第7話 剣と権

 入学式が終ってから三ヶ月。

 カイルの評価は真っ二つに分かれていた。


 片方は貴族からの圧倒的な支持、そしてもう片方は平民からの強い反発だ。

 カイルが入学しておこなったのは、貴族と平民の徹底的な区別・・


 貴族と平民に格差をつけるため、あらゆる制度を作った。食事をする際は、平民を地べたで食べさせ、 廊下などで平民が貴族とすれ違う時は、頭を地面に着けさせ、立場の違いを徹底させた。


 これに対し反発するものには、貴族としての権力を、そしてそれに屈しないと言うものには実力で。

 カイルの持つ二つの力で平民達をねじ伏せた。


 身分による貴族と平民のいざこざは毎年あるもので、その都度教師達が止めに入っていた。

 だが、三大貴族、モールズの威光の前には、見て見ぬふりをすることしかできなかった

 そしてこの三ヶ月でこの学園の大半の平民達が貴族達に屈服する形となっていた。





――学園内食堂


「ふむ、大分、形になってきたんじゃないか?」


 オズワルトとベルベットの三人で食事をしながら、カイルは周りを見渡す。

 机にに座っているのは皆白い制服ばかり、そして茶色の制服を着た生徒は言いつけ通り、皆地べたに座り込んで無言で食事をしている。


「そうですね、ここ三ヶ月で見事に変わりました、これもカイル様の行いの賜物です。」


 オズワルトの褒め言葉にカイルは少し誇らしげにする。


「まあ、変わったのは学園だけじゃないんだがな……」


 カイルはそう言うとオズワルトを見上・・げた。

 入学して、三ヶ月、オズワルトは成長期に入り、入学当初、同じくらいの身長だったカイルと今や十センチ以上の身長差がついていた。


 カイルが身長を気にしていることに気づくとオズワルトは何やら申し訳そうに縮こまる。


「オズワルト、あなた、縮まりなさい」

「む、無茶言うなよ、ベルベット。……大丈夫です!カイル様もしばらくしたら私と同じくらいまで伸びますよ。」

「馬鹿親父に似たなら伸びそうだがお袋だったらなぁ……」


 カイルはふと母親のことを思い出す。


 今は亡きカイルの母親、エミリア・モールズは見た目はとても綺麗だったが、身長が少し低めだった。 顔も母親似のために美形になったカイルだが、その分、身長も母親に似ることも十分にありえる。


 カイルだって決して伸びていないわけではない、入学当時に比べたら十センチ以上伸びている。

 ただオズワルトは二十センチ伸びていて未だに記録更新中なのだ。


 

