第34話 ホーセントドラゴン
「大丈夫かなぁ、お兄ちゃんたち」
鉱山の外で待機しているコルルが心配そうにつぶやく。
ネロが中に入ってからおよそ一時間、未だになんの音沙汰もなかった。
他の者たちは、中の構造を教えていなかったのが不安の様で、何人かが後を追おうとするがその都度、周りに止められていた。
エレナは少し心配になり、確認を取るために、ボイスカードを使おうとするが、すぐにやめる。
変に心配すればネロに信用がないと、怒られてしまう、それにもしなにかあったなら向こうから繋いでくるはずだ。そう考えるとボイスカードをしまった。
しかし、その直後、鉱山の中から周りをも震わすような、大きな咆哮が聞こえた。
「この声、まさか奴が出たのか⁉」
「おいおい、あいつらは大丈夫なのか?」
周りがざわつき始める中、心配そうに入り口を見つめるコルルの肩をエレナはそっと抱いた。
「大丈夫だよ、ネロは強いから」
そう言って優しく微笑む。
自分が不安な顔をすればコルルも不安になる、何も心配することなんかない、ネロの強さは自分が一番よく知っている。
エレナはただ無心になって、ネロの帰りを待っていた。
――
一方、そんな外の者の不安をよそに、突如現れた巨大な敵に対してネロは緊張感のない反応を見せていた。
そもそも本来の目的はこのモンスターの討伐だった、しかしいつの間にかレンジとの会話につい熱くなり完全に忘れていたのだ。
――まあ、別に問題はないか。
姿は暗くて見えないがおそらくはホーセントドラゴンで間違いないだろう。
そう考えると、ネロはすぐに戦闘態勢を取る。
「とりあえず、邪魔だから離れていろ」
「こいつに勝てるのか?」
「逆にどうやったら負けるのか教えてもらいたいもんだな」
そう自信満々に言ってみせると、レンジが離れたのを見計らいネロはすぐさま敵の懐に飛び込んだ。
――あまり、きつく殴ると体が弾けて、調べる時、エレナが文句言いそうだからな、このくらいでいいだろう。
ネロはかなり力を抑え、相手の腹部にに一撃をを入れる。
その拳が当たると同時に、後ろにいるレンジまで伝わるほどの激しい衝撃と轟音が起こる、そして殴られた相手はそのまま遠くまで吹っ飛んでいった。
「す、すげぇ……」
レンジが漏らした無自覚の賞賛の声に、ネロは少し得意げに誇ってみせる。
「ま、俺にかかれば、所詮こんなもんだろ、これで仕事はおわ――」
勝ち誇り、相手に背中をを見せたその瞬間、巨大な爪が、ネロを弾き飛ばす。
完全に油断していて一切受け身を取っていなかったネロはそのまま横の壁に強く叩きつけられた。
「お、おい、大丈夫か⁉」
砂塵で見えなくなっている部分をレンジは心配そうに見つめた、そして砂塵が晴れると、ネロが壁にもたれかかった状態で倒れていた。
――……ふう、ビビった。
ネロは何事もなかったかのように、すぐに立ち上がり、服の土を払う。
「お前……何ともねえのか?」
「今のでどうやったらそんな心配を……あぁ⁉」
余裕を見せていたネロだったが、土を払っていると突如、声を上げた。
――服が破れてる⁉
ネロが服の裾が破れているのに気づき、思わずショックを受ける。
少し前に服は丁重に扱おうと決めていたばかりなのに、早速破ってしまい落胆した。
ネロの着ている服は動きやすいだけで戦闘に特化した服ではない、
見た目を重視したただの普通着なのだ、防御力はおろか耐久力もほぼゼロに等しい。
暫くショックで立ちすくんだ後、その怒りをホーセントドラゴンにぶつけた。
「てめぇ許さんぞ⁉何がドラゴンだ、トカゲの分際で!絶対ぶっ殺してやる」
そう言って地面を強く蹴ると、そのままホーセントドラゴンに突っ込み、相手の顔面目がけて、勢いよく蹴りをかます。
先程より圧倒的に強い攻撃の衝撃に今度は、鉱山全体が揺れ、攻撃を受けた相手は、鉱山の最奥部の行き止まりまで飛んでいき、更に壁を突き抜けて、目視では確認できないところまで行ってしまった。
「……」
あまりの凄さにレンジ口を開けたまま固まっている。
戦闘に長けた者はここまで強いのか、これが戦いを生業としている者達の強さなのかと、自分が喧嘩を売っていた相手はここまでの相手だったのかと、自分の無謀さを実感した。
「さ、流石に倒したよな?」
レンジが恐る恐る尋ねる、しかしネロはまだ表情を緩めていなかった。
――おかしい
ネロはさっきの感触に違和感を感じた、今まで何千という敵を殺してきたが、その時にもちゃんと相手を『壊す』手ごたえがあった。今の攻撃も相手を貫くつもりで蹴ったが、感触はまるで固い壁を蹴った。そんな感じだった。
ネロがしばらく敵が飛んでいった方を見つめる。
静寂がしばらく続いた後、再び大きな振動と共にドスドスと鈍くて素早い足音が聞こえてきた。
先程吹き飛ばしたホーセントドラゴンが勢いよくこちらに向かって来ている。
そして先程の仕返しと言わんばかりにその巨体でネロを吹き飛ばす勢いで突進してきた、そしてネロに向かって勢いよく頭突きをかます。
ドォォォォン!
まるでダンプカーが轢き殺す気満々で突っ込んできたかのような音が鉱山の中で響く。
しかし、今度はしっかり身構えていたネロはホーセントドラゴンを片手で止めると、そのままガッチリ固定した。
――おかしい、いくら何でもおかしすぎる。
ネロの先程の攻撃は大体の敵なら一撃で葬れる威力で放った、しかし、こいつは全くダメージを受けていない。
今の相手の攻撃も威力はあったが、自分のダメージを与えられるほどの力はなかった。
このホーセントドラゴンに自分の攻撃を耐えられるほどのステータスがあるとは到底は思えない。
――確か身体に付いてる鉱石でレベルが変わるんだったな確か一番強いのでアダマンタイト……鉱石?
何かに気づいたネロは、自分に抗いているホーセントドラゴンにそのままサーチを唱える。
ホーセントドラゴン
レベル一七〇ドラゴン族
ステータス……
頭に流れてくる敵のステータス、どれも今まで戦った敵の中で一番だ。しかし、それでもネロの攻撃を耐えきれるほどのステータスではない。
ネロはそのまま解析を続ける。
…………所持スキル、
『物理攻撃無効』
「やっぱりか!」
ネロが思わず叫ぶ。
――クソ!なんてことだ!
余裕を見せていたネロの額に汗が流れ始める。
――間違いない、こいつの身体に付いてる鉱石は……
――アルカナだ
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