助六とちらし寿司

@bouboucha

助六とちらし寿司

 休みの日にスーパーへ買い物に行くとつい寿司総菜のコーナーに立ち寄る。たまに気まぐれで助六を買い物かごに放り込むことがある。

 私がまだ小さかった頃、寿司はご馳走だった。

 祝い事とかあると決まって寿司が食卓に並んだ。ただ、並ぶのは太巻き、稲荷、ちらし寿司と決まっていた。それでも大喜びで食べた記憶がある。

 母親に「今日はお寿司だよ。」と言われただけで大はしゃぎだった。

 台所は狭いので、ほとんどの作業はちゃぶ台の上で皆が見守る中行われる。

 まず、酢飯を作る。

 炊きたてのごはんをほぐし、冷ましながらお酢と砂糖、少しの塩を合わせた物をかけていく。甘酸っぱい香りがわくわく感を煽る。

 寿司の具は甘く煮付けた油揚げと椎茸、薄焼き卵、桜でんぶ、キュウリ、これがすべてだ。

 まず太巻きを作る。巻きすにふきんを掛け、海苔を敷く。酢飯を広げ、細長く切った、薄焼き卵、キュウリ、煮付けた椎茸を並べて巻き上げる。

 次は稲荷寿司だ。煮付けた油揚げを半分に切り、酢飯を詰める。

 残った酢飯はちらしになった。余った椎茸、薄焼き卵、キュウリ、桜でんぷをかけるだけだが、ピンク色のでんぷがとてもうれしかった。

 兄弟でケンカしながら少しでもでんぷの多いところと取り合いになる。

 今思うと質素なのだが、とてもおいしかったのだ。

 ただ、中学生の頃には握り寿司なるものの存在を知るようになり、感動は急激に色あせ、あまり喜ばなくなってしまった。

 今では、スーパーで買った助六をほおばると、あの時のうれしさを思い出す年齢になった。私にとって寿司とは華なんだとしみじみ感じる。

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