、淑やかで美しく、そしてその声に呼び出されるかのようにエーテルの周りにはキラキラと光輝くマナが徐々に地面から集まってくる。
「地面からマナが浮かび上がっているのはエーテルの力に周りのマナまでが影響を受けてるからだろう、こんなこと妖精だからと言って皆ができるわけではないよ。」
――……そういや、こいつ妖精の王女だったな
ネロは本気で忘れていたことを思い出した。
「……我らを記憶の地へと誘え……テレポーテーション!」
エーテルが呪文を唱え終わると、周りの風景がグニャリと歪みはじめる。
周りがぼやけて見えたかと思うと、気が付けば辺りは街の外から森の木々に囲まれた場所に変わっていた。
――おお、本当に移動した、でも……
「……ここ、どこだ?」
「……さあ?」
ネロとエレナがキョロキョロと辺りを見回す、事前に下準備で来た際は、中には入っていなかったので転移先はホワイトキャニオンの門前に飛んでいるはずだが、見渡す限りに見えるのは綺麗な緑に囲まれた森の中だった。
「どうやらここは、ホワイトキャニオンの中みたいだね……」
「……え~と、少し座標がずれたみたいね」
エーテルが舌を出しておどけてみせる。
――どういう理論でそうなるんだよ……所詮はエーテルか。
「な、なによ!仕方ないじゃない!こんな魔法滅多に使わないんだから!妖精の国にいる時は遠出なんてすることもないし、詠唱にも時間かかるから逃走にだって使えないし、使い勝手が悪いのよこの魔法!」
思ったことが顔に出ていたのかエーテルがさっきの神秘的な姿が嘘のように騒ぎ立てる。
まあ、本来テレポを使えるだけででも凄いのだ、ネロも、今回に関してはとやかくは言うつもりはなかった。
「いや、これは嬉しい誤算だよ、門兵に見られていないってことはまだ僕達がここにいることを知ってる者はいないってことだからね、バレるのは時間の問題だろうけど、それでもこの差は大きいよ、ありがとうエーテル」
「ほらほら聞いた?嬉しい誤算だって!ありがとうだって!」
――うぜぇ……
普段褒められることがない分、褒められたのが嬉しかったのかさっきとは一転して喜ぶエーテル。
確かに実際評価できるものなのだろうが、ここで褒めると調子に乗りそうなのでネロはそのままスルーした。
「さて、じゃあ、予定とは少し違うけど早速次の行動に移るとしよう、ここはもう白龍の巣の中だし、ネロはともかく僕達は襲われたらひとたまりもないからね。」
そう言うとピエトロはポケットの中から事前に準備していたアイテムを取り出す。
「なんだそれ?」
ピエトロが取り出したのは、いかにも高級そうなきれいなベルだった。
「これは、イディオムベルリングというアイテムで、もし近くに持ち主に対し敵意を持った相手がいると音が鳴って知らせてくれるんだ」
「へえ……」
ネロがそのベルを手に取りその綺麗な模様を観察する。
「まあ、どこにいるかまではわからないのが少しネックだけどね」
そう言ってピエトロが少し苦笑いをすると話を聞いたエーテルが大きく手を上げる。
「はいはーい!、それなら私に任せて!私なら、敵の場所がわかる魔法も覚えていたりするんだから」
「ほんと?いや、でも……」
「大丈夫だって、次期妖精の女王たる私に任せなさい。」
褒められることに味を覚えたのか、エーテルが率先して魔物探知をかってでてくる
自信満々で言ってくるエーテルにピエトロは少し不安を覚えるも、強く推しきられ観念するとエーテルに周りのモンスターの気配を読み取る魔法エンカウントスキニングをお願いした。
「今日はエーテル大活躍だね」
「むしろそれが不安に感じる」
ここまで上手く行くと逆に不安になる、ネロは周囲を警戒しながらエーテルの反応を窺う。
「むむ、感じるわ……近づいてくる、とても大きな気配を……」
――本当かよ、なんか一気に胡散臭くなってきたな。
まるでエセ占い師のようなセリフを吐き探知するエーテル、そして暫く唸りながら目を瞑っていると、突如前方斜め方向を指を差し声をあげた
「来た!そこに――」
『グオォォォォォォォ‼︎』
「――」
――
「キャアァァァァァァ!」
エレナの手の上で気絶していたエーテルの絶叫が響き渡る。
突如悲鳴をあげたエーテルは、そのまま勢いよく飛び起きた。
「ハァハァ、今のは……?」
エーテルが辺りをキョロキョロと伺う、そして危険がないのを確認するとホッと胸を撫で下ろした。
「大丈夫、エーテル?」
「さっきの出来事がトラウマになったみたいだね。」
先ほど、エーテルが指を差すとほぼ同時にエーテルの言う通り、その方向から白龍が牙をむき出しに襲ってきた。
間一髪のところでネロが止めに入ったが、あと一歩遅かったら噛みちぎられていたであろうほどの距離から受けた白龍の咆哮にエーテルはそのまま気を失ってしまった。
「白龍、怖い……」
それからエーテルはしばらくエレナのポケットの中から出てくることはなかった。
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