第42話 妖精の依頼
ネロ達は妖精の話を聞くために落ち着いた場所を探しに移動する。
先程の場所には敵の死骸があるので話をするには少し目に毒であった。
とりあえず入り口の方へ向かって歩いて行くと、途中少し広い場所を見つけたので、三人はその場所で話をすることにした。
二人の注目が集まる中、妖精は一度深呼吸をすると、ゆっくり語り始める。
「まず自己紹介からさせてもらうわね。私はエーテル、妖精族の王女なの。」
――王女か、なるほどな。
何故女王でもないこの妖精が毒耐性のスキルを持っているのかと思っていたが、これで理解する。
王女も次期は女王となる、そう考えるとスキルは一子相伝と考えた方が良いだろう。
「へえ、王女様なんだ!」
「そうよ、敬ってもいいのよ?」
――この高慢なところは確かに王女っぽいな
「まあ、なんでもいいからさっさと要件を言え」
「わ、わかっているわよ」
そう言われると、エーテルは一度咳を入れる、それを切り替えのスイッチにして真剣な表情で話し始めた。
「実はあなた達にお願いがあるの。私達の国を助けて欲しいの!」
唐突なお願いにネロは少し眉を顰める、一応今の状況的には自分はこの妖精を殺そうとしている立場にあるのだが、まさか助けを求めてくると思っても見なかった。
ただ話を聞かないと何とも言えないのでとりあえずネロはエーテルと名乗った少女の話に耳を傾ける。
「私たち妖精の国は今、ガゼル王国の残党の侵攻により危機にさらされているの」
「ガゼルってあの獣人族の国だったよな?」
「でも先にあった
ガゼル王国…セスラ大陸より南にあるタイタン大陸にある獣人族が集まりできた国だ。
タイタン大陸は少し気候が難しい場所であり、そこに住むには普通の人間では難しく、獣人族の他に、龍の血が混じってる龍人族、小柄で地下に住むことに特化したドワーフ族とと言った主に形の進化を遂げた種族達が生きる大陸である。
そしてガゼル王国は、龍人族との間で起こった争いにより、十年前に滅んでいたのだ。
「そう、生存争いに負けた獣人族たちは行き場を失うと、世界各地に分散していったわ、あるものは人間の国で人間達と暮らし、あるものは宛もなく世界を旅して、そしてあるもの達は王国復興を目指し動いている。そして王国の復興を狙う奴らが今標的にしているのが、あたしたちの妖精の国なの。」
そう話すとエーテルは、標的にされていることを再認識し、唇を噛みしめ、悔しそうな表情を見せる。
なぜ自分たちが狙われているのか?それは妖精界がこの世界と離れた場所にあり、比較的安全な場所であるからだろう。
ただ、エーテルはそれだけではなく単純に自分たちが弱いからだと考える。
ステータスも低く、とんでもなく強い魔法が使えるわけでもない、他の種族と比べて長けているのは身を守るための補助魔法や幻覚魔法、そんな自分達だからこそ狙われたと考えるとエーテルは悔しくてたまらなかった。
「そして、そのことにいち早く気付いた私の、母……つまり妖精の女王は、妖精界とアムタリアを繋ぐ入り口を全て封鎖したの。」
「でもそれならもう大丈夫じゃないの?」
エレナの質問にエーテルは元気なく首を振る。
「それがどうもそうはいかないみたいなの、どうしてかはわからないけどガゼルの奴らは、どうやら妖精界への入り口を開ける方法を持っているらしいわ。妖精界への入り口は、今は魔法で隠してあるけど見つかるのも時間の問題、だから女王が、見つかるまでにかつての友人に助けを求めるために、人間界に私を送り込んだの。」
「その友人って人ならどうにできるのか?」
「うん、なんかおかあ……女王の友人で、一度前にも同じように危機が起きた時に助けてもらったことがあるんだって。」
「その人の名前は?」
「って人よ」
その名前を聞くと二人は自然と険しい表情になる。
エドワード・エルロンはこの世界の人間なら誰もが知っている名前だった。
確かにその者なら何とかできるかもしれない、ただその者に助けを求めるのは無理だと悟った。
エドワード・エルロン……
二人の表情からエドワードの事を知っていると察すると、エーテルはそれを踏まえて話を続けた。
「私たちは人間の寿命をあまり把握できていなくて、生きてると思っていた、でもこっちにきて調べたらすぐにいないとわかったわ。それで、一度おかあ……女王にそのことを話そうと帰ろうとしたところを待ち伏せされた奴らに襲われたの、私なら入り口の場所を知っているからって……」
