第501話維摩問答 維摩登場、そして策を練る。

維摩は、古代インドのヴァイシャーリー大都市に在住していた大富豪。

彼は信仰深い仏教徒ではあるけれど、在俗を貫き、出家はしない。

豪華で広大な屋敷に住み、妻子や使用人たちと暮らしていた。


そして、維摩は素晴らしい才能と情熱、そして資産を持っていたけれど、それらについては、全てを人を助けるために使うと固く決心をしていた。

現実として、維摩は貧乏な人には豊かな財から施し、悪に走る人には道理を教え、怠惰な人を心底励ますなど、目に入る全ての人に対して、それぞれの状態や状況に合わせた指導を行い、彼の人徳はあまねく、素晴らしい評価を得ていたのである。


そのような生活の中、ある日、維摩は、立ち止まって考えてみた。


「今まで私は、様々に活動をして、様々な人たちを指導してきたけれど、その期間も実に長くなった」

「少し、マンネリ気味とも思う」

「そうなると、少し活動の方向を変えよう」

「私が病気で寝込んでいるという噂を流せば、逆に人が心配して、自分たちの方から私のところに集まってくるのではないだろうか」


その考え通り、維摩が「病気で寝込んだようだ」との噂が広まると。国王や大臣を資産家やその家族たちなど、全ての階層の人たちが、数え切れないほど多く維摩の屋敷に集まってくる。


この策により、人々を待ち構えていた維摩は、病気を題材として説教を行い、またしても素晴らしい評価を得ることになった。


しかし、この策の大成功のなか、維摩には、もう一つの考えが浮かんだ。


「確かに、このように「病気で寝ている」噂を流すことによって、たくさんの人が来てくれて、たくさんの人たちに仏の教えを説くことができた」

「その中で、そもそもの釈迦様は、私を見舞いにきてくれないものだろうか?」



※維摩は出家した僧侶ではなく、あくまでも在俗を貫いた。

 在俗がゆえに、当時の僧侶では考えられない妻子もいた。

 それどころか、酒場、博打場、妓楼にも姿を見せた。

 しかし、誰からも憎まれるどころか、大歓待を受け、尊敬を受けていた。

 つまり、どんな場所においても、その精神が汚れることなく、俗世に生きる人々の光となった人であった。


※次回以降、維摩を、できるだけ、わかりやすく書きます。

 維摩の快刀乱麻に、ご期待ください。

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