第51話 レベル

「いらっしゃいませ、タール、ギルド支部へようこそ」


 ギルドの受付場所まで来ると、受付の女性が笑顔で迎える。


「この依頼を受けたいんだが」


 ネロが手にした依頼書を見せると、受付の女性はその依頼書に一瞬、驚きの表情を見せるも、すぐに笑顔に戻り、了承する。


「……かしこまりました。では、ギルドのカードを提示をお願いします。」


――ギルドカード……


 冒険者がギルドに所属していることを示す、登録カードだ。


 冒険者という職業は、命の危険が多い職業なだけに、命の保証の責任を負わないことの誓約も含まれてあるそのカードには、自分のプロフィールとともに、今までのギルドの受けたクエストの数とランク、パーテイーを組んでいるのならそのメンバーの名前も書かれてある。

 しかしネロはそんなものは、もちろん用意していなかった。


「ここで作れないか?」

「作れますよ、ではここに名前と生年月日、年齢、後、性別と出身国をお願いします。」

 

 女性に一枚の紙と羽ペンを渡されると、その紙に書かれてある項目を淡々と埋めて行き、女性に返す。


「はい、ありがとうございます……え~と」


 女性が書類を見ながら一つ一つ目を通していく、年齢で少し表情が変わるも、ギルドは年齢制限を設けていないためそのままスルーした。

 問題なく、順調に確認をしていくが一つの項目のところで目が止まる。


「あの、申し訳ございません、残念ながらミディールの方は、ギルド登録できません」

「……どう言うことだ?」


 国のことで断られるとネロの声色が少し変わる。

 アドラーに来てから国関係の揉め事が多いので、国の事に少し過敏になっているところがあった。


「はい、これはどの国のギルドでも共通の規定なのですが、他国の方をギルドに入れてしまうと、国の人材流出の原因になりますので、他国の方のギルド加入は認められていないのです。」


 ――つまり、強い冒険者の引き抜き対策か……


ギルドは世界各国にあるが、国によって待遇や制度が違う。

例えば、ネロの母国、ミディール国では、アドラー帝国とは違い同じランクの依頼しか受けれない。


 これは実力のあるものが、ランクに囚われず力を発揮できるアドラーの考えと、弱い冒険者が、実力を見誤って、高ランクの依頼を受けて命を落とさせないという、安全を配慮したミディールの考え方の違いによるもの。


