第二章 ネロ・エルドラゴ編
第21話 二度目のプロローグ
異世界アムタリアの中心部にある小さな大陸『セスラ大陸』
そしてその大陸にある国、ミディール
国土も軍事力もそこそこ、ルイン王国やアドラー帝国と言った軍事国家があるイスンダル大陸とは離れた大陸にあるこの国は、非好戦的でアムタリアにある大国の中では比較的安全な国と言える。
商業に力を入れ、様々な国との交流もあることもあり、世界で最も自由な国と呼ばれていた。
そんなミディールの領土の中にある小さな孤島、ガガ島。人口は少なく、漁業が盛んな島である。
そしてこの島は、昔からミディールの二つの貴族が治めていた。
島の中央にある港を境に、西側をカーミナル伯爵家が、東側をエルドラゴ伯爵家が、それぞれ治めている。
その島は今、一匹のモンスターが問題視されていた。
モンスターの名は怪虫デビルワーム。
体長は、およそ五メートルから十メートルのミミズ型のモンスター。
先端にある牛ですら一飲みにできるトンネルのような大口には、無数の牙が生えており、その口からは岩をも溶かす液を吐く。
冒険者協会『ギルド』が認定した危険度は、少し高めのBランクのモンスターだ。
本来は大陸にすむモンスターで、この島には生息していない。
恐らく鳥型のモンスターが幼虫を餌として連れ去った際に、この島に落としたのが育った、はぐれモンスターだろう。
そしてこの成長したデビルワームが今、島の人々や商人たちを襲い騒ぎとなっている。
島で討伐部隊を結成し挑むも返り討ちにあい、為すすべのない状態が続いていた。
そんな中、今一人の少年がデビルワームが住み着いていると言われている岩場に来ていた。
軽装ながらも高級感のある装飾の入った服装に、綺麗な白髪の髪と、日差しが強い島で育った影響か薄めの褐色の肌をした少年、そして顔や腕には、幼い頃にとった、無茶な行動によってできた傷跡が付いていた。
ネロ・ティングス・エルドラゴ。
ガガ島を収める貴族、エルドラゴ家の長男で、わずか十三歳の若さで領主をしている。
そして彼は、前世でカイルとして生きた二度目の転生の姿だ。
ネロは岩場の中央に立つと、辺りを見回した。
何かが暴れまわった形跡はあるが、今はいそうな気配はない。
――今はいないのか?いや、確かデビルワームは普段は地中に潜っているって
ネロはその場で足を高く上げると、地面を強く踏みつける。
踏みつけた衝撃が地面に伝わると、辺りの地面までもがビリビリと震えるように揺れた。
しばらく何も起こらない状態が続いた後、徐々に地面の中から何かがこちらに向かって近づいて来るような音が聞こえ始める。
ネロがその場から即座に離れると、先程立っていた場所の地面がピキピキと割れ始め、地面から巨大なミミズの様なモンスターが現れた。
そのモンスターは、ネロの姿を見つけると、口を開き、中にある無数の牙を動かした。
――これがデビルワームか、しかし聞いていた以上にでかいな
体長は大きくて十メートルと聞いていたが、その大きさは、明らかに倍以上はあった。
多分この島の環境が適していたため、普通より大きく育ったのだろう。
――これなら結構期待できるか?
