第56話 仲間
ネロは慣れた手つきで引きちぎれたグリフォンの体の半分から光を取り出すと、いつものようにそのまま飲み込み、自分のステータスを確認した。
ネロ・ティングス・エルドラコ
レベル 四〇〇三→四〇四〇
…………所得スキル
――これはグリフォンのスキルか
ネロはさっそく、手に入れたスキルを使って辺りを見回す。
眼に意識を集中させることによって、まるで双眼鏡のように見える距離がが広がっていき、最大ではこの岩山から数キロ離れた町がボヤげながらも見えるほどだ。
――なかなか使えそうなスキルだな、ただ……
やはりオーマの力に関するスキルは手に入らなかったようで、ネロは少し残念がる。
そしてそのまま遊び半分で、
「お前らなにしてんだ?」
「ああ、お前か」
二人が歩いてくるネロに気づくと、一度手を止め立ち上がる。
「なんだそれ?グリフォンの宝か?」
ネロがザックの手に持つ、アイテムを見て質問する。
「これか?これは多分グリフォンが集めた討伐に来た冒険者達の道具だ。」
「グリフォンはキラキラ光るものを集める習性があるからもしかしたら、亡くなった冒険者の物もあるんじゃないかと思って。」
そう言ってエレナがネロに見つけたアイテムを見せる。
ペンダントや指輪といった装飾系の物が多いなか、古く使い込まれた剣などもあり、どれも思入れのありそうな道具ばかりである。
「冒険者は依頼を成し遂げられれば英雄だが、死ねば誰にも知られずに死んで行く。けどそれじゃあ寂しいからな、だからせめて遺品くらいは見つけてやらないと、ギルドには持ってる道具も登録されてるから、渡せば全部とはいかないが、わかる物は持ち主の関係者に渡してくれるんだ。」
説明を聞いたネロは一つアイテムを手に取り、ふーん、とそっ気なく答えた。
人は自分の死後のことなどはわからない。
そのことを知っているネロからしてみればこういう行為にあまり興味を持てなかった。
そんなこともありネロは話題を変える。
「なあ、そういえば、一つ聞いていいか?」
「ん?なんだ?」
「なんであの時囮になったんだ?」
ネロが先ほどの戦いを振り返り、質問する。
元々ザックは戦闘に参加しない、そう言う契約だったからだ。
「その事か、俺もそんなつもりは元々なかったさ、ただ……」
そう言いかけるとザックが先ほど拾った古びた剣を寂しそうに見つめた。
「……即席で、一度きりのパーティーとは言えど仲間だからな。もう仲間を見捨てるようなことはしたくない、そう思ったら自然と体動いたんだ。」
「仲……間……」
――……
「な、何だよ?急に黙って。」
「え?べっ別になんでもねえよ!それより、もう道具も拾い終えたんなら、そろそろ帰ろうぜ」
「そうだね、早くしないと町に着くまでに夜になっちゃうよ。」
そう言うと姿を消しているエーテルを含めた四人は早々とその場を後にした。
――ギルド支部
「はい、では、これが報酬の五十万ギルです」
「ほら、約束の報酬だよ。」
受付から貰った金貨の入った袋をザックがそのままネロに渡す。
「……ああ、確かに」
グリフォンの討伐を成し遂げたネロたちに周りがざわつく中、三人が、その間を堂々と通り抜けギルドを後にした。
――
「よし、ここらへんでいいだろ」
ネロ達は人の少ないところまで来ると、一度立ち止まり一息つく。
「これにて任務完了、俺にとっての冒険者としての仕事はこれで終わりだ。」
「これからどうするんですか?」
「さあな、とりあえず故郷で仲間の墓を建てて、農家で働こうと思う。あいつらの家族にも報告しないといけないしな。」
ザックが気さくに振舞ってみせるがやはりどこか寂しげであった。
「んじゃあ、そろそろ俺は行くわ、最後に冒険者らしい事が出来て良かったぜ。」
そう言ってザックがネロ達に背を向け歩き出す。
「待てよ。」
そしてそんなザックを、ネロが呼び止めた。
「ん?まだ何か用――」
振り向きざまのザックに金貨の入った袋が放り投げられた。
「これは……」
「報酬の半分だよ。」
「え?でもそれじゃあ約束が……」
「その話ならお前が囮になったとこで終わってんだよ。自分でも行ってただろ?冒険者らしい事が出来たって。なら冒険者らしく報酬も受け取れ。」
「お前……」
少し驚くザックを見てネロは笑みを浮かべると、ザックもつられて小さく笑った。
「また、今度、俺が成人を迎えたら、パーティー組もうぜ」
「ああ、約束だ。」
不幸を乗り越えたあと、再びパーティーを組む、そう約束をしたネロはザックの背中を見送った。
――
「……さてと、もう遅いし、さっさとエレナの言ってた宿に行こうぜ」
ネロが宿のある地区へと足を進み始める。
「良かったの?ネロ。」
「構わねえよ。今回は俺一人で倒したわけじゃねえ、ザックとのチームプレイで倒したんだからな、それで全額は受け取れねぇよ」
「全く、相変わらずプライドだけは高いよねー」
「お前は相変わらずうるせえな、ハエーテル」
「ハエーテルって言うな!」
そんな他愛もない会話をしながら、三人は歩いて行った。
「仲間か……」
人に聞こえない程度の声でネロは再びその言葉を呟く。
仲間
それはネロにとっては無縁の言葉だった。
強すぎる故に、誰にも頼ることなかった、ネロにとって仲間と呼べる相手はいない。
エレナは戦闘に出ることはなく、前世の貴族達は絶対服従の自分の忠実な部下であって仲間と呼べる相手と呼べる者でもなかった。
事実上今日の戦いはネロが初めて他の相手と、協力した戦いだった。
ネロは知っていた。
仲間という存在が時にどれほど頼もしいかを。
前世で戦った平民達が、協力することでどれほどの強さを見せていたのかを
そしてその光景少し羨ましく感じてもいた。
心を許した数少ない相手のベルモンド兄妹とは、二人との距離を縮めようとしたその日に自分が命を落とし結局叶うことはなかった。
――そういえば、あいつら何してんだろうな。
前世で亡くなってから十五年、この日ネロは初めて前世で出会った相手を気にかけた。
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