一度今までの経緯を話し終える、そしてエーテルは改めてネロたちに依頼を申し込む。
「それで二人には是非一緒にそのガゼル軍と戦ってほしいの!」
エーテルの必死の訴えにネロは無言になる。
はっきり言って今の状態ではネロが助ける理由は全くない。
確かに、妖精の国を狙おうとする獣人族は不条理に見える、しかしこれはどちらが悪という話でもない。
生き物が生きるためとして弱者から場所を奪うのは自然の摂理だ、そしてそれに理由もなしに介入できるわけがない。
もちろんそれはエーテルも分かっているだろう、だからネロはその後に続くエーテルの言葉を待ち続けた。
「……勿論見返りもちゃんと出すわ、その前に聞きたいんだけどあなたってたしか毒耐性が欲しいって言ってたわよね?」
「ん?ああ」
「だから、もし助けてくれたらフェアリーリングを渡そうと思うの」
「フェアリーリングって?」
「フェアリーリングは妖精界に代々伝わる王冠の事、人間たちには指輪として効果がありそれを身につければ
「オールクリア⁉」
ずっと冷静に聞いていた、ネロが思わず声を上げる
――それはつまりすべての状態異常が無効化されるって事なのか
「そう、どう?この条件なら断る理由ないでしょ?」
確かにそれが本当ならこれほど魅力的な話はない、毒耐性どころか全ての状態異常を防げるならあとは呼吸スキルを手に入れるだけで自分の最低限の目的は達成されるし、レミナス山にも十分登れる。
「でもそんなの渡していいのか?かなり大事なものだと思うが……」
「いいのよ、このままいけば妖精は滅んじゃうんだから、で?どう?この条件で引き受けてくれる?」
エーテルが真剣な目でネロの回答を待つ、そしてエレナも心配そうな目でネロを見つめていた。
「……まあ、それなら断る理由も見つからねえしな。」
「じゃあ……」
「その前に一つ条件がある、俺の方にもタイムリミットがある、俺は最低でも二年以内には旅から戻らないといけない、だからもし一年半の間に解決しなかった、その時は……」
「う、うん、わかった、それでいいわ。」
「なら、契約成立だな」
その言葉を聞くと、笑顔を見せた後、エーテルは緊張が解けたのか体の力が一気に抜け、その場ににへたり込んだ。
「よ、よかった……私、生き延びれたのね……」
うつむきながら、目を潤わせたエーテルがここで初めて本音をこぼした。
殺せなど、軽口をたたいて死ぬのを何ともないように明るく振る舞っていたが、彼女は戦士でも何でもない。
ただの少女なのだ。
――やはり生きたかったのだな。
今の姿を見て、そう感じた、ネロも殺さずに済んだことに嬉しく感じた。
「それじゃあ、改めて自己紹介をするね、私はエレナ・カーミナルよ、よろしくね。」
「名前が長いからネロでいい」
二人で自己紹介をすると、少し落ち着きを取り戻した、エーテルはエレナの名前に食いついてきた。
「カーミナル⁉︎もしかしてセナス・カーミナルの⁉」
「それは私のご先祖様だけど知ってるの?」
「うん、だってセナスもエドワードと一緒で、お母さんの友人だもの。お母さんがよく話してたわ、彼女は少しおかしなところがあったけど凄く純粋で素晴らしい女性だったって。」
――おかしくて純粋ねぇ……
そう聞くとネロは妙に納得する、そこにいる子孫がまさにそのままだからだ。
「なら私たちも仲良くなれそうだね!」
「そうね!」
二人が盛り上がっているのを見ると蚊帳の外にされたネロが、露骨な咳払いをして会話を止める。
「で、どうやっていくんだ?ここから行けるのか?」
「それは無理、この入り口は、私が逃げる前に破壊しておいたから。」
「じゃあ、どうするんだ?」
「大丈夫、入り口は一つじゃないわ、入り口となる場所は各大陸にいくつかあるの。次にここから近いのは、アドラー帝国の帝都、ヘクタスの近くの場所よ。」
「ヘクタス……」
ここから歩いていくと、早くても三か月はかかる場所だ。
「どうやら、長旅になりそうだね、改めて宜しくね、ネロ、エレナ!」
「うん、こちらこそよろしく、エーテル」
そう言ってエレナとエーテルが楽しそうに笑いあう。
その二人とは裏腹にネロはめんどくさそうに、溜息を吐く。
こうして、次なる目的ができてしまったネロ達は、新しい旅の道連れを連れて、一度オルクスに戻ることにした。
……ただ、今、オルクスの町では、もう一つの問題が起こっていた。
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