第22話 旅立ち


「まさか、本当に倒したのか!あのデビルワームを……」


 西側の領主、リング・カーミナルがネロの持ってきたデビルワームの肉片を見て、驚きを隠せずにいる。


 ネロは今、デビルワームの討伐報告のためエレナの家でもある西の領主館カーミナル伯爵邸まで来ていた。


「本当よ!お父様、私達であの怪物を倒したのよ!もう本当にすごかったんだから」

「お前は何にもしてないだろうに……」


 まるで自分が倒したように誇らしげに語るエレナにネロがボソッと呟いた。


「ほら、私が教えた情報のおかげで倒せたじゃない?だからこれは私たちの手柄よ、つまり、二人のきょう……⁉」


 そこまで言うと何を思ったのかエレナがまた言葉を濁し始める。

 こうなると、暫くは話にならないので、ネロはエレナを放っておき再び話を戻した。


「とりあえず、約束は果たしました。これで旅に出てもいいですよね?」


 今回のデビルアームの討伐の目的は、元々エレナの父であるリング・カーミナルに旅立つことを許してもらうことにあった。


 ネロは幼い頃に両親を亡くしており、以後、父親の親友であり、婚約者の両親でもあるカーミナル夫妻が時折様子を見に来る形で面倒を見ていた。


 一応現在の東側の領主は名目上はネロが領主だが、実質的にはカーミナル夫妻が両方を治めていた。

 その事もあって、ネロは二人に従っている。


「ふむ、そういう約束だったしな……いいだろう。」


 リングは少し渋い表情を見せるも、承諾した。

 しかしエレナの母親のアリサは心配そうに見つめていた。


「私にはまだ早い気がしてなりません、ネロ、せめて二年後、あなたが成人になるまで待てないのかしら?」

「待てません。」


 ネロは即答した。


「何故、そこまで急ぐ必要があるのだ?」

「生きるためです。」


 リングの問いにも真っすぐな目で力強く即座に答える。


 今度こそ死ぬわけにはいかない、ネロはこの十三年の月日を死から逃れるため、強くなる事だけにささげてきた。


 前世で知った自分の死は、半端な事では乗り越えられない。だからこそ、残りの二年も自分が生きるための努力に使わなければならない。


ネロの回答は傍から見ればふざけて言ってるようにも思えるが、その真剣な目を見たリングも、その答えを信義に受け止める。


「わかった、ならすぐにでも出れる準備をしよう、その代わり条件がある。一か月に一度は手紙をよこすこと、そして三ヶ月に一度はこちらに返ってくることだ。それが吞めたなら、明日にでも出発できるように準備しよう。」


リングの答えを聞くとネロは強く頷き承諾した。


「まあ、デビルワームを倒せるならそう簡単に死ぬことはないだろう。だが、油断するなよ。世界にはどんなに強くても人である以上超えられないものがある。お前の両親のようにな。」


――両親ねぇ……


 ネロは両親の事を出されると少し顔をしかめる。


 ネロの両親も、元は武闘派の貴族で、ミディール国でも名の知れた武人であった。しかし、そんな両親もネロが三歳の時に、嵐の中の海原に飲まれ帰らぬ人となった。

 

 だがネロは両親にあまり関心が持てなかった。前世から記憶があると言っても、生まれてからの数年は普通と同じでほとんど記憶には残らない。

なので両親のイメージが湧かず、自然と前世の両親の方を彷彿させた。


「そ、その、ふ、二人の初めての……その……き、共、共、共同、作業って、やつかしら、?」


重苦しい空気が続いてた状態を、エレナがさっきのセリフを言い切って壊してくれた。

 数分かけて言い切った頃には、エレナの顔からは湯気らしきものも見られて、そんなエレナを見てリングが親バカの眼差しをしながら優しく微笑むと、和やかな雰囲気に変わった。

そして時間をかけて言ったエレナの言葉に対し、ネロはそうだな、の一言で終わらせた。


 ――大きさもレベルも違うかったし、液も吐かなくてほとんど役に立ってなかったけどな。


「まあなんにせよ、旅は今後、領主になるためのいい経験にもなるだろう。それに将来エレナを任せるのだからもっと立派になってもらわないとな。」

「ちょ、ちょ、ちょっとお父様!」


せっかく元に戻った、エレナが再び、顔を赤くし、パニックになり始める。


――昔はこんなこともなかったのに、これが思春期ってやつか。


ネロも無反応を装いつつも、表情は少し緩んでいた。

しかし婚約の話は、ネロ自身あまりよく思っていなかった。


 別にエレナが嫌いなわけではない。幼いころから知る仲ではあるし、性格も一つ年下ながらしっかりしている。

今はまだいろいろと幼いが、将来的には綺麗になるだろう。


 ただ自分が政略結婚に使われるのが許せなかった。

 元々代々ここを治める二つの一族は仲が悪かったが、自分達の親達の代では親友同士になり、両家に男女の子供が産まれたのを期に、二つに分かれた領土を一つにまとめるのが目的だった。


 自分の相手は自分で見つけたい、だが今はその事には何も言うつもりはない。

今はそんなこと以前にしなきゃいけないことがたくさんあるからだ。

 ネロは団欒とした場に無言で頭を下げるとカーミナル邸を、後にした





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