第52話 リグレット
「あーもう!腹立つぅぅ!ギルドに登録できねぇわ、馬鹿にされるわで散々じゃねぇか!」
ギルドを出た後も腹の虫の治らないネロは、町の外で人の被害の及ばない場所まで行くと、岩や地面に苛立ちをぶつけるようにあちこちに八つ当たりをしはじめる。
「まあ、残念だったとしか言いようがないわね、でもどうして表示しなかったのかしら?」
「やっぱり、レベルの限界値かな?普通でもレベルが千を超える人なんていないし。」
暴れるネロをよそにエレナとエーテルが冷静に先ほどの一件を振り返っていた。
「でも例のグリフォンはどうするの?話に聞けばかなり強いらしいし、このままじゃもっと被害が出るかもしれないわよ?」
「うーん、放っておけないけど、流石に今のネロが無償で討伐してくれるなんて思わないしねぇ」
そう呟くと二人で暴れるネロの方を見る。
暴れ続けているせいで、周りの地面は荒れ、周りにも地響きが伝わっている。
エレナとエーテルはもう慣れてしまったが、きっと町では少し騒ぎになっているだろう。
「……このままの勢いでグリフォンも討伐しちゃえばいいのに、近くの岩山なんでしょ?」
「でも具体的な場所は教えてもらえなかったし。とりあえずリグレットさんが代わりに討伐するって言ってたけど。」
「それがそうもいかなくなっちゃんだよねぇ」
「え?」
突如聞こえた第三者の声にエーテルは慌てて姿を隠し、エレナは思わず辺りを見回す。
すると雲一つない青空からリグレットが飛び降りてきた。
「リグレットさん!いったいどこから⁉︎」
「やあ、先程ぶり」
着地を綺麗に決め、立ち上がったリグレットが、エレナに小さく手を上げ笑顔で応える。
そしてエレナの声にネロがリグレットの存在に気づくと、興奮気味に二人の元へと駆け寄ってくる。
「てめぇ!さっきはよくも恥かかせてくれたな!」
「まあ、そう怒んないでよ、流石に私もあれは予想してなかったからさ」
興奮するネロをリグレットが悪びれなくなだめている。
これ以上喧嘩が起こらないようにエレナがすぐさま二人の間に割って入って来る。
「それより、依頼を受けれないって何かあったんですか?」
「まあね、私は元々、グリフォン討伐依頼の話でここに来てたんだけどさ、ちょっと急用が出来ちゃって、先に仲間が行ってる、セグリアに急遽行かなきゃならなくなったんだよねぇ。」
「セグリアですか……この町とちょうど帝都との中間の場所ですよね、私達も次に向かう場所ですけど、かなり遠いですね」
「うん、だから少しでも早く出発しようと考えたんだけど、やっぱりグリフォンは放っておけないから、ならネロ君にグリフォン討伐してもらおうと思って。」
「断る。」
ネロはいつもの様に即答で答える。
「もう、機嫌なおしてよ」
「そもそも、依頼は受けられないのでは?流石に無償で討伐はちょっと……」
「大丈夫、ちゃんと受ける方法あるから」
「え?」
そう言うとリグレットが得意げに説明し始める。
「正確には受けてもらうが正解かな?別に特別な方法でも何でもないんだけど。ギルドの規定はあくまで依頼を受けた人だけってことだから、要はアドラーの冒険者とパーティーを組めばいけるよ。」
「……ワザワザ、自分達が登録しなくても登録した奴と行けばいいってことか。」
「冒険者としては評価も実績も残らないからあまり気のりにならないけど、ただお金が欲しいだけならこれで十分だと思うよ?まあ、報酬は相手と相談になるけどね。」
考え方としてはいたってシンプルだし難しい事ではない。
むしろ単純すぎて思い浮かばなかった自分に少し自己嫌悪する。
「まあそう言うことだから、私はそろそろ行くね、あとは宜しく!」
「おい、だからって受けるなんて一言も……」
「またね
ネロの話を聞かず、リグレットは再び上に跳ぶとそのまま姿を消した。
「……あれってもしかしてテレポートかな⁉」
「んー、魔法の発動は見受けられなかったけどね、……って言うかあの人私の存在に気づいてたよね⁉」
「やっぱ、ただ者じゃねーのか」
三人が彼女の消えた上空を見上げ、それぞれ感想を口にする。
ネロはそのリグレットの不可解な動きに少し真面目な顔を見せる。
――魔法じゃないとなるとスキルか……
ネロと同じ特殊スキル持ち。
この世界の英雄と呼ばれる者達は必ずと言っていいほど身に付けている。
彼女も恐らくその類になるのだろう。
――敵になると厄介かもしれない。
レベルやステータスだけではどうにもならない敵もいる。オルグスでそれを知ったネロは、リグレットへの警戒を心の隅にとどめておいた。
「それより、どうする?受けるの?」
エーテルが再び話を戻す。
「折角だし受けましょうよ、お金も入るし討伐もできる、それに私、一度そのグリフォン見てみたいし!」
「本音は最後か……まあ、あいつの言うことを聞くのは癪だが、元々その予定だったからな、仕方ない、討伐しに行くか。」
考えが固まると三人は再び街へと足を進めた。
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