第44話 女の子
ネロはレイジの家に着いてから、一人、ずっと落ち着かなさそうにそわそわしていた。
原因は先ほど言われたエーテルの言葉だった……
――
「ねえ?、本当に一人で行かせてよかったの?」
レイジの家までの行く道で、エーテルが尋ねてくる。
「大丈夫だって言ってるだろ。いくら相手が悪徳貴族だろうと、こちらにはそう簡単に手は出せないはずだ。」
「そうじゃなくてさ、エレナはしっかりしてるって言ってもまだ子供じゃない?それを一人で問題が起きてるところにに行かせるなんて心配じゃないの?」
―― ……
「お、俺だって年齢的には一つしか変わらないし……」
「それはネロが強いからでしょ?でもエレナは、ふつうの女の子じゃない、あのくらいの子なら本来、大人に交じって立ち振る舞うだけでも、凄く勇気がいるんじゃない?」
―― …………
――
その後、ネロはずっとエーテルの言葉を考え込んでいる。
言われてみればそうだ。
ネロの近くには年齢の近いの子供は他にいなく、エレナとの比較相手が自分しかいなかったから気づかなかったが、エレナはまだ十二歳、現代でいうと、小学生から中学生になりたての年だ
自分は受け継いでる前世の記憶と力があるから堂々とした態度がとれているだけで、もしふつうの子供だったら、きっと大人に対して今のように振る舞えないだろう。
そんな状況で、ごくふつうの女の子のエレナが大人相手に一人で立ち振る舞うなんて、怖くないはずがない。
恐らく怖くても一人でも行ったのはエレナの正義感が後押ししたのだろう。
エレナの性格なら十分にありえる。
もちろん他の子供達よりもしっかりしているのは確かだろうが、それを引いても見栄を張って大人っぽく見せているところもあるだろう。
そう改めて考えると、エレナを一人で行かせたことを凄く心配になり始めていた。
そして、ネロがそんなことを考え込んでいるよこで、エーテルは今、家にいるもう一人の少年と戯れ、騒いでいる。
「ねえ?ハエーテルの家ってどんなとこなの?」
「だから、『ハ』はいらないって言ってるでしょ!ちょっとネロ!これあんたのせいなんだからどうにかしなさいよ!」
――……
エーテルがコルルにそんな風に言われている理由……
それはレイジの家に入った際、先に訪れていたコルルにエーテルを紹介するに当たってエーテルがあまりにも五月蝿くてウザかったので、エーテルをハエと言って紹介したことにあった。
「……うっさいぞ、ハエ。」
「また言った⁉︎」
ネロは騒ぐエーテルをあしらい、再び考え込む……
このまま一人で行かせて良かったのか、今からでも後を追うべきじゃないのか、しかしそう考えるも、ネロの意地っ張りな性格が行くのを躊躇わせる。
「……て言うか、そんなに心配なら見に行けばいいに……」
「べ、別に心配なんてしてねぇよ!」
動揺のあまり声が裏返る。
「いや、周りから見れば、バレバレよ。」
「う、うるせー!」
そんなことを言っていると家の入り口の方からドアが勢いよく開く音が聞こえた。
「あれ?誰か戻って来たよ!おねぇちゃんかな?」
コルルが嬉しそうにトタトタとドアの方へ走っていく。
「ほ、ほら、なんともなかったじゃねーか」
ネロも早く相手を確認したいがために、立ち上がりゆっくりドアの方へ向かっていく。
――しかし、随分荒っぽい、ドアの開け方だったな
そう思った直後だった。
「うわぁ⁉︎」
ドアの方から小さな悲鳴が聞こえた。
ネロが向かうと、そこにいたのは腰を抜かして涙を溜めているコルルと、まだ小さい子供のコルルに容赦なく剣を向けている二人組の兵士だった。
「お?なんだ?子供は一人と聞いていたが二人いるじゃねぇか!」
「しかも、妖精もいるのか。こりゃゲルマ様へのいい手土産も増えるぜ。」
まるで宝でも見つけたような兵士の口調にネロは少し苛立つ。
「なんだおまえらは?」
「おい、ガキ、口を慎め!我々は偉大なる貴族、ゲルマ公爵の精兵だ、貴様らは税を払えない町の者に売られることになったのだ。」
「恨むなら金を払えない町の奴らを恨みな」
――金がない?