ネロが不敵に笑い待ち構えると、デビルワームがネロに襲い掛かる。
巨大な体で勢いよく突っ込み、そのまま大口で呑み込もうとするが、その体をネロに片手で掴まれ止められてしまう。
デビルワームが体をくねらせ必死でもがくが、ネロはピクリとも動かない。
「サーチ」
ネロはもう片方の手で、二つしか覚えてない魔法の一つ、分析魔法サーチを唱えた。するとネロの頭の中にデビルワームのステータスが流れ込む。
デビルワーム 蛇種 レベル七十八……
――七十八もあるのか、そりゃ、この島の奴らじゃ手に負えないわけだ。
この島にいるモンスターは平均で二十~三十前後、島の主と呼ばれるモンスターですらレベルは五十手前、七十八もあるモンスターを倒せるわけがない。
ちなみに一般のデビルワームのレベルは四十前後である。このデビルワームなら間違いなくランクはA、もしくはA+だろう。
ネロはさらに解析を進める。
…………所持スキル なし
この情報を見ると、ネロは舌打ちし、そのままデビルワームを上空へと投げ飛ばした。
そして落ちてくる瞬間に敵の体に拳を一撃入れると、デビルワームはその一撃を受けた場所を境に、引きちぎれるように真っ二つに分断された。
初めは分断された両方の体が動き、もがき苦しんでいたが、時間が経つと徐々に元気がなくなっていき、最後には動かなくなった。
ネロはそれを確認するとデビルワームの死骸に近づき手を当てる。するとその死骸が輝き始め、その光がネロの手元に少しずつ集まり始めた。
そして光が集まりきり、球型の形になるとネロは光を飲み込み、自分のステータスを確認する。
ネロ・ティングス・エルドラゴ
レベル 三七三〇→三八〇八
ネロのレベルがデビルワームのレベルの分だけ上がっていた。
これがネロの持つの特殊スキル、『レベルイーター』
死んでいる者のレベル、スキルを喰らい、そのまま自分の物にするスキル。ただし、自分と同じ種族からは奪えない。
ネロはこのスキルを使い、五歳のころから島のモンスターを手当たり次第モンスターを殺しては喰い続け、レベルを上げを行なってきた。
おかげで、今じゃ雷を受けた程度じゃ傷一つつかないレベルまで到達していた。
デビルワームを喰らい、また一段と強くなったネロだが、不満そうな表情を見せる。
この世界には、どんなにレベルを上げても防げないものがある、それは『状態異常』
どんなに防御を高めても、体力があっても関係なく受けるのが状態異常。毒、麻痺、呪いなど様々なものがあり、中には即死なんてものまである。
麻痺程度なら市場に売ってるアイテムがあれば、簡単に防げるが、この世界での毒というのはゲームとは違い、何種類とあるので、防ぐのは簡単ではない。これを全て防ぐアイテムは国宝級のレアアイテムになる。
そして、他に状態異常を防ぐ方法としてあるのがスキルだ。
ネロはモンスターの持つ状態異常に耐性のあるスキルを狙うため、モンスターを喰らい尽くすが、この島には、スキルを持っているモンスターは少なく、状態異常の耐性のスキルを持ったモンスターはいない。
そしてたまに戦闘に不利なスキルを持つモンスターもいるので、ネロはあらかじめサーチをしてからモンスターを喰らうようにしていた。
――クソ、こんなんじゃだめだ、やっぱり外に出ないと。
つい最近十三歳になったネロは、かなり焦り始めていた。
ネロはデビルワームの死骸から体の一部をとると、家に帰るため来た道に足を進めるが、近くに誰かいる気配を感じるとすぐに立ち止まった。
「そこにいるんだろ?出て来いよ、エレナ。」
ネロがそう呼びかけると、岩場の陰から一人の少女が顔を出した。
「終わったの?」
煌びやかな金髪が背中まで伸びており、華やかな赤色のドレスを身にまとったエレナと呼ばれた少女。
同じ島で育ちながらも対策をしているのか、ネロとは違い、肌の色は綺麗な白に近い色をしていた。
エレナはキョロキョロと辺りを見回し、敵がいないのを確認すると岩陰から出て来て、服に着いた土を払った。
「……で?なんでお前がここにいんだよ?」
ネロは冷めた目でエレナを見る。
「え?だって、デビルワームを見てみたかったんだもん!西の大陸にしかいないモンスターだよ!普通は見られないんだよ⁉しかもこんなに大きいのは図鑑ですら見たことないよ!」
目を輝やかせながら、巨大ミミズの死骸を平気で触る少女にネロは若干引き気味になる。
そう、彼女はかなりのモンスターマニアだった。そしてデビルワームの特徴をネロに教えたのも彼女だ。
「それだけのためにわざわざこんなとこまでくんなよ」
「そ、それだけじゃないわ!それだけじゃ……」
そこまで言うと、勢いのあった口調が一気になくなっていき、何故かモジモジし始める。
「その、心配だったのよ……だって、わ、私は、あ、あ、あなたの……その……フィ、フィ、フィア……フィア……」
――またか……
ネロは、顔を赤く染めながらゴニョゴニョ言ってるエレナにため息をつくと、いつものように放置し、そのまま家に続く道を歩いていった。
彼女が我に返り、慌ててネロを追いかけてきたのは暫く後の事だった。
エレナ・カーミナル……西側を治めるカーミナル家の一人娘で、ネロの
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