 カイルはオズワルトを見た後、その隣で綺麗に肉を切り、小さく頬張る、同じ顔をした女子を見る。

 身長は初めこそ、オズワルトと同じ位に伸びていたが、やはり女子ということもあり、途中で勢いはなくなり今ではカイルとちょうどいい感じの身長で止まっている。


「双子の癖に身長は似ずに胸だけは似やがって」


 今だ成長が見られない彼女の胸を見て小さくつぶやく。

 そんなやり取りをしながら食事をしていると、食堂の入り口から雄たけびのような声が聞こえてきた。


「カイルモオオオオオオオオオオオルズ!!」


 怒鳴るように自分の名前を呼ぶ声に、双子の二人が身構える。カイルは食事の手を緩めず顔だけその方向に向ける。


 そこを見ると、まさに鬼のような形相をした平民の男子生徒が立っていた、手には鞘から抜いたむき出しの剣を、それも模擬刀ではなく本物に剣を持って。


「おい貴様!下等な平民無勢がカイル様に刃を向けるとは何事だ!」

「場合によっては、ここにいられなくしますよ?」


 発狂する男とそれに対応する双子のやり取りを、カイルは他人事のようにご飯を食べながら見守っていた。


「貴様……よくもオゼットをあんな目に!」

「オゼット?」


 聞き覚えのない名前にカイルは首をかしげる。


「確か先日カイル様に無礼を働き粛清した平民の事ですよ」


 ベルベットの答えにカイルは、あぁと呟き思い出す。

 数日前、一人の平民の女子生徒とぶつかった際、相手が会釈だけの謝罪で済ませたことにより、その女子生徒を血祭りにあげた出来事があった。


 その少女の名前がオゼットだったという。


「あれは、あの平民がカイル様に無礼を働いたからやられたこと、当然の報いだ。」

「……あいつはなぁ……生まれた時から盲目なんだよ……」


 カイルは盲目という言葉を理解できず、ベルベットに目で助けを求める。


「盲目というのは目が見えないってことですよ」

「ああ、なるほどね……つまりあいつは欠陥品だったって事か?」


 カイルの言葉に今にも飛びかかりそうになるが、その思いを殺して会話を続けた。


「そのような奴が何故騎士団学校なんかに入学したかが理解しかねるがな」

「オゼットは……、この国の役に立ちたいと言ってここに入学したんだ、例え目は見えなくても、戦う兵士たちの手助けはできるって、負傷した兵士たちを治すために、盲目で魔法文書が見えない状況下でも必死で治癒魔法を覚えて……国に仕えるヒーラーになるために入学したんだよ!」

「そんな、欠陥品役に立たないだろ、いたところで邪魔になるだけだ、国のためを思うってんのなら邪魔にならないように慰安婦でも目指せばよかったんだよ。」

 

 カイルの言葉に男は言葉にならぬほどの怒りを覚えた男は我慢の限界を超え、カイルに向かって突っ込んでくる。

 そして、カイル目がけて剣を振りぬいたところを、ベルベットに止められた。


「八つ当たりはやめなさい、今回の件、あなたや周りの者がしっかりしていれば防げた問題、恨むというのなら防げなかった自分を恨みなさい。」

 

 ベルベットの理不尽な言い分に男は矛先を彼女へと変える。

 しかしベルベットとの力の差は圧倒的で、剣を数戟交えたところで剣を弾き飛ばされ、男も遠くへ蹴り飛ばされた。


「ベルベット、殺しはするなよ」

 

 彼女からの返事を聞いた後、カイルたちは再び食事へと戻る、しばらくすると男のいるところから殴るような音が聞こえてきた。


「しかし、あいつだけに限らず、平民たちは学習能力がないな、黙って従えば痛い目に合わないで済んでるのに」


 カイルが襲われるのは最早日常となっている、現状に反発する者たちが手を組んで定期的に襲ってくるのだ。

 剣士、アーチャー、魔法使い《キャスター》、国の兵士を目指す学校だけあって様々な職業見習いがいるが、カイルはそれらを全て返り討ちにしている。


「やはりここは奴らの希望を断つためにも、奴らの一番の実力者のレギオスを叩くのがいいかと。」

「誰だそれ?」

「レギオス・ブライアン。高等部にいる平民出身の男です、この学園最強と呼ばれており、平民達はその男ならカイル様を倒せると思ってるみたいです。」

「へぇ……そんな奴がいるのか……ん?ブライアン?」


カイルは聞かされた相手の下の性に反応する。ブライアンという性はルインでも一人、有名な者がいるからだ。


「ええ、ルイン王国将軍、グランツ・ブライアンの息子ですね。」


その名前にカイルが一気に食いつく。


 グランツ・ブライアン

 ルイン王国将軍にして王国最強と謳われる男だ。

 平民出身の出で、剣の実力で成り上がりを果たした男で、そのため貴族からは煙たがられている。

 カイルも幼少時代に一度手合わせしたことがあり、その時は敗れている。

 今戦えば十中八九自分が勝つと思いつつも、その強さは評価している。


「そうか、グランツ将軍の息子か……少し交えてみたいな、そろそろこの馬鹿げた抵抗にも、嫌気がさしてたところだ、あとで早速行ってみるか。」

「残念ながら今はいませんよ」


 粛清を終えたベルベットが元に座っていたところに戻り話に入って来る。

 男のいた方に目を向けると、そこにはまるで体中に模様のように青じんだ痣を作り、顔が分からなくなるほど腫れ上がった男が横たわっていた。


「いないってどういうことだ?」

「どうやらここしばらく学校には来ていないみたいですよ。」

「逃げたのか?」

「いいえ、何やらカイル様と戦う準備を進めているそうです。」

「へえ……」


 一体どんな準備をしてくるのかとカイルは少し楽しみを覚えた。


「いかがします?探し出しますか?」

「いいよ、そんなこと、わざわざ特訓中の邪魔をすんのは礼儀知らずってもんだ、準備ができるまで待ってやろうじゃないか。」

「流石カイル様、本当に心が広い」

「俺は強い奴は嫌いではない、待って強くなるならいくらでも待ってやるさ」


 万全の状態の最大戦力を完膚なきまでに叩く。それこそが敵の戦意を消失させるには最も手っ取り早い方法だ

 カイルはレギオスと戦える日を楽しみにしながら

 いつものように襲ってくる相手を叩き潰していった。

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