その言葉にネロは眉をしかめる。
確か先ほど町の奴が金をそれなりに貯めてあると言っていた、それでもないというのはこいつらが法外な金を、要求してきたという事だろう。
「おい、待て。そもそも俺はこの町の者じゃない、俺はミディールの貴族だ。」
ネロは兵士たちに自分の身分を伝える。しかし……
「それがどうした?」
「……はぁ?」
予想外の言葉に思わず声を漏らす。
「さっきの小娘といい貴様らミディールの貴族は勘違いしてるやつが多いようだな?」
「……勘違い?」
そして小娘という言葉にもネロは反応する。
「そうだ、貴様らがミディールでどんなけ位が高ろうが、所詮弱小国家の田舎貴族、兵士長の言葉を借りるならば、貴様らの価値などアドラーの平民程度の価値しかない!貴様らの身分などあってもないようなもの、そして、そんな平民程度の価値しかないものを我々がどうしようと勝手だと言うことだ!」
「……」
「フン、分かったならさっさと来い!痛い目にあいたくなければな」
ネロが黙り込むのを観念したと解釈すると、兵士たちは、まずコルルの方へ手を伸ばす。
そしてコルルの腕を掴もうとした瞬間、その手をネロの手がつかんだ。
「おい、ガキ、邪魔をすると容赦せんぞ!」
「…………が……だって?」
「はあ?なんだって?」
「だぁれが、平民程度の価値だってぇぇ⁉」
そのままネロが兵士の腕を握りつぶし、町中に断末魔が響き渡った。
――
そして現在、ネロ怒りは頂点まで達していた。
両手に手にした兵士たちが、わずかながらも息をしているのは、コルルの目の前で殺しは見せたくないという、ネロの理性が、かろうじて残っていたからだろう。
ネロはそのままゆっくりと兵士たちがいるところへ近づいていく。
「な、なんだ貴様は⁉」
「なんだ貴様は?って?……貴様らこそ何様だぁ!同盟国である国の貴族を奴隷に売り飛ばそうとするなんてよぉ!まさか貴様らがここまでバカだったとはな!こんなにムカついたのはあのクソババァに殺害企てられて以来だぜぇ」
そう怒鳴ったネロは、怒り任せに片方の手に持った兵士を相手に向かって投げつける。
ぶつけられた兵士は投げられた兵士と共に奥の建物まで吹っ飛んでいった。
「な、なんだこいつは……」
「あ、ネロ!あれ見て!」
ネロの横からひょっこり出てきたエーテルが、指差す方に目を向けると、エレナが貴族に腕を掴まれていた。
「貴様ら……俺の連れに気安く触ってんじゃねーぞ!」
そう叫びながらもう片方の兵士をエレナを掴んでいる兵士に投げつける。
そして先程と同じようにその兵士も向こう側まで吹っ飛ぶ。
「ネロ!」
「エレナ、危ないから離れとけ」
「あ、う、うん。」
解放されたエレナは頷くと、すぐさまその場から離れていく。
「お前らも巻き込まれたくなかったら離れろ!」
ネロの言葉に街の者達も、その場から距離を取る。
兵士の周りから住民たちが離れているのを確認すると、ネロは指の骨を鳴らしながら兵士たちに一歩一歩近づく。
「え、ええい!相手はたかが弱小国家の貴族だ!我らがアドラーの精兵が負ける訳がない!殺しても構わん!あのガキに魔法を総攻撃だ!」
バルボスの命令に全員が魔法を唱え始める。
「放て!」
「ファイヤーランス」
「エアドライブ!」
「ボルトキャノン!」
中級から上級の攻撃魔法をネロに向かって放つ。ネロはそれを一切避けずに手だけで弾いていく。
「まるで効いていない⁉︎」
「化け物かよ!」
「怯むな!そのまま打ち続け――」
「しゃらくせぇぇ‼︎」
ネロが地面に指を突っ込むと、そのまま兵士たちのいる地面までを持ち上げる。
そしてそのまま上空へと投げ飛ばした。
「む、無茶苦茶だぁ―⁉。」
上空へ打ち上げられた兵士たちは悲鳴を上げ、数十秒間の滞空時間を過ごすと、そのままネロの後ろへと落下していった。
ネロは敵の全滅を確認すると、一つ息を吐き、エレナの方に足を進める。
「エレナ、無事か?」
「う、うん、大丈夫……大丈……」
そこまで言うとエレナの口が止まる、そして……
「ご、ご、
そう言うとエレナは年相応の女の子らしくその場で泣きじゃくる。
人目気にせず泣くエレナの姿に、ネロもエレナが無理をしていたことに気づくと、ちいさな声で「すまなかった」と呟き、子供を慰めるように、エレナの頭をそっと撫でた。
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