このように国の考え方から制度が違い、他国の制度に魅了された有望な人材が、他国に流れないためにかけられた制度だろう。

 ネロはそう理解すると黙り込む。


「ただ、ミディール国は同盟国なので、ミディールのギルド所属の方なら仕事をお受けすることもできますよ」


 ――そんなことを言われてもなぁ……


 宿屋一泊のためにミディールまで戻っていられるわけもない。

 ネロはどうにかして依頼を受けられるように受付に精一杯食い下がる。


「なあ、その依頼は今問題になっていると聞いていたんだか、俺ならこいつを倒せる。だから受けさせてはくれないか?」

「すみません……そう言われましても規則なので……」

「……俺はミディールで伯爵の爵位を持つ貴族、エルドラゴだ。この権限で、今回は特例とか認められたりしないか?」


「すみません、そちらは貴族でもこちらも規則なので……」


 向こうが申し訳なさそうに言うが、心なしか上手いこと言えてドヤ顔しているように見え、腹ただしく感じた。


「あーもぅ!依頼さえ受けられはグリフォンごときすぐにでもぶっ潰してやるのにぃ!」


 受けることさえすれば簡単にこなせるのに、依頼を受けられないジレンマにネロは思わず叫びながら地団太を踏む。


 そして今問題となっているグリフォンを倒せると大声で豪語したネロに周りから注目が集まる。


 そんな声を掻きつけた、エレナと、見えないがいるはずのエーテルが、こちらにやってきた。


「どうしたのネロ?」

「ん……いや……」


 依頼が受けられないから駄々こねてるなんて言えるわけがない。


――……仕方ない、宿は諦めるか


「……帰るぞ、宿はエレナがさっき言ってた、とこでいい。」

「え?あ、ちょっとネロ」


 ネロは少し納得できないまま、諦めをつけると、不機嫌に早足で出口へと向かっていく。

 しかし先ほどネロの言葉を聞いていたとみられる男二人が、酒を飲みながら、通りかかるネロに聞こえるような声で話を始める。


「おいおい、聞いたか今の?あのガキ、グリフォンをぶっ潰すだってよ。」

「馬鹿じゃねーの?、ガキにグリフォンなんて倒せる訳ねーだろ。」


 そう言って、バカにしながら笑う二人組の男たちに、ネロの足が止まり、その場に不穏な空気が流れる。


「ちょ、ちょっとネロ……」


 エレナが袖を引っ張り出口へ急かすが、腹の虫がおさまらないネロは足を止めたまま男二人を睨んだ。


「ん、なんだ?文句でもあるのか?」


 そう言ってへらへら笑っている男達の方へと一歩近づく。


「お前ら、駆け出し冒険者か?」


 突然の質問に二人はキョトンとする。


「は?お前と一緒にすんじゃねーよ、こちとら、もう三年はやってるぜ、クエストも何度もこなしてるしランクもこの街では高いCランクだ。」


 ギルドカードを見せ、自慢げに話す男たちをネロは鼻で笑った。


「へぇ、三年ねえ、てっきり冒険に出たこともない口だけ冒険者かと思ったよ。」

「なにぃ⁉」

「お前らはさ、俺が子供だからグリフォンを倒せないと思ったんだろ?一端の冒険者を語る奴が、見た目で実力を判断してんじゃねーよ。」

「な、何だと⁉︎」

「世の中には弱そうな見た目で強い敵なんて五万といる。そんな考えで冒険者なんてやっていたら直ぐに死ぬだろうよ。頼むからそんなアホな事で死ぬことは勘弁してくれよ、アホな奴らと話をした事で俺の経歴に傷が付く。」


 ネロの言葉に逆上すると、男たちは立ち上がり、ネロに食って掛かる。


「……前から思ってたけどネロって実力もそうだけど言葉も中々エグいわね」


 出会った時の事を思い出したエーテルがポツリと呟く。


 テットの宿の時とは違い、血の気の多いものが集うこの酒場ではこの状況が酒場を大いに盛り上がらせた。

 三人が一触即発の状態になると、そこで間に入るように高らかと女性の笑い声が聞こえた。


「なかなか言うねぇ、少年。」


 ネロと男たちの合間に先ほど依頼書のところで出会った女性が歩み寄ってくる。


「お前は、さっきの?」

「あ、リグレットさん。」

「リグレットだと⁉」


 女性の名前を読んだエレナの言葉に酒場中からどよめきの声が聞こえる。


「リグレットって、あの『ダイヤモンドダスト』のリグレットか⁉」

「アドラー帝国に三組しかないギルドランクSのパーティーのリーダーが何でこんな街に⁉︎」


 周りがざわつく中、ネロは状況を掴めないまま首をかしげる。


「なんだ、あんた有名なのか?」

「まあね、それより、少年。そこまで言うなら君がどれほどの実力なのか確かめさせてもらっていいかな?」


 そう言うとリグレットはネロに対して腕輪を見せてくる。


「何だそれ?」

「これはレベルチェッカーって言うレベルが見れる道具だよ、サーチのように、スキルやステータスは見れないけど、レベルがわかるだけでも、相手の実力はわかるからね。魔力も呪文も使わないし、周りの人にもわかるように表示されるからなかなか便利な代物だよ」


 アイテムの説明を聞き終えると、ネロはそれに対し承諾する。

 了承を得ると、リグレットはネロに対し腕輪の付いた手を前に出す。

 

「さて、君のレベルは……」


 前に出した腕から光が出るとネロの周りを囲い、回りだす。

 計測が始まるとネロは不敵に笑う、あれからネロは旅の中でも敵を喰らいまくりさらにレベルを上げていた。


 ――さあ、計測が終った瞬間この場が大騒ぎになるぞ。


 ネロが計測が終るのを楽しみにしている。そして光が腕輪に吸収されるとリグレットはレベルチェッカーの表示された数字を読み取る。


「君のレベル……ゼロ?」

「はぁ⁉︎」


その瞬間ギルド全体が爆笑の渦に包まれた。


「何だよそれ、あんだけでかい口に叩いといてレベルゼロって」

「てかレベルゼロってなんだよ?生まれたばかりの赤子でもレベル一から始まるのに。」

「あー、腹いてぇ」。


 笑いものにされたネロは顔を真っ赤に染め上げて、リグレットに抗議する。


「そ、その機械が壊れてんじゃねーのか?」

「……それはないと思うけどなぁ。ついさっき使ったところだし」

「だったら、レベルを測れる上限値が――」

「おい、いい加減見苦しいぞ!さっさと認めちまえよ、大口叩いてすみませんでしたってな、ガハハハハ」


 周りの笑い声に、ネロの中で何かが切れる音がするとその場で大声で発狂した。


「上等だぁぁぁぁぁぁ!ならばここの奴ら全員ぶちのめして……」


 その瞬間ゴンッと音と共に後頭部に衝撃が走るとそのまま後ろを引っ張られていく。


「おい、放せ、こいつらをぶちのめさねえと俺の気が収まらねえ!」

「興奮しすぎ、残念だけど今回は帰りましょう。」


 そう言って抵抗しようとするネロの頭をピヨピヨハンマーを使って、手慣れた手つきで、素早く十回叩いて気絶させると、外まで引きずっていった。




――


「いやー、さすがに笑わせてもらったな、いったいどんなものかと思ったらレベルゼロなんて。」

「ああ、そんなやつ今まで見たことねーぜ。」


 ネロがいなくなった後も、笑いが治らないギルド内でリグレットは一人佇んでいた。


「レベルゼロ……」


 そう、周りの者達の言う通り、普通ゼロというのはいないのだ。

 どんなに弱いものでもレベルは一から始まる。


 そしてリグレットはこの道具でレベルゼロを表示させた人間をもう一人知っていた。


「レベルゼロ……まさかあの子、スカイレスと同等の強さだとだというの?」

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